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香りの異端児BYREDO。北欧ミニマリズムの奥に潜む大胆さ

BYREDO(バイレード)は2006年にスウェーデンのストックホルムで設立されたニッチフレグランスブランドです。創設者のBen Gorham(ベン・ゴーラム)は、インド系アメリカ人の母とカナダ人の父を持つアーティストで、プロのバスケットボールプレイヤーから転身した異色の経歴の持ち主です。

ゴーラムは調香師ではなく、クリエイティブディレクターとしてブランドの方向性を決定する役割を担っています。BYREDOの香水の多くはJérôme Epinette(ジェローム・エピネット)が手がけています。

ブランドの特徴として、ミニマリズムを重視したデザインと、独特で印象的な香りの組み合わせが挙げられます。

触手のようなテープのパッケージにビックリ

今回、人気の定番から最新作まで、6本のサンプルを自分で選べる新ディスカバリーセットを購入しました。外せないと思ったものと変わったものを選んでいます。

それぞれの調香師は非公開ですが、下記サイトを参考にさせてもらいました。

すべてオードパルファン(EDP)ですが、香りの持続時間は製品によってまちまちです。体感になりますが、6本のサンプルの中で最も短いものが3時間程度、最も長いものが6時間程度持続しました。

個性的な香りもありますが、香水酔いする香りはなかったです。早速レビューしていきます。

BLANCHE | ブランシュ

石鹸の香りが鼻をくすぐる。だが、それは記憶の中の石鹸とは別物だ。強引に石鹸らしくあろうとする匂いが、微かな違和感を漂わせる。まったりと肌に張り付くようなこの香りは、お風呂上がりの清々しい石鹸ではなく、新品の固形石鹸をそのまま肌に擦り付けたような香りがする。

花々の存在感は控えめ。ローズの甘美さは影を潜め、シャクヤクとスミレの清らかな息吹が立ち昇る。だが主役は彼らではない。時と共に温もりを帯びた木の香りが顔を覗かせ、ムスクもその姿を現す。しかし、石鹸めいた香りの主張は留まるところを知らない。

この香水の不自然な清潔感は、好みを二分するだろう。他のブランドの石鹸系フレグランスと同種の香りを思い浮かべると肩透かしを食らうかもしれない。期待が大きかった分、失望も深い。だが、これこそBYREDOの常識を覆す実験の幕開けと言えるかもしれない。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★☆☆☆
香りの持続時間:★★★☆☆

BAL D’AFRIQUE | バル ダフリック

未知の花園に足を踏み入れた瞬間、鼻腔をくすぐる新鮮な香りに心が躍る。アフリカの太陽が育んだ花々の芳香が、柑橘の爽やかさと絡み合う。これまでにない斬新な香りの調べに、思わず耳を澄ませたくなる。

やがて、スモーキーで神秘的な雰囲気が漂い始める。春の花々の清楚な香りが、その中に溶け込んでいく。鼻先で踊る香りの変化に、目を見開く。時が経つにつれ、木々の香ばしさが顔を覗かせる。モロッコの森が放つ芳香が、大地の力強さを感じさせるのだ。

ふとした動きで漂う独特な香ばしさ。その瞬間、心を奪われてしまう。まるで運命的な出会いのようだ。斬新さと深みを兼ね備えたこの香りは、退屈な日常から抜け出す魔法の絨毯となるだろう。嗅ぐたびに、新たな冒険が始まる予感がする。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★★★☆
香りの持続時間:★★★★★

SUPER CEDAR | スーパー シダー

それは予想通りの出会いだった。鉛筆の芯を削る際の、あの懐かしいシダーの匂いが鼻をくすぐる。しかし、その印象は儚い。まるで幼少期の思い出が、大人になった今、ぼんやりと霞んでいくかのようだ。

時が経つにつれ、シダーの存在感は薄れていく。薔薇の花びらの香りが微かに漂うが、すぐに消え去ってしまう。

大地の力強さを感じさせる香りがふと顔を覗かせる。だが、それも “スーパー” なシダーを引きずり下ろすには至らない。パウダリーな調べが全体を包み込み、単調で直線的な旋律を奏でる。時間の経過とともに、シダーの匂いは薄れゆくばかりで、新たな香りが訪れることはなかった。

新しさを求める者には物足りなさを覚えさせるだろう。懐かしさと安らぎを求める者にとっては、古き良き時代の書斎に佇んでいるかのような心落ち着く香りなのかもしれない。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★★☆☆
香りの持続時間:★★☆☆☆

