ローカルを再構築する メディア、音楽と場所、持続的な生活と地域経済―― #さいはて トークレポート
地方にも、都会と変わらず人の生活がある。若者の地方離れ、高齢化、人口減少……。2020年1月に発表された総務省の2019年人口移動報告によると、東京圏への転入者は転出者を約15万人上回る「転入超過」となった。この現象は3年連続で、首都への一極集中の加速を如実に現している。2014年に政府政策で「地方創生」が発表されて以降、国や地方自治体、シンクタンクなどがそのワードを頻発しているものの、都会から見た地方の切り取りや一時的なお祭りで終わり、疲弊だけが地方に残されるということも少なくない。現実的な「地方創生」はどうすれば射程できるのか。
2020年1月25日、北海道釧路市のコワーキングスペースで開かれた「さいはて」のトークセッションでは、地方での生活とその未来をどう構築していくかについてメディア、クラブ、企業CSRなどの視点から語られた。本稿では、トークセッション全容を再構成し掲載する。
(イベントフォト 撮影:タニショーゴ)
メディア、事業とつくる地域の未来
さのかずや: 今回は「地方、音楽、お金、生活」というテーマでのセッションを企画しました。それぞれ、ローカルでの活動と東京での活動、クラブやカルチャーとの関わり方、考えていることなどあると思います。いろいろと話せていけたら、と。
Amps: ぼくは地元の高崎経済大学地域政策学部で都市計画について地元団体や企業とリレーションを学び、その縁もあって群馬県のしののめ信用金庫で仕事をしています。今回重点的にお話したいのが、19年春から自分が配属された「まちの編集社」というプロジェクトについてです。
まちの編集社では「つぐひ」というWebメディアの運営などをやっています。なぜ金融機関がやるのか。ローカルには非常に優れたコンテンツがあるものの、デザイン的な視点やスキルが乏しく本来伝わるべき内容が伝わってないという課題があります。そうしたコンテンツ情報を地域金融機関は日頃から多く取得している立場ではあるんですが、デザインや編集といった専門性に乏しい。そこで地域金融機関が地域のクリエイティブな人材と連携してクリエイティブな力で地域課題を解決するべく誕生したという経緯です。同時に〝超低金利〃時代に加え、地域の資金需要が減少し、金融機関の収益性が低下している中で、クリエイターと企業のマッチングによって地域に対して新たな価値創造、事業創造を図っていく。そうした循環の中で資金需要を発生させ、金融取引を活発化を誘引し、関係資本の強化による街の活性化をビジョンとしています。
清水達也: おお、かなり理想的な取り組みですね。UIも写真もきれいです。自分は北海道の右下で、釧路地方のローカルメディア「FIELD NOTE」の編集長をやっています。「この街にしかない」をテーマに、個人経営のお店の紹介をメインに地域情報の発信をしています。
フィールドノート取材風景 清水さん写真左
また、今回のイベント会場のコワーキングスペースHATOBAやシェアハウスなど、釧路の不動産会社ユタカグループの事業として運営・管理にも携わっています。
さの: ぼくも「オホーツク島」というオホーツク海側に関わる人を取り上げるWebメディアの運営をしています。現在はWebメディアだけでなく具体的な活動を広げるために取り組んでいます。生計を立てる仕事は東京でのフリーランスのクライアントワークで、行ったり来たりの生活です。もっとオホーツク海地域でやれることを増やすために、家を宿として貸す事業『オホーツクハウス』の展開も始めました。まだまだこれからですが、利益を少しずつ増やしつつ、オホーツク海側に来る観光客や関わりを持ってくれる人を増やすべく活動したいと思っています。
また、7年前からのブログをまとめた「田舎の未来」という本を出してもらい、ローカルイベントに登壇したり、インタビューをしてもらったりもしています。
野依史乃: 私は今は東京で、アイティメディアというWebメディア事業会社でビジネス向けのメディアの編集記者をやっています。もともと出身は福岡県の北九州市でして大学は東京、新卒の時にUターンで九州のブロック紙の西日本新聞の記者として就職しました。いろいろあってまた東京に上ってきましたが、規模の大きなローカルメディアが地域に根差して構築するネットワークとその効果は肌で感じていました。皆さんの活動はかなり興味深いです。
