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漫画『キャプテン』と『プレイボール』と。

 ちばあきお『キャプテン』は全巻きちんと読んでいないが、続編の『プレイボール』は読了している。我が家の漫画本棚には『キャプテン』が7巻で止まっているのに対し『プレイボール』は全巻揃っているからだ。

 どちらも購入者は親父。その親父が高校野球好きなのは以前のnoteでも書いた通りだが、『キャプテン』が途中までで『プレイボール』が全巻ある理由は何となくだが想像付く。主人公の谷口タカオに共感したのだろう。

 強豪校からの転校生だったゆえ、タカオ本人はその才能を周囲から買いかいぶられて苦悩するも、ひたすら陰ながらも練習を続けて鍛錬を重ねた結果「キャプテン」として認められ、皆を牽引する存在になる。やがてタカオの引率いる墨谷二中ナインは、かつてタカオのいた強豪校と宿命の対決を迎える……のが『キャプテン・谷口タカオ編』の大まかな流れだ。
 この構図、自分が大好きなアニメ『ガールズ&パンツァー』でも、脚本の吉田玲子が「参考にした・イチ押ししていた」という噂(※ソース不明な話なので出処が知りたい)があり、実際にTV版の構成は谷口タカオ編リスペクトといっても過言ではない。

 何より熱い野球漫画でありながら「必殺技」なんてものは存在せず、味方・相手双方の心理とひたむきな努力、白熱したプレイをひたすら描く。その現実味溢れる点は身近でかつ親近感も湧く。実際、第4巻から5巻あたりまで続く「本当の決勝戦」は圧巻で、競合相手に最後まで死力を尽くし戦い抜く姿は驚くほど熱い。子供の頃に読んだきりだが、それでもあの熱さは忘れられない。

 だが『キャプテン』と『プレイボール』とでは話が大分違ってくる。

 『プレイボール』の主人公も谷口タカオで、彼は墨谷高校へ進学するも、中学最後の試合で指を負傷したため野球の道を絶たれていた。そんな彼を見たサッカー部の部長にスカウトされて入部。野球で培ってきた体力と運動センスはサッカーでも発揮され、数ヶ月にしてレギュラーの座を掴む寸前まで登りつめる。だが自らの心に秘めた「野球への想い」は捨てきれず、またそれを部長に見抜かれた結果、急遽野球部への転部が決定。その野球部は「万年一回戦負け」が当たり前のような弱小チームに過ぎなかったが、タカオの野球に掛ける想いは、やがて周囲の人間をも動かしていく……

 この「動かしていく」部分が重要で、『キャプテン』でも描かれた「味方・相手双方の心理とひたむきな努力、白熱したプレイ」はより緻密な表現がなされている。いかに相手を攻略するかという戦術をこれでもかこれでもかと描き、やがて相手方を揺さぶっていくさまは、少年漫画のお約束な展開ながらもリアリティに溢れていて最後まで目が離せない。
 とりわけ元々のチームが弱小だったゆえ、並居る強豪校を打ち破っていくまで成長していく墨谷高校ナインの変化が分かりやすいのだ。お調子者や大雑把といった個々人のキャラクター及び性格はそのままに、一人ひとりの野球に対する姿勢が徐々に変化していき、ついにはチームワークを発揮して名勝負を繰り広げるさまはやはり燃える。主人公は間違いなく谷口タカオだが、周囲の個性的な面々が成長を遂げて活躍していく様子が実に面白いのである。

 親父の高校野球好きに触れた際、
「父はTVで野球を観る時はよく『投手&捕手・打者とが繰り広げる球の読み合い』みたいな薀蓄話をする」
 と書いたが、この『プレイボール』はまさにそれ。親父がコレに限っては全巻揃えているのも今思えば納得だ。

 今は甲子園でセンバツ、そして地方では春季高校野球の真っ只中。ここしばらくは観戦したくとも無観客試合or関係者のみという状況だったが、最近はそうでもなくなったうえ、プロ野球も観客制限無しで開催と相成った。地元・群馬で実施される夏の県大会も、ひょっとしたら……という期待もある。

 毎年夏になると親父は必ずといっていいほど自分にこう言ってくる。
「もし開いてる土日があったら教えてくれ。予選見に行きたいんだ」
 まあ、久々に生で観戦したいだろうしなぁ。とりあえず暑さ対策はしっかりして行ってね、と4ヶ月後に思いを馳せている。

 あと、この本も気になる。買ってあげようかな?

 

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