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フェルミ推定は時代遅れではない
戦略コンサルタントのアップルです。
Twitter上で元マッキンゼーの方が「フェルミ推定は時代遅れだ」「ググって答えが出るものを推定させて意味があるのか」という趣旨のつぶやきをされて、拡散していました(アップルのところにも流れてきました)。
フェルミ推定について語るいいきっかけだと思ったので、アップルなりの見解をまとめておこうと思います。
結論、フェルミ推定は、今もコンサル面接で地頭をチェックするのに有効な一つの手段だとアップルは考えています。コンサルティングワークにおいても使う局面があるので尚更です。デジタル化が進みいろんな情報が手に入る時代になっても、フェルミ推定のように「脳みそで数字を作る」必要性は残るはずです。
その辺の理由も含め、解説していきましょう。
フェルミ推定とは?
コンサル志望者なら必ず耳にするこのフェルミ推定ですが、ご存じない方もいらっしゃると思うので簡単に説明しておきましょう。
フェルミとは、量子力学などの分野で業績を残しノーベル物理学賞を受賞したエンリコ・フェルミという学者の名前から来ています。このフェルミは紙も鉛筆もない中で即時に頭の中で計算することが得意だったそうです。
例えば、原爆の実験の立ち合いの際、その衝撃波の強さを紙切れが風で飛んでいく軌道から即座に推定したという逸話が残っています。その手の即興の計算をして、求めたい値を試算する(推定する)のが、フェルミ推定というわけです。
フェルミ推定のポイントは次の3点になります。
・求めたい値を出すための計算式を設定する
・その計算式に出てくる変数にパラメーターを(推定しながら)代入する
・出てきた計算結果の妥当性を吟味する
コンサルティングファームの面接では「ケースディスカッション」というものが行われます。架空のお題(=ケース)をもとに、面接官が候補者に対して何らかの問題を出し、それを考えさせ、ディスカッションするというものです。候補者の地頭(頭の回転の速さ、思考の深さ、発想力など)をチェックするために行う、コンサル業界独特の面接です。
面接では様々な問題を出します。アップルも採用の面接官をやっているので、応募者の方との会話から即興でいろんな問題を出しますが、一つのパターンとしてよく出されるのがこのフェルミ推定です。
例えば、趣味がテニスだという応募者の方に対して、「じゃあ、国内のテニスコートの数(面数)を試算してもらえますか?」という感じで問題を出します。与える考える時間は5~10分です。応募者はその短時間で計算ロジックを組み上げるとともにもっともらしい答えを出す必要があるわけです。
フェルミ推定の問題で面接官は何をみているのか?
さて、なぜこんな問題を出すのかという話に入っていきましょう。
例えば上記のテニスコートの数だとググれば答えは出てきます。日本テニス協会が数年に1回テニスコートの施設数、面数の調査をしているようで、その調査結果がレポートにまとまっています(ちなみに直近2015年の面数は26,307面(施設数は6,454)となっています)。
「ググって答えが出るようなものを問題で出して何の意味があるの?」というのが冒頭の元マッキンゼーの方がおっしゃりたかったことなのだと想像しますが、フェルミ推定の問題というのは正しい答えを出せるかどうかを見ているわけでは決してありません。
そもそも面接官もその場で即興で問題を出すので、正確な答えを知らないのです。答えを出す”プロセス”をみることで、候補者の方の地頭の良しあし、コンサルタントとしてのセンスのあるやなしやをチェックしているわけです。
チェックポイントは4つあります。
①もっともらしい計算式を組めるか(ロジック力)
②妥当なパラメーターを設定できるか(ビジネス感覚や常識)
③素早く計算できるか(頭の回転、計算力)
④概ねあっていそうな答えを出せるか(桁を大きく外したりしていないか)
まず最もらしい計算ロジックを組めるかどうかがポイントになります。計算式の組み方は一通りではありませんが、精度がある程度高い答えが出そうな”筋の良い計算式”になっているかどうかがポイントになります。
先のテニスコートの問題でアップルが計算式を組むとしたら、以下でしょうか(これが唯一の答えというわけではありません)。
需要と供給は合致することに着目した計算ロジックです。
国内のテニスコートの面数=(国内のテニス人口数×1人当たりの平均年間プレー数×平均プレー時間÷平均プレー人数)÷(施設の営業・解放時間×コートの平均稼働率)
左辺のテニスコートの面数がどれくらいあるのかはにわかに想像がつきませんが、右辺に出てくる6つの変数はそれぞれなんとなく推定することができます。右辺の6つのパラメーターをもっともらしく推定し、それを代入することで求めたいテニスコートの面数を導くわけです。
候補者の方には、このような問題を5~10分で考えてもらい、その考え方や計算結果を説明をしてもらいます。更にそこに対して面接官が、
「そのロジックは妥当ですか?」
「XXの変数のパラメーター設定はなぜそうしたのですか?」
「出していただいた計算結果は、本当にあってますかね?常識的に考えるとちょっと数字が大きすぎるような気もするのですが?」
などと鋭く質問や突っ込みを入れていきます。
容易に想像がつくと思いますが、この計算をまず5~10分で終えることが相当大変です。ここで出した問題(テニスコートの数)は難易度が低い方で、もっとマニアックな問題はいくらでも出せます。マニアックになると更に難易度は増します(ググっても答えがなかなか出てこないようにもできます)。
・国内の非常用電源の市場規模は?
