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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#忘れられない恋物語

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)愛する

きみが空を愛するように ぼくはきみを愛した きみが海を愛するように ぼくはきみを愛した きみが星を愛するように ぼくはきみを愛した きみが風を愛するように ぼくはきみを愛した きみが故郷を愛するように ぼくはきみを愛した なつかしい空、なつかしい海 なつかしい星、なつかしい風 なつかしい街 初めて会った時 初めて会った人なのに なつかしかった あの時きみが どうしてもなつかしかった 限りない空のように 限りない海のように 限りない星のように 限りない風のように

(詩)憧れ

昔わたしが わたしだったもの 石、草、花 木、木の葉 空気、水 波、波音 雨、雪 虫、土 大地、風 駅、夜行列車 レール、枕木 プラットホーム 海岸線、地平線 夕闇、黄昏 木洩れ陽、朝焼け 銀河、満天の星 ネオン、はーばーらいと 雑踏の足音 昔 わたしが わたしだったもの 草 きみの足元に 咲いていた 風 きみのほおを 撫でていった 夜明け いつも きみを包み込む 夜明けのしずけさで ありたかった

(詩)少女へ(海)

貝殻、足跡、波の音、 空の青さ、木漏れ陽、プラタナスの木陰、 夕映え、夕立、虹、 駅のホーム、街の灯り、花火、 星座、ラヴソング、風のにおい、 夜明けの静けさ…… 目印はいくつもある、この星の上に もしもきみが遠い国へ行って 誰もきみの行方を 知る者はいなくなっても きみが残していったすべてのものが やがてこの地上から 永遠に忘れ去られた後にも ぼくは海の夕映えのきらめきの中で 潮風と遊ぶきみの笑い声と出会うんだ きらきらと輝く波の中で いつも寂しそうにしているぼくの背中

(詩)追伸

ずっと想いつづけていれば いつかまた会えると信じていたけれど どうやら今度別の人が ぼくを好きになってくれそうなので これからぼくは あなたを忘れることにする こんなふうになることが ぼくたちにとって 一番よかったことなのか どうかはわからない 何度も激しい雨に打たれ ひとり夜の都会をさまよい歩き ぼくの愚かさを責め あなたを失うことの いたみからのがれようとして 無理に誰かを愛そうともした そのたびにぼくの中で あなたの面影は美しくなり あなたと出会ったことが 今で

(詩)きみが星なら

きみが星なら 誰もいない駅のプラットホームで 終電車まで見上げている 何度も何度も大きく手を広げてさ この宇宙のどこかに きみのいる星がある きみが風なら 都会の人波にまぎれて 夜明けまで歩きたい ただぼんやりと 時より口笛吹いたりしてさ この星のどこかに きみの風が吹いている きみが海なら ぼくは名もない港になろう そして夜明け前打ち寄せる きみの涙にしずかに濡れよう いつまでも、いつまでも そしてきみのしおざい 聴いていよう

(詩)夢の樹

花びらが散ったあとの桜が それでも桜の木であるように 実もとうに落ちて 今は雪におおわれたりんごの木が それでもやっぱり りんごの木であるように めぐりくる季節の中で 昔あなたが 貧しい家の少年だった頃 あなたの勉強机の前の 窓から見えた あの一本の木は なんの木だったろう 名も知らない 名前があることさえ 知らなかったその木の枝に けれど毎年 夏にはせみがとまって鳴き 冬には雪が舞い降りた まだ少年だったあなたの耳に せみしぐれはやさしく まだ少年だったあな

(詩)林屋の紀ちゃんが

どうして林屋の紀ちゃんは ジョーとのことをあきらめて マンモス西と結婚したんだろう そんなことをふと想いながら ぼくはあなたのことを思い出していた あなたといたあの時代のことを 昔あんなに不幸だと思っていたことも 十年二十年歳月がたつと 今ではこんなになつかしくて どうして時が流れ去っただけで どうして人はおとなになると どうしてこんなになんでも 許せるようになるのだろう なにかをあきらめてしまうことも あきらめてゆく人のことも どうして人はいつも 幸福ばかりを望ん

(詩)片想い

想い浮かばなかった言葉 うたわなかった唇 想い出せなかった顔 忘れ去った後の海のしおざい 想い出せなかった顔 けっして忘れた おぼえはないはずなのに どうしても 想い出せなかった顔、微笑み その泣きそうだった微笑み 「だいすき」と 動かせなかった唇 「だいすき」と いくら想っていても 心の中で何度つぶやいてみても どれだけ「だいすき」だったか 自分でも気付かなかった心 女の子をデートに誘おうとする 瞬間にかぎっていつも ラブソングをうまく口ずさめない どんなにあなた

(詩)最後のハイキング

五月の風に誘われて あなたと出かけたハイキング 新緑の森を歩き 草花に語りかけ 意外にあなたが花の名前を 知っていることに驚きました 静寂が支配する山の上の 小さな神社で手を合わせ あの時あなたは 何を祈っていたのでしょう 急な石段を降りる時だけ わたしの手を引いてくれましたね わたしたち 何年振りのことだったでしょう ふたり手をつなぐなんて それから小高い丘で お昼のお弁当を広げ あなたはおにぎりを ご飯粒一粒残さず食べました お昼が終わると あなたはごろりと

(詩)ハッピーバースディ

誕生日がハッピーなわけ どうしてバースディの上で ハッピーが笑っているのか どうして ハッピー・バースディなのか おしえてよ おしえてください 生まれてからずっと 不幸せだったわたしに どうかやさしくおしえてね どうしてわたしが生まれたか どうしてこの星が生まれたか わかるくらいに 痛いほど響くあなたのこどうで ある日見知らぬ女と男が ある日どこかの街のかたすみで めぐり会い恋に落ちた ハッピー・バースディ ときめきの中から生まれてきた、と 誰もがすべての罪と す

(詩)雨に消えた微笑み

肩を濡らす雨に気付いて 傘を差すきみのため息が白く 星のない夜の空に消えてゆく ぼくがなりたかったもの きみの肩を包むレインコート きみの肩に寄り添う傘 きみの肩に落ちた雨のしずく ふときみがついたため息 傘も差さず大きな声で呼んだら きみは振り向いて少しだけ笑った なりたかったもの ただしずかに降りしきる雨 きみがいなくなった後 きみの微笑み思い出すように 何度も何度も思い出すように ただしずかに降りつづく雨に なりたかった

南荒尾駅で会いましょう

不思議な海が 目の前に広がる その駅で、会いましょう その時は、夏がいい 日中はほとんど 人が訪れることもない その駅は 都会の雑踏の中で 人生のほとんど 全部を費やし 疲れ果てたぼくたちに やさしい記憶を くれることでしょう 干潟と呼ばれる もしかしたら 海の中をどこまでも どこまでも 丸で十戒のモーゼのように 海の果てまでも 歩いてゆけそうな そんな海辺で ひとりぼっちいつまでも あなたを 待っていたかった あなただけを 待っていたかった 少年から 老人になるま

エスカレータ

人波から少し離れて エスカレータの 一番後ろに乗るのが好きさ 人込みの中で わざとゆっくり歩くのも 何人の人と ぶつかるか数えながら 何人の人と ぶつかったら きみに会えるだろう 東京で暮らす人の数だけ ぶつかれば会えるかな でもおんなじ人と ぶつかったりするから やっぱりきみには 会えそうにない ……都会なんて、そんなものさ 男は 好きな女の子がいないと 詩が書けない 詩人はたえず 誰かを好きでいなきゃ 詩が書けないから きみに飽きた後 ぼくは 誰を好きになろう そ