マガジンのカバー画像

印度林檎之介 ショートショート

46
印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
運営しているクリエイター

#超短編小説

無題

散歩をしているとサルに呼び止められた。
「お願いします! 助けてください」
なんでも彼らのリーダーである桃太郎が病に倒れ、困っているそうだ。
そこで俺は桃太郎を村に連れていき、医者に見せるとなかなかに症状は重くしばらくは動けないようだ。
使命をはたせず落ち込む彼らを見て、男気溢れる俺は桃太郎のかわりにリーダーをひきつぎ、鬼ヶ島を目指すことになった。

数年が立ち、厳しい旅の途中でサル、犬、キジいず

もっとみる

ショートショート「ペガサス」

失恋してムシャクシャしたので、気晴らしに山登りをした。
山頂についた。いい眺めである。
ここで普通なら「ヤッホー」などとサワヤカに叫ぶところだが、そんな気が起きるはずもなく、
「バカヤロー」と叫びながら、空に向かって大きめの石を投げた。
すると、下のほうから『ぷぎゃっ!!』みたいな何か叫び声?のような音が聞こえた。
何事かと思うのも束の間、羽の生えた真っ白い馬がゆっくりと視界の下の方から昇ってきた

もっとみる

ショートショート「僕とかぞく」

僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。

僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。

もう一匹、

もっとみる

ショートショート「不運」

私は生まれつき非常に幸運だった。
ギャンブル運というべきだろうか、特に運がからむゲームとなると負けた事がない。
あまりに勝つので、逆に学生のころはトランプやマージャンなど一切やらなかった。おもしろくないのである。

私は成人した後は才能を生かしてギャンブラーとなったが、苦労したのはいかに自然に負けるか、である。
私にとってギャンブルで全勝するのは実に簡単……何もしなくても勝ってしまうのだが、はたか

もっとみる

ショートショート「弊害」

インターネットは便利なもので、海外のバラエティショーもリアルタイムで見ることができる。
特技を持つ人々を集めて採点する話題のバラエティショーを見ていた時だ。
黒頭巾に黒マントの怪しい男が登場し、なんと彼は魔法使いでミイラをよみがえらせることができるという。

さっそくスタジオに本物のミイラが持ち込まれ、男が祈祷を始めた……、するとミイラは立ち上がってキョロキョロあたりを見渡すと、しゃべった。
「こ

もっとみる

ショートショート「演技」

私がある日、目覚めると、恋人、両親、兄弟、友人…、自分をとりまくすべての人間が他人と入れ替わっているのに気づいた。
他人であるはずなのに、まるでもとからその人自身であったかようにふるまっている。
私は何もわからず、ただ恐ろしく平静を装い生きている。

……彼をとりまく人々はある日、彼が別人に入れ替わっているのに気づいた。しかし誰もそれを指摘しない。
自分だけが異常なのかを疑いつつ、平静を装ってすご

もっとみる

短編「ツケマく~る」

朝のTV番組が聞こえてくる。
世界各地にUFOがあらわれたらしい。
アタシは洗面所の鏡の前で、かなり盛り上がっているスタジオの声をBGMにドンキで買った、上まぶた用の ツケマ をなんとか右目につけようと格闘中だった。
『かわいく』て『ラグジュアリー』(どういう意味だろ?)で『クール』で『おしゃれ』と(ほかにも)いっぱい形容詞がついた、とにかくとっても長~いのでとってもつけにくいのだ。

「エリ、な

もっとみる