山田集佳

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最近の記事

『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』観たよ

Netflixで配信されたWWEとWWEを世界的企業に押し上げたビンス・マクマホンに関するドキュメンタリー。撮影は2021年から始まったがそのあとに怒涛のスキャンダルが発覚しビンスはWWEから追い出されたので思わぬリアルタイム性をまとってしまった。 めちゃくちゃ色々な論じ方のできるドキュメンタリーであり正直『極悪女王』とかドナルド・トランプの話とかと絡めて論をまとめたいところだがまずはこのドキュメンタリーでいちばんやばいなと思ったシェイン・マクマホンの話をさせてほしい。

    • 『Chime』観たよ

      黒沢清の短編映画。シネマカリテの水曜日のサービスデーに見に行ったら特別興行で一律1500円だった。『ルックバック』と同じ方式だが短い映画は本当に嬉しいし気軽に見に行けるのはいい事なので今後も増えていくといいな。RoadsteadというWeb3.0の配信プラットフォームのために作られた作品のようだ。映画も気になるけどWeb3.0の配信プラットフォームも気になるぞ。 料理教室の講師として働いている松岡という男は、ある日不可思議な生徒に遭遇する。頭の中でチャイムが鳴り響いていると

      • 『サユリ』観たよ

        押切蓮介原作の漫画を「コワすぎ!」で知られる白石晃士が映像化したホラー映画で、『呪怨』から続く事故物件ものと『ジョン・ウィック』から続く喧嘩を売った相手がやばかったものを組み合わせたハイブリッドホラーアクション。 認知症の祖母と二人暮らしをしている祖父を引き取って子ども三人と七人暮らしを始めた幸せそのものファミリー。めちゃくちゃ崖沿いに立っていて入り口が二階にある(?)という変則ハウス、しかも中心が建蔽率の関係上かどうかわからないけど吹き抜けになっており、特殊な家度でいうと

        • 『地面師たち』観たよ

          2017年に起こった実際の地面師詐欺事件をモデルにした新庄耕の小説を原作にしたネットフリックスドラマ。配信から一か月経ってるのでいろいろ感想は出てるし評判もいいので今さらという感じもするけど私はこのドラマを見て「詐欺で騙されるか騙されないかの境界」みたいなことに思いを馳せた。 というのも、このドラマは豊川悦司演じる大物地面師ハリソン山中を中心に展開し、ハリソンはドラマ冒頭から広大な土地で狩りをしているなどなんかすごそうな人物として描かれる。そんなハリソンが弟子の綾野剛に映画

        『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』観たよ

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF7』編

          『FINAL FANTASY VII REBIRTH』はかなりメタスコアもいいので面白いのだろう。そう思ってやってみたらまあ、物量的にはものすごいことをやっているのだがなんと『FINAL FANTASY XVI』と同じ変さを猛烈に抱えていてそればっかり気になってしまいゲームを楽しむどころではなかった。 しかしハードなファンタジーを標榜したFF16とは違って、スチームパンクファンタジーを下敷きにしたFF7の世界は比較的何でもありだからその変さを説明するのもちょっと難しい。設定の

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF7』編

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF16』編

          私がゲームを、特にAAAタイトルを遊んでいるときにわりと気にしていることは、女性の友人にこのゲーム、面白いよって紹介できるか否かだ。なかなかに謎の基準だと自分でも思うし、女性だからといって友人の属性も様々なのでまったく妥当性のない基準なのだけど、なんか「これを面白いよ」と自然に言えるかどうか、それを真に受けて実際に遊んでくれた友人が「なんじゃこりゃ」とならないかどうか、みたいなことはかなり私の中では大事な基準となっている。 その際、ゲームの出来云々はあんまり関係がない。よほど

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF16』編

          『ネット右翼になった父』読んだよ

          『ネット右翼になった父』を読んだ。2019年の記事で父親がネトウヨになってしまってショックやん……という記事から、どうして父親がネット右翼になってしまったのかを追っていくドキュメンタリー。個人的にすご~~~~く嫌な後味が残った。 いろんな人が書評してる通り、この本は原因究明というよりは父親とのディスコミュニケーションを父の死後にやり直して、結論としては父はネット右翼になってなかった!もっと話をすればよかったけどそれも無理だったんだよなぁ……でも父親のことを誤解したままじゃな

          『ネット右翼になった父』読んだよ

          『Venba』遊んだよ

          2023年の7月に発売されたインディーゲームだけど今さらやりました。IGF(インディーゲームフェスティバル)で大賞も獲得して去年発売されたインディーゲームの中でもトップレベルに評価されていて品質はお墨付き。実際すごく面白かった。問題は日本語版がないことだ。なので英語で遊びました。内容の理解度は半分くらいでしょう……。 タイトルにもなっている「Venba」というのは女性の名前で、1980年代末期にインドからカナダへ夫と共に移住した彼女がどのような人生を生きたのかというのを、彼

