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それは希望の香り 【呪いの臭み】

「空気を読めなんて昔は言っていたが、今の時代は違う。空気を“嗅ぐ”んだよ」
今は『嗅ぐ時代』なんだとプロデューサーは言う。

「人間味というのは、微妙な臭みにでるもんだ」
私が歌詞を書いた時には、よく言われた言葉だ。臭みを感じられない歌詞は直ぐに書き直しになる。

「気持ちを臭みに乗せてみろ。臭みが足りないんだよ!」
レコーディングでは何度も激怒された。

「私は…こんな歌を歌いたいんじゃ…」
「こんな歌とは。聴く者に微かな臭みさえ感じさせられないお前が、どんな歌なら歌えると言うんだ」

限界を感じた。涙は後から後からこぼれた。
このままでは好きな歌を歌えないまま、アイドルとして終わる…。

「俺が憎いか。それなら恨め。とことん呪ってみろ!」

・・・
目が覚めるような感覚だった。
私はついに鼻腔の奥に微かな臭みを嗅ぎとったのだ。これはまさに、呪いの臭み。

あのプロデューサーでさえ、私の臭みの増した歌に涙する。

「お前…ついに………くさっ!」



[完]


#毎週ショートショートnote
に参加させていただきます。今週のお題【呪いの】×【臭み】で書きました。





いつもお世話になっています。
苦しみの中に少しでも心穏やかな時間がありますように。

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