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#ネタバレ 映画「青の炎」

「青の炎」
2002年作品
記憶
2003/4/6 9:09 by 未登録ユーザ さくらんぼ(修正あり)


( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

主人公の少年が弁護士の所へ行く。そこで弁護士の口から「少年があの男によって幼い頃に家庭内暴力を受けていた」事を知る。しかし少年にはその記憶が無い。

家庭内暴力を受けた本人にその記憶が無いのはとても深刻な事だ。心の奥深くトラウマとなって、その傷が今でも疼き続けている可能性がある。本人はなぜ自分が苦しむのか分からない。逃げ場のない苦しみの中で一人もがき苦しむ事になるのである。

その時、自分に悪夢を植えつけた男が家に住み着く。少年は自分でも本当の意味が分からぬままパニックになる。少年が窓の無いガレージの中で、さらに水槽の中に入り、胎児のごとく丸まっている姿は、苦しみにのたうちまわりながら自分の傷を舐めている姿である。

そこでガラス越しに指をふれあい見詰め合う少女もまた、少年と苦しみを共有している。一瞬にして似たもの同士の心が通い合ったのである。

少女にも家庭内暴力があったのかもしれない。伏線で犬の交尾の話が出てくる。少女は犬の話をしたがらない。「私より少し毛深い」と意味深長なジョークを話す。また少年の家で男は妹とトラブルを起こすシーンもある。元の妻に手を出すシーンも。それらが総合して語っている(記号)。少女にまつわる家庭内暴力には性的なものが感じられる。そのせいか少女には一番美しい青春の恋を夢見る乙女の姿が感じられないのである。

さらに、主人公の少年は、悩み事に助力してあげた友人の少年から想像すらしていなかった裏切りを受ける。友人の少年はむやみに触れてはいけない主人公の心の傷を逆撫でした事に気づかない。

性的なトラウマを持つ少女は性的な事には特にデリケートである。彼女は心が通い合ったと思った少年が、自分を性的な好奇心で見つめ、学校で辱めていたと思い、少女が犬と呼んで忌み嫌う自分の家族の誰かと少年が同類だったと誤解するのだ。結果的に少女もまた裏切りを受けたと思うことになるのである。あの少女の宙をにらむ目。ふたたび少女が誰かに心を開く事はもう無いのだろうか。

追記 ( 映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」 ) 
2020/10/11 9:26 by さくらんぼ

この作品のネタバレにも触れています。

不本意にも大きな事故の加害者になってしまった、善良で小心な一般人が、「その事故の重大さ、責任の重さをしっかりと理解した」がゆえに、逆にその重みに耐えられず、心が壊れるのを防ぐ為に、無意識のうちに記憶を無くしたり、記憶の書き換えをしたりする事があるようです。

映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」を観ると、改めてよく分かります。

追記Ⅱ ( 冤罪事件 ) 
2020/10/11 9:28 by さくらんぼ

ニュースなどを見ますと、過去の冤罪事件では警察側の証拠捏造もあったようですが、その他に、「お前が犯人だ!」「こうやったんだろう!」などと、警察側が想像したストーリーを取り調べで繰り返し聞かされているうちに、「自分に記憶が無いのは無責任にも忘れたせいで、ほんとうは警察が言っていることが正しいのか?」などと誤解してしまうこともあるようです。又、そのストーリーから「架空の記憶が産まれてしまうこともある」ようで、そんな話を、どこかで読んだ記憶があります。

追記Ⅲ ( 「やっとかめ探偵団」 ) 
2020/10/12 9:37 by さくらんぼ

この舞台のネタバレにもふれています。

「やっとかめ探偵団」だったでしょうか。若いころに(頂き物のチケットで)舞台を拝見したことがあります。ちなみに「やっとかめ」は名古屋辺りの方言で「お久しぶりです」というような意味です。

その舞台を知らなかったので、(失礼ながら)正直あまり期待をしていませんでしたが、意外にも刺さるストーリーで、青春の良い思い出の一つになりました。あれは映画化しても良いのではないでしょうか。

細部は忘れましたので正確ではありませんが、簡単にストーリーをご紹介します(ネタバレです)。

「  ある老人会が温泉旅行に行きました。

メンバーの太郎さんは人気者で、花子さんも密かに憧れながら、ついていきました。

ところが、旅館の土産物コーナーで、太郎さんは花子さんに、意外にもプレゼントを買ってくれたのです。

思いもよらぬことに花子さんは舞い上がりました。そして、いつしかデートへのお誘いを待つようになったのです。

旅行が終わると、毎日、花子さんは待ち続けました。

しかし、いつになってもお誘いはありません。

一年が過ぎたある日、我慢できなくなった花子さんは、とうとう太郎さんの家に様子を見に行ったのです。

『ごめんくださ~い』と言いましたが返事はありません。

玄関の鍵は開いていました。

恐る恐る家に入り、もう一度『ごめんくださ~い』と声あげたら、奥から太郎さんが出てきたのです。

懐かしい顔によろこぶ花子さん。

ところが太郎さんは言ったのです。

『あんた、だれ?』。

プレゼントをもらって舞い上がり、一年間恋焦がれた男から『あんた、だれ?』と言われ、花子さんは逆上しました。

もてあそばれたと思ったのです。

花子さんは台所へ行き、包丁を持ってきて、太郎さんを刺してしまいました。

その後、花子さんはふらふらと歩いて自分の家に戻りました。

実は、太郎さんは花子さんをもてあそんだわけでは無いようなのです。旅行直後に認知症が進行し、現在に至っていたのです。

そして、花子さんのその後はどうなったのかと言えば、ショックで花子さんにも認知症が発症し、つらい事件の事は忘れてしまったようです。

そして、この事件の真相は、誰にも知られぬままになりました。 」

こんなお話でしたが、老いの哀しみが感じられて、私は名作だと思いました。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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