FFから考える現代ゲームの難しさ『FF16』編
私がゲームを、特にAAAタイトルを遊んでいるときにわりと気にしていることは、女性の友人にこのゲーム、面白いよって紹介できるか否かだ。なかなかに謎の基準だと自分でも思うし、女性だからといって友人の属性も様々なのでまったく妥当性のない基準なのだけど、なんか「これを面白いよ」と自然に言えるかどうか、それを真に受けて実際に遊んでくれた友人が「なんじゃこりゃ」とならないかどうか、みたいなことはかなり私の中では大事な基準となっている。
その際、ゲームの出来云々はあんまり関係がない。よほど遊びにくかったりバグまみれでなければ、面白いと思ったものはお勧めする。という観点で見ると、直近の『FINAL FANTASY XVI』と『FINAL FANTASY VII REBIRTH』がキツくてかなり無理だなあ、現代のゲームって難しいなあ、となってしまって困っている。
とはいえFF16は正直、かなり期待していた。普段はMMOをまったく遊ばないのに(知らない人がゲームの中にいるのが怖いから)FF14を始めてなんだかんだ楽しんでいる。FF16は大人向けのストーリーが展開されると聞いてたし、ゲームオブスローンズをめちゃくちゃ参考にしてるっぽいのは画面を見ても伝わってきたから、期待は膨らむばかりだった。
でも実際に遊んでみたら全然そんなことはなかった。というか、ちょっと怖くなった。特に女性の扱いが信じられないほどひどくて、とても飲み込めるものではなかった。主人公であるクライヴとジルの恋愛がストーリーのドラマ部分の中心になっているけれど、二人のアークもガタガタで一貫した心情を読み取るのも難しい。
本作は導入部分からセックスシーンが出てくる。作中におけるセックスシーンのほとんどを受け持つベネディクタという女性キャラクターはジルの対となるポジションを与えられていて、召喚獣に変身する圧倒的な火力とそしてセックスを使って暗躍するしたたかな女性だ。彼女は内心では馬鹿にしているフーゴという権力者とも、政治を有利にするためなら平気で寝れる。セックスのスタンスは大人になってしまえばひとによって全然違うし、安全を確保できる関係性や環境であればセックスそのものだってそんな深刻なものでもないので、これを「大人の物語」の導入として出すのはなるほど効果的かも、と私は思った。当初。
しかし、ベネディクタの末路を見るとこれらがなんだか「セックスはみんなするよね」というコンセンサスを作品中に敷衍するために導入された描写だとは思えなくなって、ちょっとひどくない?という感想が来てしまう。クライヴに召喚獣の力を奪われたベネディクタはすっかり弱り果てて、占拠した城の外へとほうほうのていで逃げていく。弱り切ったベネディクタを見つけた無法者らしきひとびとは、ベネディクタを強姦しようとする。その状況に絶望したベネディクタは残された召喚獣の力を暴走させ、周辺の地形を破壊し、ふたたびクライヴに敗北してその命を落とすのだ。本当に愛してほしかった相手との思い出に包まれながら。
みずからのセックスを利用していた放埓な女性が力を失い、報いとして性的に凌辱されそうになり、真実の愛に届かないまま死ぬ。それがベネディクタに課せられた物語だ。
この物語の運びにはいくつもの「なんかやだ」な嫌さが漂う。それは後述する、この作品の絶対的ヒロインであるジルの扱いと比べると、ものすごく際立つ。
ジルは主人公であるクライヴの幼馴染だ。10代の幼少期から互いに憎からず思い合っていた二人は大国の陰謀に巻き込まれ引き裂かれ、行きついた先ではその身に宿した召喚獣の力を利用されて奴隷の扱いを受ける。過酷な生い立ちを経て13年後、同じく奴隷の身分となっていたクライヴに再会し、世界を救う戦いへと身を投じていく。
子どもの頃からどうやら相手のことを好もしいと思っていたっぽい描写が再会してからも挿入され、二人はその気持ちを通じさせていく。物語はタイムジャンプを経て、その5年後までを描く……のだが、ふつうにゲームをプレイしていると、ジルとクライヴが5年後の時点でどういう関係になっているのかが、ちょっとよくわからない。5年もあれば何かしら関係の変化があったのだろうなとこちらは想像するけど、そのあたりの描写はほとんどない。
はじめ、私はこの描き方は好ましいな、と思っていた。というのも誰しもが別に恋愛をしなくてもいいし、恋愛してるって周りにアピールしなくても全然いいからだ。ジルはゲームとしてはヒロインのポジションかもしれないけれどクライヴとくっつく必要だってないし、クライヴとは一回付き合ってみてすぐに別れてしまって同僚のガブと寝てみた可能性だってある。あるいは奴隷だったときに嫌な思いはたくさんしただろうからセックスに対して忌避感がある可能性は高いし、クライヴだってそれは同じかもしれない。というかジルがヘテロセクシャルだと決めつけるのだってこっちの勝手な想定だ。「語らない」というのはそういう想定を許すということで、それはとっても現代的な語り方だなと思った。そのうえで、クライヴの大切なパートナーとして特別な絆を結ぶことは、全然変なことじゃない。ありうべき可能性の幅を見せつつジルを魅力的なキャラクターとして描くこと、なるほど確かにこれは大人の物語だなあ、と納得していた。