地方で“やっていっている人”がどう生活やカルチャーと向き合っているかを知るのが趣味と言いますか、その一環として東京のライターのkoharuさんと一緒にやっているnoteマガジン「クラブと生活」で時々ローカルプレイヤーへのインタビュー記事を書いています。ゆくゆく、自分も何か活動を具体化しなければという思いもありつつ……活動は停滞気味ですが……。
**ローカル、クラブ、ネットワークと持続可能性
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Amps: ローカルとクラブについて話すと、ぼくは約10年前くらいから地元高崎のクラブでDJをやっているんですが、当時はまだ今よりも人が多かった。でも、地方のクラブって今かなり客足が遠くなっている。地元のパイが減っていて、うまく回らない部分があります。群馬は東京と近いので、東京はじめ他県からの流入のためにイベントとリンクさせて群馬らしさを売り出す「Clubbers Guide高崎」というサイトを制作して副次的な情報を提示しています。イベントに来て、泊まるんならここ、飲むならここ、といった感じで調べれば当然手に入る情報ですが、手間がかります。なので高崎に遊びに来るハードルを下げようと思い、高崎での遊び方をパッケージングしています。
加えて、地元・富岡市の公園でも市から使用許可を取ってイベントも毎月企画しています。フードと音楽がある場所を作って、お子さんがいる人を中心に遊びに来てもらっています。大人と子供が一緒に地元で日常的に遊ぶ理由を作れたらいいなと思っています。
公園でのイベント風景 Ampsさん写真右
清水: 自分は音楽を地域で続けていくことで今の仕事に至りました。この後ライブをやるんですが、The?love(ザ クエスチョン ラブ)という名義でラップをやっています。2000年代前半、高校卒業後、東京や札幌に行かず釧路に居ながら音楽をやるにはどうしたらいいんだろうと考えていました。当時、九州だと餓鬼レンジャー、北海道だとTHE BLUE HERBなどの地元をレペゼンすることで音楽と地域性が可視化されて、そこにオリジナリティを感じて。自分たちも地域性を強く出していこうと釧路をレペゼンしていました。20代の頃は、音楽を続けていくために仕事を転々として、どうしたらクラブに人が来てくれるのかいろいろと足掻いてました。そこからフリーペーパーを作ったり、繁華街の公園でクラブミュージックの野外イベントなど企画もしましたが、クラブに客が増えたかというとまた違った問題があるように感じました。
行き着いたのは、クラブシーンだけ盛り上がることって地方では難しくて、地方丸ごと盛り上げないことにはクラブシーンも盛り上がらない、ということなのかなと思いました。また、時代の流れによってSNS以前と以降のコミュニティ形成の変化も感じています。SNS以前は個人商店やクラブという場所が社交場やハブになってカルチャーをつないでいた。今は便利にスムーズになった分、簡易化されましたよね。会って話するとか、コミュニケーションの大事な部分の希薄化が起きた。顔を合わせた人同士のカルチャーの伝播、情報交換は生活の持続可能性に通じていくと思う。そう考えて個人商店を繋ぐメディアをつくっています。
野依: 持続可能性という部分でいうと、noteマガジン名の「クラブと生活」の生活の部分には持続や連続性という意味を与えたくて名付けました。生活というと最近だとていねいな暮らし風の生活の部分を消費的に切り取った解釈をされそうですが、生活はどこに住もうが何を生業としていようが死ぬまでずっと切り離せないラディカルな営みだと思っています。「クラブ」や「イベント」というとどうしても非日常なものを想起しがちですが、クラブという場所は場所柄その土地のゆるく繋がって顔見知りになる社交場という性質も強いはずです。そこで起きていることを日常から切り離して全てエンタメ化するより持続可能なゆるい繋がりを想定しました。
