ブルーハワイの男。
巨大な水槽の中で、イワシが大きな群れを成し動いている。竜巻を思わせる渦をつくり出したそれは、まるで走馬灯のよう。
夏になると、決まって同じ水族館を訪れた私たちは、アシカとイルカのショーを見て、サメが餌を食べるところを見た。
最後にイワシの大群のショーを見終えると、あなたは必ず「かき氷でも食べようか」と言った。
混み合うフードコートに席を見つけて私を座らせると、あなたは一人、かき氷を売る列へ並ぶ。
私の元へ戻ってきたあなたが手にしているのは、決まってイチゴとブルーハワイのかき氷。
私にイチゴを差し出すあなたの決まり文句は「なんだっていいよね。かき氷のシロップは全て同じ味なんだから」。
初めてのデートで、あなたのこのうんちくに私が驚いたこと、余程気に入ったのね。
つまらない人。
私は「何味にする?」と聞いて欲しい。
味が同じだと言うなら、「何色にする?」でも良かった。
私は、あなたの青く染まった舌が、私の赤く色づいた唇に触れることを嫌っていた。
私は今、「天然氷」を使用した、人気のかき氷屋に来ている。
ここで、“ほうじ茶ラテ”というかき氷を選んだ。
運ばれてきた大きな大きなかき氷。
見た目に美しく上品なそれは、スプーンですくって口に運ぶと、ほろほろと口の中で溶けてなくなる。香ばしい香りが鼻を抜けていくとき、私は自由と幸福を感じる。
「なに味だって一緒だよ」と言った男との夏を思い出した。懐かしいのに、思い出せないあの味。
目の前にいる男と目が合う。
マンゴーの果肉がたっぷり乗ったかき氷をほうばりながら、男は微笑んでいる。
私は男の冷えた唇を見て、この男との夜を想像していた。
[完]
今日は水族館へ行きました。
アシカとイルカのショーを見て、サメの食事風景を見て、イワシのショーを見ました。
暑かったので、帰りにかき氷を食べました。
そんな夏の思い出から、創作してみた小説です。
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