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ラフなロボットスケッチが自在に動く、残材BANK、木材培養する話(コンワダさん48週目)

 こんにちは、株式会社アーキロイドの津久井です。今週も社内で話題になった事例(コンワダさん)からいくつかをご紹介します。バックナンバーはこちら

ピックアップ事例:ラフなロボットのスケッチの関節を自在に動かすツール@韓国

―――概要
 韓国の研究チームが開発したRapid design of articulated objectsは、多関節型オブジェクトのコンセプトスケッチを書きながら、そのオブジェクトの部分的な動きをインタラクティブに操作できるデザインツールです。旋回するキャタピラから、複数のリンク機構で構成された伸縮ムーブなどの複雑な動きも見せることが出来ます。デザイナーはこうした多関節型オブジェクトを設計する場合、ある一時の状態だけでなく変形時・展開時の計上や可動部を考慮する必要があります。
 プロのデザイナー5名のテストによると、約1時間で習得でき、初期段階のデザイン決定に適したコンセプトを迅速に作成できることが確認できました。

―――この事例について
 映像を見た瞬間、近未来的なデザインの作業風景だ!という印象を受けました。SF映画で設計図をホログラムを用いて空間上に展開し、それぞれの部品が動いているシーン、その実用版第一歩とでもいいましょうか。
 こうした動きをつけるのは、正確なモデリングをしていてもひと工夫いる少し面倒なことです。あくまで建築CADユーザーの視点ですので、機械設計CADやアニメーションモデリングソフトお使いの方からしたら造作もないことかもしれません。それでも今回驚きなのは、何かしらのジオメトリを作って操作しているわけではなくて、初期段階のラフなスケッチが駆動するなんて、という点です。機械設計以外にも映像作品の絵コンテや、流行りのメタバースの領域でも大活躍しそうですね。
 クリエイティブな仕事において、デジタルツールの恩恵は日々増しています。有史以来、建築も機械も3次元の造形物の設計を、2次元の手書き図面で断片的に表現していた時代が長くありました。その転機がCADの登場です。1963年に2DCAD「Sketchpad」、1977年に3DCAD「CATIA」が発売されました(参考)。一般的に馴染みのあるテクノロジーで言えば、CATIAが発売された同年にApple Ⅱが発売されています。このソフトウェア黎明期とも言える時代から今日まで、CADはものづくりのワークフローを改革し続け、加工機と接続するCAD/CAMや、高度な設計・工事情報を含むBIMが一般的になっています。
 建築や土木の設計現場において本ツールの需要があるかは疑問ですが、初期検討でラフなスケッチやダイアグラムを描くことはよくあると思います。そうしたラフな手仕事が現代の魔法的技術と融合して、新たな設計のプロセスを生み出す、そんな新技術の出現を期待してしまいました。

【お願い】
こうした複雑機構が採用される可能性のある建築や土木で、まさにこのツールがこのまま使えそう!という場面が思い当たる方がいたら是非教えてください。開閉式スタジアムや橋などはあるのかな、と想像しました。あとは建築勢も大好き、彫刻家テオ・ヤンセンの「ストランドビースト」に思いを馳せた筆者でした。

木材系事例

その1:住宅建築で余った木材、DIYにどうぞ 「残材BANK」

―――概要
 家を建設する際に余った木材をSNSを通じて希望者に無料提供する試み「残材BANK」を、三重県伊勢市の中美建設が始めたそうです。インスタグラムに資材を投稿し、引取希望者と直接やり取りし、会社まで引き取りに来てもらいます。資源有効活用やDIY需要の高まりも合って、各地の中小企業の間で広がりつつあるそうです。
―――この事例について
 建設業は国内の産業廃棄物排出量の20.7%を占め、上から3番目に排出量の多い産業です。木材は使うサイズで現場に運ばれるのではなく、多くの場合は運ばれてきた流通材を現場で必要な大きさにカットし、残りは廃棄してしまいます。必ず廃材は出るのでそれをそのまま引き取ってもらうのは、企業からしてもありがたいですよね。私も近所にそういう所があれば材を貰いに行きたいです。
 一方で需要よりも供給が勝る=廃棄量が多いと、事業に使えない材の在庫を抱えるわけにわいかないのでこれまで通り廃棄する必要が出てきます。これまで廃棄していたものに運送料をかけて遠方に運ぶのは考えにくいので、遠面はローカルで回していく必要がありそうです。
 しかし、たとえばこの活動が各地で活発になって引き取られる廃材が増え、それまでDIY用に製材してた木材の需要が下がり、結果的に業界全体で歩留まりが良くなり、廃棄量が大幅に減るというマクロに影響する可能性もあります。誰かのゴミは誰かの宝。実は大きな一歩かもしれないなと妄想しました。

その2:加工不要な木製品——MIT、植物細胞から木材を培養する実験

―――概要
 MITの研究チームは、環境に優しく廃棄物の少ない木材代替品を人工的に生産できる可能性を示しました。植物細胞から実験室で育てて作成し、その特性を培養条件により制御できることを実証したそうです。任意の形状に成長させることもできるし、木材と違って成形過程で廃棄物が出ることもありません
 世界では毎年アイスランドと同面積(約10万平方キロメートル)の森林が失われており100~200年後に森林は消滅すると予測する研究者もいます。木材の入手が困難になる一方で、環境面の配慮から化石燃料に変わる材料が求められており木材などの植物由来の材料需要が高まっています。今後はそうした多様な需要に答えるべく、たとえば家の壁を支える高強度で効率的に部屋を温める熱特性を持たせるなど、用途に応じて特化した製品を作れるかもしれないそうです。
―――この事例について
 今できる小さな解決である残材BANKの事例から、急に未来の大きな可能性を示す事例の登場です。木材代替品どころか家の形状に育てることが出来たら面白いですね。植物のように育つ建築として、盆栽のように植物の力と人間の技術で育てていく。これまで部材の融合だった住宅が1つの大きな有機物になるかもしれません。
 もし、これが実用化された時にこの技術で世界の木材需要を満たすためにどれほどの設備、エネルギー、期間を要するのでしょうか。それらをクリアした上で木材の完璧な上位互換となりうるのであればすごい話です。極端な林業も製材業もなくなってしまいますね。
 一方で林業には材を生産するだけでなく山を手入れして守っていくという使命もあります。昔とある林業家の方に、手入れされている山とそうでない山では土砂災害のリスクも違うという話を聞いたことがあります。ただ、記事に出てくる研究者の予測通り100年後に地球から森林が消滅していたらその必要もありませんが…

まとめ

 今週も最後まで読んでいただきありがとうございます。世の中を前に進めよう、良い方向に持っていこうという事例が集まって、明るい気持ちになりました。この事例の並びでそんな感想を持つのも変わっているかもしれませんが。記事や事例が面白かったら是非「スキ♡」を押してください。それでは皆さん、よい週末をお過ごしください。


「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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