マガジンのカバー画像

香水主観レビュー

17
その日の気分を高めてくれる香水。ニッチな香水を中心に主観レビューしていきます。
運営しているクリエイター

#香水

Aesopの新作Virēre発売。アザートピアスの悪夢は終わったのか

私にとってバーナベ・フィリオンらしさとは、草、木、土、水といった自然の恵みと人間の感覚を結びつける才能です。 イソップのフレグランスに失望してはや3年。2023年9月、アザートピアスコレクションが終わり、予想よりも早く新作「Virēre(ヴィレーレ)」がオンラインショップで先行発売されました。 イソップの11作目、フィリオンによる10作目のフレグランス。私にとって、過去の失望を払拭する作品になるのか否か。バーナベ・フィリオンが生み出す香りのファンとして、試香せずに購入する

日本初、Thousand Colours。気品と狂気のCypress Mask

日本の伝統的な香りの文化から生まれ、時代とともに進化を遂げてきたThousand Colours(サウザンドカラーズ)。 このブランドの起源は、1575年創業の老舗線香メーカー日本香堂です。同社は線香「星雲」のヒットで知られています。日本香堂が2018年に日本初の香水ブランドTOBALIを立ち上げ、2021年にはTOBALIのDNAを引き継ぐ形で現在のThousand Coloursが誕生しました。このブランドは、伝統的な和の香りを現代的にアレンジし、日常に彩りを添える多様

SHIROへの批判と環境意識。本当の価値に迫る

日本の伝統と現代性が融合した香りの世界へ。今回は、日本発のコスメティック・フレグランスブランド「SHIRO」の香水を紹介します。 SHIROは1989年に東京で誕生し、自然由来の原料にこだわった製品と洗練されたデザインで知られています。スキンケアからメイクアップ、そしてフレグランスまで幅広い製品を展開していますが、その根底にあるのは日本の伝統的な原料や植物由来成分への深い愛着、そして環境への配慮です。 お米、抹茶、酒かすといった和の素材を現代的に解釈し、ミニマリスティック

香りの異端児BYREDO。北欧ミニマリズムの奥に潜む大胆さ

BYREDO(バイレード)は2006年にスウェーデンのストックホルムで設立されたニッチフレグランスブランドです。創設者のBen Gorham(ベン・ゴーラム)は、インド系アメリカ人の母とカナダ人の父を持つアーティストで、プロのバスケットボールプレイヤーから転身した異色の経歴の持ち主です。 ゴーラムは調香師ではなく、クリエイティブディレクターとしてブランドの方向性を決定する役割を担っています。BYREDOの香水の多くはJérôme Epinette(ジェローム・エピネット)が

Maison Matineの反抗。オリジナルコレクション編

今回が最終回、メゾン・マティン(Maison Matine)のディスカバリーセットから、「オリジナルコレクション(6種)」のレビューをお届けします。 過去2回はこちらをご覧ください。 ボイジャーコレクション編 リフレッシュコレクション編 INTO THE WILD | イントゥ ザ ワイルド香りが紡ぐ物語は、東洋の賑わう市場から幕を開ける。鼻孔をくすぐる香辛料の刺激が冒険の序章を告げると、やがてその香りは、深い森に佇むオアシスへと誘う。清楚な白い花々の芳香が、スパイス

Maison Matineの反抗。リフレッシュコレクション編

今回は、メゾン・マティン(Maison Matine)のディスカバリーセットから、「リフレッシュコレクション(3種)」のレビューをお届けします。 メゾン・マティンの紹介と、ボイジャーコレクションをレビューした前回はこちらをご覧ください。 ボイジャーコレクション編 LOST IN TRANSLATION|ロスト イン トランスレーション春の陽光を浴びた森の中で、一服する旅人の姿が目に浮かぶ。清々しくも甘い緑の香りが、謎めいた旅人への興味を掻き立てている。 静寂の中、紅茶

Maison Matineの反抗。ボイジャーコレクション編

メゾン・マティン(Maison Matine)は、2019年にマリー・ケルーとアーチュー・ポンロアによってパリで創設されたニッチフレグランスメゾン。従来の工業的なものづくりから脱却し、新時代にふさわしい独自のフレグランス創造を追求することを目的として設立されたそうです。 ブランド名「MATINE」は「反抗と朝」をかけ合わせた造語だそうです。挑戦的でありながら、際立ち過ぎない個性があり、不意に笑みがこぼれるような新しさを感じる香りはとても魅力的ですね。ユニークな商品名と、現代

