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日本列島妖怪短編集 もののけの国

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#小説

後輩会計とセンパイ会長、休日の釣堀に挑む

後輩会計とセンパイ会長、休日の釣堀に挑む

 開架中学三年、生徒会所属、万能なる生徒会長の屋城世界(やしろ・せかい)さんは、時代が違えば釣り好きで知られる古代中国の名将、太公望(たいこうぼう)と釣り話で盛り上がるほどの傑物になっていただろう。世界さんのおじいさんもお父さんも釣り好きらしく、昨年、南半球のオーストラリアに海外旅行に行って、一家でカジキマグロの一本釣りに挑戦してきたほどの猛者だった。ちなみに姉の銀河さんは釣りでなく現地のサンタク

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薄命美粧

薄命美粧

 会社帰り、あまり使わない駅裏のドラッグストアに寄ったとき、たまたま女性店員と線の細い女性が揉めていた。客の女性は、夏なのに長袖のパーカーをすっぽり着て、顔や肌を完全に隠している。日焼けを避けているのだろうか。声が細くて聞き取れないが、商品のクレームか、あるいは万引きの疑いのようだ。周りの客たちも気に留めているが、レジが混んできたので早く収まってくれと迷惑そうにしている。私も今日は外出で汗をかいた

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後輩書記とセンパイ会計、宙吊の妊婦に挑む

後輩書記とセンパイ会計、宙吊の妊婦に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が進めば怪奇伝承を語り継ぐ文化人にだってなるかもしれない。ふみちゃんは小学生時代、古典芸能の鬼婆を調べて『日本鬼婆ふるさとマップ』を作るほどの上級者だったらしい。一方、隣で準備運動をする一年先輩の生徒会所属、平凡なる会計の僕は、およそ吊り合わないほどの鬼婆知らずで、数学が得意な理屈屋で、長時間走ってもズレないスポーツ用眼鏡を新調したばかり

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後輩書記とセンパイ会計、異界の旧家に挑む

後輩書記とセンパイ会計、異界の旧家に挑む



 ぴちょん。

 ぴちょん。

 ぴちょん。

 炊事場の蛇口から水滴が垂れている。みずみずしい夏野菜が桶の中で静かに艶めいている。なす、きゅうり、いんげん、立派なとうもろこし。
 誰もいない家。大きくて広い家。
 庭には赤白の花がきれいに咲き乱れ、どっしり構えた茅葺の母屋と、土間を挟んでつながった馬屋があり、馬や牛が柵から大きな頭を見せていた。鶏や鴨も庭を歩いている。

 ここに、いつまで、

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不二先生の処方箋 根比べ

不二先生の処方箋 根比べ

 若い女性の奇病を専門として少し名の知れた先生がいた。名は不二という。医者でふじなど縁起でもないが、先生の場合は関係ない。年は三十過ぎと若いのだが、面相は恐ろしく老けている。近所の年寄り達も「先生、具合はいいかい?」と労わってくれるほどだ。
 先生の扱う奇病はだいたい怨念が原因である。丑の刻参りやら水子の霊やら口裂けやら若い女性を見舞う災いは数多いが、その日はいささか珍しい客人が訪ねてきた。日傘を

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後輩書記とセンパイ会計、北方の小人に挑む

後輩書記とセンパイ会計、北方の小人に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えばアイヌ語の研究に生涯を捧げた民俗学者、金田一京助(きんだいち・きょうすけ)とともにアイヌ文化の調査に励んでいただろう。ふみちゃんは小学生時代、お父さんが集めていた日本各地の民族楽器を六年間でだいたい演奏できたほどの上級者だったらしく、特にアイヌの楽器ムックリ(口琴)がお気に入りだったそうだ。しかし、昨晩ふみちゃんの見た北海道の夢の

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