見出し画像

(詩)追伸

ずっと想いつづけていれば
いつかまた会えると信じていたけれど

どうやら今度別の人が
ぼくを好きになってくれそうなので
これからぼくは
あなたを忘れることにする

こんなふうになることが
ぼくたちにとって
一番よかったことなのか
どうかはわからない


何度も激しい雨に打たれ
ひとり夜の都会をさまよい歩き
ぼくの愚かさを責め
あなたを失うことの
いたみからのがれようとして
無理に誰かを愛そうともした

そのたびにぼくの中で
あなたの面影は美しくなり
あなたと出会ったことが
今では夢の中のできごとのように
やさしくあまりにもやさしく
ことあるごとにぼくを
かばおうとしてくれるので

あなたの前で
あんなにわがままだった少年も
今はただ
あなたにありがとうと
つぶやいているのです

歳月はそんなふうにやさしく
人からいくせんの面影を
少しずつ忘れさせ
忘れゆくことでけれど
人は荷を下ろし
またやり直すことも許され
またいくせんの面影を失うことで
いとおしさを学んでゆくと
いうように

歳月は静かにいつも
人の前をゆっくりと流れ去ってゆく
どうやらそんなふうに
この世界はつくられているようです


ずっと想いつづけていれば
いつかまた会えると思っていたけれど
今朝久しぶりに何十年かぶりに
少年の日のような風が
ふいにやさしく
ぼくのほおに吹いてきたので

何だかもうそろそろ
あなたをぼくから
自由にしてあげなきゃいけないと
そんな気がして

追伸

今日ぼくは
あなたを忘れることにしました

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,624件

#忘れられない恋物語

9,154件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?