英国のエレガンス JO MALONE。レイアリング推しの本家

今回はJO MALONE(ジョー・マローン)。ブランド名のご本人であるジョーさん(女性)によって1994年に設立されたイギリスのフレグランスブランドです。ジョーさんが自宅のキッチンで手作りのフレグランス製品を作り始め、それが評判を呼んだのが起源とされています。 ジョー・マローンの最たる特徴は、セント レイアリング(重ねづけ)というコンセプト。単独でも他の香りと組み合わせても楽しめることを前提として調香されており、自分だけの組み合わせを探求できることを訴求しています。スタッフ

Laboratorio Olfattivo。マーケを捨てた香水界の異端児

「波長が合う」ブランドとの出会いは、まるで古い友人を見つけたような心地よさがあります。それは、しっくりくる感覚であり、自然体でいられる安心感。そして何より、その香りを纏うことで、自分らしさが際立つような喜びです。 今回は「香りをアートする嗅覚の実験室」と称されるLABORATORIO OLFATTIVO(ラボラトリオ・オルファティーボ)。いくつか試香して、まさに波長が合いそうなブランドだと感じ、手始めにニードユーを購入したことは以前に書きました。 このブランドをもっと深く

Kerzonの反骨精神。香水をもっと身近な存在に

ケルゾン(Kerzon)は、2013年に冒険と旅行を愛する二人の兄弟、ピエール-アレクシス・デラプラスとエティエンヌ・デラプラスによって設立されたブランドです。 NOSE SHOPのスタッフによると、もともと石鹸からスタートしているそうですね。本国では、家庭用香り製品やボディケア製品のブランドとしても知られており、 天然由来の成分を使用していること 環境に優しいこと 調香からパッケージまですべてフランス国内で手作りされていること などから、人気を博しているようです。

Aesopの香水は終わったのか。全10作、悲哀のレビュー

ぼちぼちイソップに触れないわけにはいきません。なぜなら、私が香水の沼にはまる原点だったからです。いつだったか忘れましたが、プレゼントを買いにイソップに立ち寄ったときに、初めてフレグランスを売っていることを知りました。 イソップのフレグランスづくりは失敗の歴史だったそうです。植物学や藻類学を学んだ調香師Barnabé Fillion(バーナベ・フィリオン)と出会ったことで、フレグランス作りの技術が抜本的に生まれ変わり、いまに至っているとのこと。その生誕ストーリーと謎めいたバー

NOSE SHOPオンライン限定! ふんわりムスクな香水

ムスクといえば、「さりげない」というよりも、これ見よがしに官能さを主張するものが多いという固定観念を持っていました。しかし、NOSE SHOPの「ふんわり」というワードに引き寄せられ、自分の決めつけが誤りなのかどうか確認するために、ミニ香水セットを購入してみました。 なお、このセットはNOSE SHOPがセレクトしたムスク系の香水9種類の中から3点を選べるものですが、購入時点でほとんどが売り切れており、残っていた3種類のレビューとなります。いずれもオードパルファム(EDP)

Maison Louis Marie。情景再現度バツグンの香水

香りには物語があります。それは、調香師の情熱、ブランドの歴史、そして私たちの記憶と結びついた豊かなストーリー。今日、多くの香水ブランドがその魅力的な物語で私たちを惹きつけています。音楽や芸術と同じように、香水もまた、その背景にある物語を知ることで、より深い感動と共感を呼び起こすのです。 今日は私が深くストーリーに引き込まれた香水ブランド、メゾン・ルイ・マリーです。NOSE SHOPの紹介文を引用します。 このヘリテージとストーリーに惹かれ、ディスカバリーセットを購入しまし

REPLICAへの偏見。ミニ香水セットで誤解を解く

「情動ヒューリスティック」。椎名林檎の曲名ではありません。感情的な状態に基づいて無意識に意思決定をしてしまう傾向のことです。速やかな意思決定が行える一方で、誤った判断を生み出すことがあります。 例えば、たまたま飲んだコーヒーが美味しくなかったとしても、全てのコーヒーにあてはまることではありませんよね。私がレプリカに対して持っていた偏見も、たまたま居合わせたスタッフの印象によるもので、まさに情動ヒューリスティックに基づいていました。 この誤った感情的判断をすっきりさせたくて