          『Venba』遊んだよ

          『祇:Path of the Goddess』遊んだよ

          『祇:Path of the Goddess』おもしろかった~~~。仕事柄ゲームを遊ぶときにはGOTYを意識してしまうのだけれどこれはもう年末にどう語るか考えちゃう。すごいよかった。 『祇:Path of the Goddess』はカプコンによる新作アクションストラテジーゲーム。穢れによって浸食された禍福山と、禍福山に点在する集落を解放するため、巫女の世代と共に主人公の剣士・宗は戦うぞ、というストーリーだけどセリフはほぼない。発売と同時にカプコンの名作アクションRPG『大神

          『祇:Path of the Goddess』遊んだよ

          処女じゃなくても大丈夫

           自宅から歩いて二十分ほどにある雑木林は私が子どもの頃からトカゲ山と呼ばれていて、そこに野生のユニコーンが迷い込んだと近くに住む母から連絡があった。特定外来生物のユニコーンが都会の住宅密集地に現れたと地元は騒然となっているようだが、警戒心の強いユニコーンはうまいこと隠れてしまい、SNSにもユニコーンの姿をとらえた写真や映像はほとんど出回っていない。  私はどうにかユニコーンを見たくなって、いてもたってもいられず近所にあるホームセンターに足を運んだ。径の違う塩ビパイプをいくつも

          処女じゃなくても大丈夫

          『フェラーリ』観たよ

          アダム・ドライバーが実在の名門ブランドの当主を演じるということでほぼ『ハウス・オブ・グッチ』の気持ちで見ていたが、結構似たところはあった気がする。テーブルの上でセックスしたりとか、そのへん。みんな大好きスーパースポーツかっこいいカーメーカーのフェラーリの創始者エンツォ・フェラーリの1957年のあれこれを描いた映画なのだけれど、物語の中心は倒産寸前でピンチなフェラーリをレースで優勝して一発逆転経営立て直しのお仕事苦労パートと、奥さんではない女性と子どもを作って二重生活をするご家

          『フェラーリ』観たよ

          窓の外の少年

           昼日中にあってもその光は部屋の中までまぶしく照らした。わたしは「またか」と思って無視を決め込もうとしたけれど、その光が二度目三度目と続くと、さすがに放っておけない。わたしは作業の手を止めて立ち上がり、窓の方へと部屋を横切る。窓の外ではまだぴかぴかと光が瞬いていて、鍵に手を添えた時に、相手はこの瞬間を狙っているのだとわかってるから憂鬱になる。 「おやめなさいな」窓を開いて声をかけた瞬間に、ひときわあかるい光が瞬く。構えたカメラの向こう側に、もはや見慣れた栗色のショートカットが

          窓の外の少年

          『アイアンクロー』観たよ

          鉄の爪(アイアンクロー)で有名、プロレススーパースター列伝でもおなじみのフリッツ・フォン・エリックの息子たちの悲劇的な運命を描いた映画。親父が有名レスラーだし団体も持ってるので当然息子たちも体を鍛えてレスラーになるのだ、という雰囲気がある中でレスラーになった息子たちがどんどん死んでいく。次男(長男は小さいころに亡くなっているので傍からは長男に見える)のケビンから見たファミリーの悲劇が描かれていく。 ケビンの弟たちは皆死んでしまうが、ギリのところでケビンはプロレスから離れるこ

          『アイアンクロー』観たよ

          フュリオサで気になって納得したこと

          こちらの記事で『フュリオサ』について色々書きましたので読んでください。読んでいただけましたらそこで書ききれなかったことというか、映像的に根拠となることははっきりとないしさすがにこれは私が勝手に思ってるだけのやつ……と書かなかったことをここで述べます。 映画を見ている間、あれれ?なんか知ってる前提と違う方向に話が進むなあ、と前作のファンなら誰もが思ったこととして、「フュリオサってイモータン・ジョーの妻の一人じゃなかったっけ?」というのがある。『フュリオサ』ではいとうエクスキュ

          フュリオサで気になって納得したこと

          『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』観たよ

          『サイドウェイ』のアレキサンダー・ペイン監督が同じく『サイドウェイズ』のポール・ジアマッティを主演に据えて撮った映画で、舞台は70年代。とある全寮制の名門校で、冬期休暇に「居残り」することになったひとびとの交流を描く。 クリスマスというアメリカにおける強烈な「家族圧」が放たれる時期に誰もいない学校に取り残される人々の話なので主要人物である古代史の教師ハナム、料理長のメアリー、そして成績優秀な学生アンガスの三人はそれぞれが個人的な悩みや喪失感を抱えている。 鑑賞を終えて最初に

          『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』観たよ

          『STILL WAKES THE DEEP』の九州弁について考える

          『STILL WAKES THE DEEP』は、ウォーキングシミュレーターというジャンル名が生まれるきっかけとなった『Dear Esther』で知られるThe Chinese Room開発のホラーアドベンチャーゲームだ。1975年、スコットランド沖合にある石油掘削施設(リグ)で作業員として働く主人公・カズとなり、深海から現れた脅威の中を生き延びる……というストーリーで、プレイヤーは銃を撃ったり殴ったり蹴ったりできないので、敵から隠れながらジャンプしたり柱にしがみついたりして崩

          『STILL WAKES THE DEEP』の九州弁について考える