・2030年の介護ロボットの市場規模はいくらになっていると予想しますか?その理由とともに説明してください
・1900年の日本の電力市場規模を試算してください
フェルミ推定はコンサルティングの実践でも使う
このように、地頭をチェックするためにフェルミ推定の問題を出してその思考プロセスを見るわけですが、実際のコンサルティングプロジェクトでもフェルミ推定をしたりその考え方を使うことはあります。つまりコンサルティングの実践の場においても、この手のことをセンス良くできるかどうかは大事なのです。フェルミ推定は数字遊びでしかないという主張をされる方は、おそらくコンサルティングの実務を深く知らない方でしょう。
コンサルティングワークでは、大きく3つの局面でフェルミ推定の考え方が必要になります。
①数字がない市場規模の推定
②事業規模の試算
③市場の(妥当な)予測
①数字がない市場規模の推定
戦略コンサルティングではニッチな市場を対象とすることもあります。自動車の市場規模、コンビニの市場規模などメジャーな市場であればググればただちに市場規模の数値はわかりますし、その市場を網羅的に調査してまとめたレポートも色々あります。一方、ニッチな市場だと、その市場の市場規模をきっちりと試算している人がそもそもいなかったり、あるいは試算している調査会社があってもそのレポートが高すぎて安易に購入できない(100万円をこえるケースもあります)ことがあります。
そういうときは、自分たちのロジック力を駆使して、市場の数字を「創る」必要があるわけです。妥当な計算式を組み上げ、その計算に必要なパラメーターを業界関係者からのインタビューなどで仕入れ、リアリティのある市場規模の数字を作ります。アップルもコンサルタント時代にこういうことは何度もやったことがあります。
②事業規模の試算
コンサルティングの対象となるクライアントの事業の事業規模を試算したり、事業の成長ドライバーを分析する際にも使います。
クライアントの事業が推定の対象なので、当然ググっても、レポートをあさっても、答えは出てきません。
例えば、クライアントに提案する新規事業が5年後にどれくらいの事業規模になるのか?こんな数字は作るしかないので、フェルミ推定の技法も駆使しながらリアリティがあり、クライアントを納得させられる数字を実際に作ります。
③市場の(妥当な)予測
今の市場規模はググればわかっても、その市場が将来どうなるか(拡大するのか、縮小するのか、横ばいなのか)という予測は答えがないケースが多々あります。調査会社が出している予測が信頼できないケースも多いです。
こういうときに、戦略ファームとして自ら市場の予測を作る必要が出てきます。予測には論拠が必要です。
・市場はどういうメカニズムで動くのか?
・その中で、市場規模を左右するキードライバーは何か?
こういうことを洞察しながら市場の予測式を作りますが、これもフェルミ推定で求められる考え方がベースとなります。
まとめ
今回の記事をまとめましょう。
・フェルミ推定は答えがあっているかどうかを問うものではなく、そのプロセスから論理的思考力、頭の回転の速さ、計算力などをチェックするものである。ググって答えが出てくるかどうかは関係ない
・左脳や頭の回転の速さがコンサルタントの土台として重要であり続ける以上、フェルミ推定は有効なチェックツールであり続ける
・コンサルティングの実践でもフェルミ推定の考え方を使うことはしばしばある。市場規模の数字を作ったり、事業規模を試算するときなど
今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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