金曜20時までの恋人③ 〜月曜の夜〜
「メッセージするね」と言って別れたミナナから、その日の夜に連絡があった。
「明日の夜、時間あるかな?できたらご飯でも」
・・・
月曜日から女の子のことを考えるのは久しい感覚だった。
仕事が終わる頃に連絡をすると伝えていたから、なんとなく早く切り上げようと頑張っている自分がいた。
18時になり、ミナナにメッセージを入れる。
「19時半に新宿でどう?」
返事はすぐに返ってきた。
「おっけ。多分先に着くから、適当に店探して入ってるね」
さくさくと進む会話。
ミナナはとてもあっさりした性格で、まるで男友達と会話している気分になる。自分が「恋人」役であることを忘れてしまいそうだ。
ミナナは駅ビルのパスタ屋で待っていた。
仕事帰りだからか、いくらか清楚な格好で、化粧も清潔感があり、それまで抱いていた彼女の年齢より、少し上がったような印象を受けた。
「お疲れ様」
僕を見てにこっと笑顔を見せたミナナは、少し照れくさそうだった。
「恋人になって」と言った時の無邪気な彼女を思い出して、顔が緩んだ。
「何笑ってるの」
「いや、可愛いなと思って」
「はぁ?なにそれ」
やっぱり照れている。
ミナナと僕は一つ違いだった。
彼女は25歳、僕はその一つ上だ。
出身はどちらも東京。
僕らはそれなりに共通点もあり、話題に事欠かなかった。
お互いに少しワインを飲んでリラックスしたところで、僕はあの日の話をしてみた。
「僕たちはどうしてホテルに行くことになったんだっけ」
ミナナは首をかしげてから「んー、なんでだっけね」と言った。
僕は本当にあの日の流れを忘れている。
仕事に疲れて、少し飲み過ぎた状態で行ったクラブでミナナに出会ったのだ。
どういう会話をしたのかすら思い出せない。
「なにかその、君に失礼なことはしていなかったかな」
後ろめたい気持ちで聞くと、ミナナは
「嫌なことをした人に、恋人になってほしいなんて言わないよ」と言って、あははと笑った。
22時過ぎ、新宿駅南口での別れ際、小田急線方向にさっさと進んでいこうとするミナナに僕は
「送って、とか言わないんだね」と言った。
ミナナはきょとんとした顔で
「言わないよ。毎日ひとりで帰ってる道を送ってって、意味わかんないでしょ」と言う。
お酒が入って、普段より気が大きくなっていた僕は
「恋人らしいこと、したかったんじゃないの」と言ってみた。
「タカシはいつも送っていくんだね」
「アユムね。いや、送ってって言う子だったら、帰る電車があれば送るよ」
わははとミナナは笑う。
「なんだかな。ロマンティックさの欠けらも無い」
あんたが言うか、と思ったが口にはしない。
「そうだね。ロマンティックさはないかも」
「じゃあさ。今日帰ったらアユムくんから私に、ドキッとするようなメッセージ送ってよ。待ってるから」
そう言ってミナナは去っていく。
ドキッとするメッセージ?そんなものこの僕に要求するのか。
そういうのは「恋人」になる前の二人がやるものじゃないのか。ましてや、好きで一緒にいるわけでもない相手に頼むものではない。
(続く)
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