と思っていたけど、実際のところはクライヴとジルの関係性が5年間停滞してたっていうだけらしいことがわかってくる。だから5年後の物語が進展していくにつれて、二人の関係も進展していく。男女の関係性としても、かなり古風なところに二人の関係は落ち着いていく。ものすごくびっくりしたシーンがある。ジルとの初めての夜(二人で全裸で焚火に当たることでセックスを表現)で合意の上で彼女の召喚獣の力を吸い取ったクライヴは、そのことで弟になじられてなんなら結構な強さで殴られる。セックスすることで女性から戦う力を奪うというのもすごいが(すごいぞ本当に)、それ以上にマジで殴られる心当たりがなくて私は心底戸惑った。どうやら「ジルだってクライヴのことを守りたいのにクライヴ一人で全部を背負おうとしてそんなのはダメ」という理路らしい。いやそれをジルが不満に思っているなら殴る権利があるのはジルだけだろ。力を奪われたあとでジルが「それはそれとして気に食わない」と言ってクライヴを殴れば済む話だ。女の意思を代弁して男を殴る男というのは典型的な家父長制の一表象でウィル・スミスもやってた。この時点で、ああこのゲームではヒロインには自己主張してほしくないんだ、とはっきりわかってしまう。ちなみに、力を奪われたジルはそのあとも普通に召喚獣の力の一部である氷の魔法を使ってサポートしてくれるのでクライヴは殴られ損だ。何だったんだ。
同時に、先ほど列挙した、語られないことで想像できる余地みたいなのも別に単なるこっちの妄想でしかなかったこともはっきりする。二人の関係性が進展していないように見えたのは、本当に進展していなかっただけなのだ。
最終的に思いが通じ合った二人はお花畑でキスをする。ロマンチックなシーンを描きたかったのはわかるけど、これが大人の恋愛かって言うと……SNSとかで『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』はけっこうバカにされてたけど、これと何が違うんだ。向こうは言うてもティーンエイジャーの恋だし……。
前述したベネディクタの例と比較すると、この作品で描かれている女性像の方向性はますますはっきりする。焚火のシーンでセックスシーンを代替したように、たとえ大人の恋愛だろうが、大っぴらなセックスは放埓な女性のすることなのだ。そして放埓な女性はその放埓さゆえにセックスによって裁かれる。クライヴ(=プレイヤー)のあずかり知らぬところでヒロインのジルの恋愛が進展することは許されないし、クライヴ(=プレイヤー)の物語の進行によってジルとの恋愛も発展していく。異様なほどに恋愛とセックスが神聖視されていてなおかつそれを目に見えるところでコントロールしたいという欲望がここには垣間見える。たとえ相手がクライヴ(≒プレイヤー)でも、知らんところでヒロインがセックスするなど言語道断なわけだ。これを大人の物語として提示されると、さすがに不安になる。これ以外にも、体の結構な部分が召喚獣の影響で石化しているらしいジルが、焚火のシーンでほとんど石の部分が描かれなかったりと、「描きたくないならそもそもそんな設定作らなきゃいいのに……」と思ってしまう。クライヴが、自分を裏切った母親が自殺するのを特に止めもしないなど、シナリオの一番大事なところでは常に「女の人のこと、嫌いなんだな……」とうっすらと伝わってくるのもつらい。尊敬すべき、範にすべきは父親であり伯父であり、母親というか女性はとにかく理解不能で鬱陶しいし邪魔してくるのがFF16の家族観なのである(敵方のバルナバスの母親もやはり血の通った人間ではなくトラウマ的な抽象概念として扱われている)。ちなみに、自立した女性像として娼館の主が出てくるのだけれど、これは翌年出た『ドラゴンズドグマ2』でも使われた表象で、なんとなく「日本のゲームが想定する大人のリアルなファンタジー世界像」がうかがえる。
ということで、FF16における女性表象の変さについては以上となる。FF16は他にも、「奴隷的扱いを受けるベアラーの設定の変さ」「自我をなくせと言ってくる自称自我のない奴の変さ」など変すぎる要素が多く、取り扱おうとしている要素へのそもそもの興味のなさがじんわりにじみ出ていて「変」としか言いようのないお話になった結果、お話自体がめちゃくちゃ作り物じみたものになっている。この問題はFF7にも通底しており、それがFFの不調の原因なのではないのかな、と言うのが私の考えだ。
ということで、次回は、『FINAL FANTASY VII REBIRTH』における変さについて語る。
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