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映画『ゴルゴ13』※実写版(1973)~異国の地で展開されるさいとう・たかをワールド~

 東映公式YouTubeは、期間限定ながらも時折意外な映画を配信してくれるのだが、これが来るとは思わなかった。

 デューク東郷、通称『ゴルゴ13サーティーン』。風貌こそ東洋人だが、出生や本名などの詳細は全て不明。しかし彼が狙撃手スナイパーとして数多の伝説を残したのは紛れもない事実である……
 某国の秘密警察は、世界中で暗躍する犯罪シンジケートのボス「マックス・ボア」がイランに潜入したとの情報を得た。だが素顔すら不明のボアを逮捕するのは至難の業であり、何人もの犠牲を払っても尻尾すら掴めない。ついに秘密警察のトップはデューク東郷に対しマックス・ボアの暗殺を依頼し、連絡役として諜報員のキャサリンを同行させると告げた。東郷は50万ドルでその仕事を引き受け、一路テヘランへ飛ぶ。
 そのテヘランでは女性の誘拐事件が頻発していた。ゴルゴは情報屋・エグバリを通じてボアの所在を探るが、彼らはそんな人間達をも容赦なく消していく。これらの事件に関し、現地警察のアマン警部は自らが目撃した「東洋人風の男」が関与していると考え行動を開始。果たしてゴルゴは任務を全う出来るのか?

 原作者のさいとう・たかをは、東映から映画化の話を持ちかけられるも乗り気でなく「主演を高倉健にする(※実際に作者が連載当初に主人公のモデルとした)」「全編海外ロケ」と無茶振りをして諦めさせようとしたものの、東映がOKを出したため製作が決定。よくその条件を飲めたなと思えるが、作られたのは1973年。といっても年末公開なので実質74年の正月映画だが、当時の東映は得意とするアクション映画において様々な路線を模索している最中でもあった。映画化の企画立ち上げ時期は不明だが、かの『仁義なき戦い』が封切られ、その後シリーズ化したのも同年の話なので、同社に勢いがあったのは言うまでもない。

 さて話を『ゴルゴ13』に戻すが、上記の条件を本当に実現した結果、なるほど原作っぽさは出ている。デューク東郷を主人公のモデルとなった高倉健が熱演、というと大袈裟だが、作者のイメージとして氏を念頭に置いていたのはよく分かる。ゴルゴというと寡黙なイメージが強いものの、初期作品はそでもないため、第一巻から読み始めた時はキャラ設定の違いに驚いた記憶がある。この高倉ゴルゴは初期キャラそのまんまという感じか。しかし原作再現という点では何ら間違ってない。雰囲気は出ていたと思う。

 となると肝は周囲の登場人物や、物語の筋ということになる。全編イランロケで、おまけに出演者もデューク東郷以外は全員外国人。イランの映画会社と合作して現地のスタッフと俳優さんを動員した結果、タイトルクレジットの異国感がまあ凄いことに。背景に映るテヘランの街並みや「日本語版協力 テアトル・エコー」の文字も含めてなおさらそう感じる。
 おまけに全編観てみると、現地の様々な施設はもちろんのこと、古くからある遺跡や荒野、さらには砂漠地帯までもが舞台になっており、そこでしっかりカースタントや爆発といったアクションをしているのには驚いた。

 あとは俳優さん達である。非常に濃い顔の人達ばかりで、とりわけ今作のヒロイン役となる方は……正直アマン警部の奥さん役の方が美人だったようなと感じたものの、ずっと観てるとむしろこれでいい気もしてきた。原作を読んでいると、基本的にゴルゴの依頼主は外国人が圧倒的に多く、かつ舞台も外国が多いことを考えれば
「さいとう・たかをの劇画タッチに似合った人達を『本当にそのまんま』据えた」
 印象さえ受ける。映画化において全編海外ロケでならと原作者が無茶振りしたのも「そうでもしなければ再現不可」な話を作っている自負があったからのように思えてならない。それをやってしまったとは東映恐るべし。

 ただ物語はやや難があり、敵に囚われてピンチに陥ったり、現地警察から危険人物として追われたりするという『ゴルゴ13』ならではの展開もあるし要点を抑えているものの、一つのエピソードをどうにかして100分の映画に延ばした感は拭えない。最後はゴルゴが任務を完了させてはいるが、いつの間にそうなった? てな展開に見えるのもちょっと厳しい。漫画原作が基本的に一話完結で、脚本執筆時に「2時間枠に収めるとなった場合はドラマのうねりが必要だ」と難儀したのが伺える。

 興行的には併映作品(『女囚さそり』シリーズ)の方が受けて本作は不信だったそうだが、もしも成功して原作者も納得の映画になっていたら、高倉健版『ゴルゴ13』もシリーズ化されたのだろうか? その場合もやはり異国の地でオールロケとなっていたのかもしれない。そんな歴史もありえたかと思うと……

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