見出し画像

BUCK-TICKのはなし。




今日はBUCK-TICKの話を。

BUCK-TICKのコンサートには4回行った事があって、1回目の時はまだあまりよく知らなかった。黒羽が誘ってくれたので行ってみた。
音源で聴く以上にずっと素敵だったので、BUCK-TICKを聴いたり観たりするようになったのはこの時から。
BUCK-TICKはやっぱり視覚も共に鑑賞するのが良いなぁと思う。


2012年の10月には、2回目のコンサートへ行った。夢みる宇宙。

この頃に自分が最も気に入っていたのはLong Distance Callだった。
コンサートではちょうどその曲をやってくれたので嬉しかった。なかなか目当ての古い曲はやって貰えるものじゃない。

最後の"心が壊れてく、誰かを傷付けにいく"というフレーズが印象的で、兵士が母親にかけた長距離電話を題材にした曲。
一連のテロが起こり始めた頃に作られた曲で、極東 I LOVE YOUのアルバムに入っている。

綺麗な間奏が響いてる間、このまま時間が止まって欲しいと思ったのを憶えている。敦司さんがそこを歌うのをずっと待っていたかった。 座り込んで片耳を抑えて、宙を見ながら歌う敦司さんの姿が焼きついている。

映像が銀河の海で、ライトはネオンカラー。
特に赤がとても効いてる照明だった。
赤いライトに照らし出される黒い敦司さんのシルエットが魔王。

ブレードランナーや甲殻、白鯨みたいな、ディストピアSFの世界みたいで、そんな退廃的な地下クラブで聴いてるみたいな気になる夜だった。

軍服の敦司さんがマイクスタンドを無げ倒したり、踏んで起こしたり、擦りつけたり、十字架持ちをしたり、銃のように構えて客席に向けたりしていて、マイク使いの神だった。

公演が終わって、David BowieのSpace Oddityに送られながら会場を出た。


3回目のコンサートは或いはアナーキー。2014年7月。
この時はもう黒羽が一緒に行けなくなっていたので一人で行った。

画像1

メンバー全員、アルバムのイメージカラーの黒に赤で素敵だった。
敦司さんは片方の襟が羽だった。

画像4


DADAから始まって、何曲かはずっと暗い照明だったんだけれど、ボードレールで眠れないで照明が突然明るくなって、背景に大きくシュルレアリスムの青い楽園の絵が映し出された。それがヒエロニムス・ボスの『快楽の園』

画像3


これはブリューゲルを観に行った時に販売していたので購入したクリアファイル。

あの目の醒めるような瞬間の演出はとても鮮やかだった。
享楽的で怠惰な空気の中、退廃を抱えて泳いでるようだった。
敦司さんは「眩しくて」のところで、手を翳して陽を遮るように歌っていた。


masQueでは椅子に脚を組んで座って、片手にアナーキーのジャケットにあるあの仮面を持って歌っていた。

画像4


顔を隠したり、顔の横に持ったりしていたのが、自分の虚像を愛するナルシスみたいでとても素敵だった。
敦司さんは、太陽がいっぱいのアランドロンの鏡のシーンみたいな、そういうナルシシズムを演じるのが様になる。誰でも演じ切れる類のものではないと思う。


モンタージュの時にはステージライトを片手で持っていて、暖色の柔らかい色に、敦司さんの表情が綺麗に光るように浮かび上がっていた。

他の曲でも、もうどの曲だったかわからないけれど、藍紫色の照明の中で、明るいスポットライトを敦司さんだけに当てて始まる演出があり、言葉にできないほど綺麗だった。

照明が天使の梯子のように層になって、敦司さんの肩の辺りまでが浮いているように見えた。

あの静謐な空気の一瞬は、たぶん映像では伝わり切らないような、会場に落ちる静寂の美しさが酸素になって充満するような感動があった。


PHANTOM VOLTAIREは、敦司さんがワルサーのフレーズで手を銃の形にしたり、ピアノの音のところは空中で鍵盤を弾くようにしたりして、悪魔のように嘲笑うところも素晴らしかった。


サタンは路地裏の猫を演じてるような様子だったんだけれど、遠目で見てると髪型のせいもあって男娼のように見えて…という表現は良くないかもしれないけれど…妖艶さのある少年のようだったんだよな、不思議と。
すごく雰囲気があって、あの時たしかに自分は路地裏を見てた気がする。

