ショートショート「不運」
私は生まれつき非常に幸運だった。
ギャンブル運というべきだろうか、特に運がからむゲームとなると負けた事がない。
あまりに勝つので、逆に学生のころはトランプやマージャンなど一切やらなかった。おもしろくないのである。
私は成人した後は才能を生かしてギャンブラーとなったが、苦労したのはいかに自然に負けるか、である。
私にとってギャンブルで全勝するのは実に簡単……何もしなくても勝ってしまうのだが、はたから見れば異常な現象である。
イカサマを疑われれば、カジノに出入りできなくなるし、あまりに強いと対戦型のギャンブルで相手になってくれる者がいなくなってしまう。
だから普段はわざと、そこそこの勝率に押さえていた。
しかし、今回は違う。今、私が参加しているポーカー世界大会は優勝賞金50億円。勝てば引退してもよい金額だ。
極端なことに、その代わり2位以下の賞金は出ない。
私は一切の操作なく本気を出し、連戦連勝……すんなり決勝まで進んだ。
決勝は対戦者とのデュエル方式、1対1の戦いだ。
何戦かして獲得ポイントの多いほうが勝ちなのだが……まさに勝てば天国!、負ければ地獄!!
50億 or 賞金無し、これぞギャンブル、である。
ところが勝負を始めてみると、私は本気を出しているにもかかわらず、なんと、引き分け、引き分け、もうかれこれ三十回は戦っているが、全く勝負がつかない。
私はあきれて対戦相手に話しかけた。
「自分こそ世界一の強運の持ち主だと思っていたが……あなたも相当だね」
対戦相手の男は当初から常に不機嫌そうな表情を崩さなかったが、つまらなそうに答えた。
「いえ、私は学生時代から運が悪く、特に賭け事には本当に一切勝ったことがありません。世界一ギャンブル運の無い男、といっていいでしょう。なので賭け事は大嫌いなのです。友人に無理やり誘われなければこんな大会出ませんでした」
「ええっ!? その割には今大会、あなたは無敗じゃないですか」
私が驚くと、
「そう、そこなのです。私は本当に運が悪い」
男は深いため息をついた。
「毎回、負けてはやく抜けたいと思いながら勝負をしているのですが……どうしても負けられないのです」
(了)
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