これに付随する活動として昨年、東京・渋谷のキャパの大きな音箱で痴漢騒ぎとハコの対応をめぐってTwitterで議論が起きていた時、署名活動を企画して性別問わず皆が主体的に考えることで音楽と社交の空間を作ろうというようなステイトメントの掲載を求めました。活動は短期的には意義があり成功したと思っていますが、この活動はわたし1人が発起し続けても意味がないのでまた同質の問題が起きた時に参照される取り組みになればいいなと考えています。東京以外の地域からも1500人ほどの人が署名してくださり、クラブというリアルな場所について、各地の人がただ人が集まって騒いでいるというように捉えてはいないのだなということが分かりました。
お金の問題、地場企業の社会的貢献に期待
さの: 今回、ぼくが皆さんに会ってもらいたくて、4人で話したいなと思って出演をお願いしました。野依さんは人が集まるイベントをフェスとかみたいな一時的な打ち上げ花火で終わらせたくないという考え方、東京でも日本各地でもそういう動きがあるということに注目しているところが共通しているなと思っています。Ampsさんの取り組みもDJであるだけでなく、地域とカルチャーについて信金で本腰入れて仕事にしているというところに共感している。信金っていう地元の中小企業をよく知っている企業が情報を発信するって、かなり合理的で地域の価値を生み出しやすいですよね。
Amps: 信金のプロジェクトはもともと、2016年に理事長が変わったのがきっかけです。若くて柔軟な感性を持った方なんですよね。この問題は金融機関だけじゃないんですけど、地域のリソースが減少傾向にある中で今までのやり方では単純に地方で経営やっていてもジリ貧だろうと。さらに信金ってエリアが限定されているんですよね。だから出店できる地域と一蓮托生。エリアの衰退イコール信金の衰退に直結しているわけです。だからこそ、すぐ営業の数値にはつながらないにしても本質的かつ定性的な価値を顧客と一緒に生み出そうという意図のもと始まりました。
野依: 金融機関はじめ各県の大きな企業、例えば地域メディア、県紙とか県のテレビ局みたいな、そういう昔からある企業ってちゃんとお金が回せますよね。リソースも県下の企業では潤沢な方だし、独自のネットワークも持っているはず。そういう企業こそAmpsさんの働いている信金のように社会貢献もやっていくと空気が変わるだろうなと思います。でもこれって、若手の社員レベルが考えているだけじゃ正直難しいので全体、もしくは上のお金を動かす層がどう考えるか、彼らにどうしたら考えてもらうかが課題ですよね。一口に地方と言ってもいろいろで、政令市くらいの規模感だとその層が自覚的になるのは逆に難しいかもしれないですし。
さの: その課題観は北海道内でも共通してます。例えば北海道の大きな企業ってほぼ札幌にある。北海道新聞とかテレビ局各社、北海道全体をカバーしているとはいえ組織の中心の人たちは札幌にいる。なかなか危機感を持ちづらいんだろうなと思います。
でも、少しずつ変わり始めてきているのかもしれません。先日、NHK札幌のアナウンサー瀬田宙大さんをドット道東の代表の中西拓郎さんとともにオホーツク方面をアテンドし、取材してもらったんですよね。これはNHK札幌さんのほうから道内のローカルプレイヤーを取り上げたいという連絡があって企画をぼくから提案し試験的にやってもらいました。ローカルのネットワークを生かして新しいことをやるという動きは札幌ではNHKさんから出てきたので、期待したいところです。
若者の地域への“愛着”をどう生み出すか
清水: 地域にコミットする動きは社内だけじゃ完結しないだろうから社内外で問題とその向き合いを循環させていかないとですよね。会社とか組織の枠を超えて地域でちゃんと向き合っていく必要がある。密着型、一蓮托生でやって見えてきたのですが、釧路って20年以上前はかなり栄えていたのに今は閑散としている理由。この期間、地域の人たちがちゃんと向き合ってこなかった結果じゃないかという疑念があります。
「取れるものがあればとことん取る」と自社の利益追求をし過ぎたのではないでしょうか。山菜採りで根こそぎ採るのではなく次の年の分も残すように、次の時代を担う若者たちがバイタリティを発揮できる土壌を大人たちが育てて来なかったのではと思います。そして愛着を持てないまま18歳で地元から出て行ってしまう。