ONCE UPONは赤と黄色の照明で、ステージが明るく滲んで見えて、夢でもみてるみたいだった。

メランコリアはシルクハット。団長のように。ラストにはいつもの紳士な礼をしてくれた。


特に印象に残ったのは二曲で、

世界は闇で満ちている。

背景は古い時代のプラネタリウムみたいな星空で、満天の星空の中で歌ってた。

最後の『流れ星、夜空を覆う』のフレーズで、瞬間、背景が銀河の花束になった。
『溢れ出し、両手で掬う』銀河の花束を抱き締めて歌ってるみたいだった。

この歌詞は今井さんの書いたものだけれど、やっぱりどうしても歌ってるのが敦司さんだから、敦司さんの説得力になって伝わってくる。

いろんな暗闇を知っていて、いろんな昏い気持ちを抱えて生きてきた人が、こんな風に歌っているのは、昏い世界の中からなけなしの星屑を集めて抱き締めているように見えて、泣いてしまった。


もう一曲は、無題

これは、暗いサイケデリックな柄が歪む、ノイローゼみたいな背景で、空気が凝縮されて物が全部歪んでいくような始まり方をして、頭がおかしくなりそうな感じだったんだけれど、
I'm a fool…のフレーズで照明が赤くなって空気が変わった。そのとき鬱屈した空気を振り切って、敦司さんが照明の赤で血塗れになって、のたうつように歩く。

あの空気の変わり方は本当に凄かった。
前向きさではなく、重いものを引き摺っていながら、それでも愚かに歩いていくというような……ひとつの開き直りというのか、受け入れというのか。覚悟のような強さに見えて、とても自分の中に残る光景だった。


アナーキーのアルバム以外だと
ICONOCLASM、夢魔、DIABOLO、LOVE PARADE、NATIONAL MEDIA BOYSなんかをやってくれた。

夢魔は一度は体験してみたいBUCK-TICKのライブ代表曲だったので、少しサバト体験という感じで楽しかった。
敦司さんがマントを片手で広げるあのポーズは完全に魔王。

DIABOLOは段差を降りる時と上がる時に悠然と間を取るのが貫禄だった。

MCはあまり話さなかったけれど、ありがとうは何度も言ってくれてた。




自分はバンギャにしてはあまりライブに行っていないので、狭い範囲で判断することになってしまうけれど、今まで行ったバンドだとBUCK-TICKのライブが一番居心地が良かった。

例えば前向きさや正義は時に負担になるものだけれど、BUCK-TICKには闇を闇のままで包み込んでくれるような優しさがあって、許されているような気になる。

痛みを吐き出すようなライブも共感できるけれど、BUCK-TICKの安心感は他で感じた事の無い類のものだった。


BUCK-TICKが創る音楽は本当にひとつの宇宙みたいで
単純に思い浮かぶ風景もそうだけれど、シャガールの空に浮かぶ心象風景や、ゴッホの描く星空のような寂しい煌めきがあって、すごく絵に近いと思う。
だから、連れて行ってくれる心地や行き先が、他のバンドと違ってる。

暗い痛いと嘆くよりも、暗闇と愛し合うような、闇を従えて戯れるような、そんなボードレールのような世界観が…他にない魅力と深さになっていると思う。

BUCK-TICKからは、なにか他のバンドよりも、絶望を内包しているこの世界への憎しみではなく、悲哀と隣り合わせの深い愛の感情が伝わってくる気がする。



このあとアトム未来派のコンサートへも行って、それも素敵だったけれど、一番印象的だったのがアナーキーのコンサートだったので、そちらは省く。

BUCK-TICKが30周年を迎えてからはチケットが取れなくなってしまって、でも一番自分にとって必要な時に行けたんだろうと思う事にする。

敦司さんは瞳に宇宙を持つ人だと思う。
あまり詳しくはないけれど、雑誌などのインタビューも、言葉選びや知識の種類がとても好きで、生い立ちなど、いろんな部分で勝手に共感している。
BUCK-TICK初期の敦司さんは、長い黒髪が本当にルシファーみたいで、今は魔王という感じ。


最後に敦司さんが書いた好きな歌詞を載せておくので、良かったら聴いてみて下さい。
MVは、ROMANCE蜉蝣が特に好き。


幻想の花

幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それはバカげた夢だと
君は 楽しそうに笑う
幻想の花 歌っておくれ
この世界は 美しいと
それは素敵な夢だと
君は 狂ったように笑う
甘い蜜 飲み干せば
やがて苦しみに染まる
花を 花を敷き詰めて
狂い咲き命を燃やす
揺れながら あなたは夢みる
この世界は美しいと
この胸に咲いている
あなたはとても綺麗な
花びらを千切る
真実に触れた指に 朝日が突き刺す
狂い咲き命を燃やす
揺れながら あなたが咲いている
この世界は美しいと
叫びながら きっと咲いている


これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!