YOUNG ROSE | ヤング ローズ

異国の菓子を思わせる不思議な甘さが漂う。だが、その正体は東洋の秘宝、花椒の刺激的な息吹だった。舌先に乗せた瞬間の痺れるような興奮が、鼻腔を通して蘇る。

やがて、紫の花の香りが顔を覗かせる。その存在感は控えめで、薔薇の気配は幻のように捉えがたい。時と共に花椒の刺激は和らぐが、ときおり再来し、驚きを与える。ムスクと溶け合えば、まるで別の香水を纏ったかのような錯覚に陥る。香りの変幻自在な姿に、思わず目を見張る。

この魅惑的な香りの物語は、思いのほか早く幕を閉じる。儚さを纏った斬新さ、それがこの香水の魅力であり、挑戦でもある。長く寄り添う香りを望む者には、名残惜しさを感じさせるだろう。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★★☆☆
香りの持続時間:★★★☆☆

BLACK SAFFRON | ブラックサフラン

濃密な果実の香りが、静かな夜の森を覆う。甘美な柑橘の香りは、まるで月光に照らされた露のように、鮮やかに輝く。その背後には、かすかな煙の匂いが漂う。革の香りも僅かに感じられ、野生の獣が通り過ぎた痕跡を思わせる。

木々の香りが、密やかに顔を覗かせる。しかし、それも束の間。果実の香りが、執拗に全てを支配する。変化に乏しい香りは、ある意味で退屈とも言えるかもしれない。まるで、一本の木に縛り付けられたかのような感覚すら覚える。

だが、その一貫性に独特の魅力がある。果樹園の真ん中に立っているかのような錯覚を覚える。果実の香りは、最後まで揺るぎなく続く。それは、まるで古の物語が語り継がれるように、永遠に続くかのようだ。確固たる存在感を求める者にとって、まさに理想の香りかもしれない。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★★★☆
香りの持続時間:★★★★☆

ROSE OF NO MAN’S LAND | ローズ オブ ノー マンズ ランド

薔薇の香りが、静かに野戦病院に満ちる。それは華やかさを抑えた、凛とした薔薇だ。ドライフラワーのような乾いた花びらの香りは、戦場の苛酷さを思わせる。僅かに感じる辛味が、看護師たちの勇気を表しているかのようだ。

赤い果実の香りは、傷ついた兵士たちへの慰めの印か。だが、すぐに再び薔薇の香りに包まれる。それはあたかも、看護師たちの献身的な姿を映し出すかのごとく。

時と共に薄れゆくこの香りは、戦争の記憶の儚さを感じさせる。しかし同時に、彼女たちへの永遠の敬意をも表しているようだ。その余韻は、古びた写真のように、勇敢な看護師たちの姿を香りの記憶に留め、世紀を超えて私たちの心に語りかける。

調香師:Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット)
香りの強さ:★★☆☆☆
香りの持続時間:★★★☆☆

まとめ

入っていた順通りに試し始め、1本目が期待外れだったことに引きずられ、1ラウンド目は大きく落胆。しかし、2ラウンド目は先入観が消えたこともあり、大きく印象が改まりました。

BYREDOの香水には、確かに独特の魅力があります。これは、アートの世界から来たゴーラムが、芸術や音楽、文化から得たインスピレーションを香りで表現したいという願いに挑んだ結果でしょう。そして、この独自性の実現には、調香師(おそらくジェローム・エピネットがほとんど)の卓越した才能も大きく貢献しているに違いありません。

今回試した6本に関しては、従来の香水の概念にとらわれない斬新なアプローチが裏目に出ていると感じるものがある一方で、独自性の創出に成功しているものもありました。特に優れていたのがこの2本です。

  • BAL D'AFRIQUE | バル ダフリック

  • ROSE OF NO MAN'S LAND | ローズ オブ ノー マンズ ランド

他にも「YOUNG ROSE | ヤング ローズ」は花椒の香り方が斬新で、「BLACK SAFFRON | ブラックサフラン」の香りの安定感も魅力的でした。しかし、上記の2本がこの中ではやや別格です。

サンプルといえどミニマルで美しいパッケージが魅力的

今回のディスカバリーセットにはクーポンが付属しており、4週間以内という条件付きですが、これを使えばボトルが割安で購入できます(マーケティングが巧みですね)。

絶好の機会なので、購入することはほぼ決意しました。いま、この2本をじっくり比較しながら、どちらを購入するか熟考しているところです。果たして、この沼から抜け出せる日は来るのだろうか……。

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