野依: 釧路と私の地元の北九州市は近代化、石炭産業での発展など相似する点が多いです。地元は北九州の中心地ではなく少し外れの工場の多い港街なのですが、そこでは同様のことが起きているように思えます。若い人が若いうちに主体的に取り組める環境がそれほど整っていなかった。愛着を持てないまま、多くの若者が東京や大阪だけでなく、福岡市や北九州の中心地にも取られていっています。
清水: 人が集まるところに価値が生まれるのに、行政は人が集まる仕組みづくりをしてこなかった。釧路は今「観光立国ショーケース」に選定されていて観光で盛り上がっているんですが、行政や企業も呼び掛けだけはきれいなことを言うんですよね。でも地域で実際に生活している人たちとリンクしてるかというと全然していない。
Amps: 地域への愛着ってそもそもなんなのか、考えたうえで取り組みたいなと思います。統計的には古いんですが2016年に、独立行政法人の労働政策研究所がアンケート(下図参照:第85回労働政策フォーラム高見具広氏『地域雇用の現状と課題─若者の定着・UIJターン促進のために─』より引用)を取っている。これによると強い愛着を持つ人の8割くらいは強さの度合いは異なれど「帰りたい」と回答しています。その解答者の8割というのは18歳までに6割超が地元の企業を認知している。大概は地方って18歳で大学進学、東京とかに出ていきますよね。街の人間とかを知る機会が圧倒的に少ないのが現状です。ぼくも高校のころは憧れの先輩やお店も地元の富岡市には正直ありませんでした。大学に進学して、DJをしたり人とかかわって初めて街に愛着がわきました。いかに街と人との接点を増やしてあげられるかが大事だと思います。愛着形成からやっていかないとですね。
清水: 愛着問題は重要ですよね。自分は18歳で学祭に出演してラップを披露して、そしたらクラブでもやりたいと思うようになって釧路のクラブでやり始めました。10代の経験と初期衝動が重なったというタイミングも大きかったです。でも18歳で地元から出ていくことは決して悪いことじゃないです。若い頃、自分はレペゼン釧路って言ってたけど道外に出て「釧路ってどんなとこ?」と聞かれたときに「何にもないんですよね」と答えていて、クソダセェなと思って釧路を離れていた時期があって。それで戻ってきたら、釧路の良さというか見えてなかったものが見えるようになった。外からの視点も大事なので、外に出ることも経験として良いと思います。はじめて会った4人のバイブスがこうして共鳴するのは、音楽が好きで音楽が生む一体感を信じているからだと思うんです。それと同じように、一度離れたからこそ地元の町や自然との一体感を求めるのは、地域への愛着が強いからではないでしょうか。
きれいごとでない「地に足のついた」取り組み
さの: そろそろお時間なので締めですね。お客さんたちの中で何か質問などありますか?
【会場質問】先ほど、オールドメディアなど、地元の昔からある企業の話が出ましたが、各社ともなかなか経営が厳しくて、ローカルの中のローカルをフォローできていない状況もあると思う。社外との連携の道というのはどういう手段があると考えますか? 例えば、札幌とオホーツクの連携だったらどういう座組があるんでしょうか。
清水: 自分は、地に足のついた地域の人とつながることが重要なのではと思います。さのくんと一度網走に行ったことがありまして。散々釧路の現状について、包み隠さずに話したあとに主催するまちづくり会社のひとが「私たちはオール網走でやっています」と。聞いていた人から「オール網走なんて私思ったことないです」という回答がありました。その場はそこから議論が盛り上がったのですが、このような例にもあるように、実際に地に足のついた取り組みとして、地域の生活者と関係しながら活動している人かどうかを見極めて繋がっていくのが重要だと思います。行政、企業、市民どこが偉いとかなく、対等な関係性でやっていくといいなあと。
さの: メディアのKPI、テレビでいうと視聴率やWebメディアならばPV数みたいなものをもっと違うところに置くといいなと思います。先述したNHKとかは道内の人とちゃんとつながるとか、先につながる関係性構築にシフトしている。お金以外の価値を置くってすごく難しいと思うんですけど、そこに目を向けていかないと何も始まって行かないと思うので。そういう取り組みから徐々に形が作られていくのではないでしょうか。<了>
▼当日の様子はvlog(制作:Soichiro Ono)をご覧ください!▼