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(詩)最後のハイキング

五月の風に誘われて
あなたと出かけたハイキング

新緑の森を歩き
草花に語りかけ

意外にあなたが花の名前を
知っていることに驚きました

静寂が支配する山の上の
小さな神社で手を合わせ
あの時あなたは
何を祈っていたのでしょう

急な石段を降りる時だけ
わたしの手を引いてくれましたね

わたしたち
何年振りのことだったでしょう
ふたり手をつなぐなんて

それから小高い丘で
お昼のお弁当を広げ
あなたはおにぎりを
ご飯粒一粒残さず食べました

お昼が終わると
あなたはごろりと横になり
くもひとつないまっ青な空と
みどりの風に吹かれながら

いつしかふとった
あなたのおなかが寝息を立てて
せわしなく、せわしなく
動き出しました

どこからか舞い落ちてきた
一枚の葉がちょこんと
そんなあなたのおなかの上にとまって

あなたの呼吸といっしょに
動いていました
無邪気な子どものように

わたしはそっと
大事に大事に白いハンカチに
その葉を包んで帰りました


あれから
あなたがもう遠く
いなくなってしまった今でも

たった一枚の葉が
今でもちゃんと
思い出させてくれる

あなたとの、最後のハイキング

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