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こころの病気はなにをもって良くなったと言えるのか?

福島県の医学部で学生教育をしながら、心理カウンセラーをしたり、研究をしたり、YouTubeの運営をしたりしてるあおきしゅんたろうです。

まわりのひとがこころの病気になってしまったことって少なからずありますよね。

こころの病気が治ったかたは本当によかったです。そうではないかたは、「なんか良くならないなぁ」ってこともありますよね。

こころのことってよくわからないですね。調子が悪いんだけど、何がどう悪いのかがよくわからない。

お医者さんやカウンセラーは、「だいぶ良くなってきましたね」って言うんだけど「いやいやぜんぜん良くなってないよ」ってこともあるかもしれません。

薬を飲んだり、カウンセリングを受けたりしているけど、これって本当によくなってるんだろうか?

病気じゃないあなたにも当てはまるかもしれません。なんかメンタルの不調が続くんだよなぁってときに、ストレス解消したり、パーっとやったりしますよね。

そういうときって、「何をもってこころが良くなった?」と言えるのでしょうか。

そのひとのことばと行動


わたしは心理学を学んでもう15年も経つので、何をもって良くなったと言えるか?についてのいくつかの心理学に基づいた考え方を知っています。

心理学を学ぶ前は、じぶんがよくなったって思えたらよくなったでしょとか、困ってることが解消されたらよくなったでしょとか、そう考えていました。

いちばん古くからあって、いちばんみなさんが納得できるよくなったは、「自分が良くなったかと思える」かです。

しかし、治療として良くなったかどうかを判断するには、医療者側があなたが良くなったことを客観的に理解できることが必要なんです。

そこでまず考えられた良くなったかを知る方法は「ことば」でした。

ことばで、良くなりましたーとか、気分も悪くないですとか、そういったことばをきいて、良くなったかどうかを判断していたわけです。

しかし、ことばだけでは、嘘の報告をする場合や、医療者の手前、悪くなっていると感じていることをいえなかったりすることもあります。

そこで、こころが良くなったを知る方法として、「行動を数える」という方法がとられました。

行動が起こる前や後に起こることに注目して、行動をコントロールしようとする行動分析学という学問では、いまでも行動を数えるという方法がとられています。

強迫症のひとが手洗いする行動を数えたり、うつ病のひとがマイナスな発言をする回数を数えたり。

治療をおこなった前後で「行動が増えるまたは減ることで良くなったかどうかを理解する」わけです。

科学の進化とエビデンス


ことばや行動の変化は、そのひと個人がよくなったかどうかを判断するにはよかったのかもしれません。

しかし、科学が進化するにつれて、「この治療法は本当に効果があるのか?たまたまなのか?」という疑問に答える必要が出てきました。

ここで出てきたのが「検査」です。特にアンケートや面接法などで得点を出すことができる検査によって、その方の心理のレベルを測定することができるようになりました。

例えば、うつ症状や不安症状を測るための検査もありますし、性格特性を測るための検査なんかもあります。

得点を出すことによって、統計解析をおこない、その治療法の効果を知ることができるようになりました。

そして、一般的な平均値と比べたときのそのかたの症状のレベルを知ることができ、治療によってスコアが変化しているかを知ることもできます。

これが現時点での良くなったの指標のメインとなるものです。

さらに進化する科学


一方、このやりかたにも問題があります。スコアが改善して医療者が良くなったと判断したとしても、「当の本人がよくなったという実感がない場合がある」ということです。

医療者とご本人との間にはしばしば溝があります。医療についての知識があるかどうかもそうですし、「良くなったの意味が違う」こともあります。

検査とご本人の訴えがすれ違ってしまう場合があるんです。ということで、さらに客観的に良くなったを理解することが必要になりました。

ここでひとつあるのが「神経科学」の進歩です。最近では脳科学がかなり進歩してきていて、こころの病気と関係する脳の場所やつながりがわかってきています。

まだ医療現場で応用するには至っていませんが、脳画像検査をすることで、こころの病気が良くなったかどうかを客観的に知ることができる未来は近いかもしれません。

最後に、こころの病気が良くなったかどうかを判断するのに、また「ことば」に戻って来ようとする流れもあります。

テクノロジーの進化によって、人工知能(AI)の技術が進展してきており、心理療法をおこなっているときのことばのやりとりによって、さまざまなことがらを理解できるようにする取り組みがされています。

こちらはわたしも関わらせてもらっている「デジタル×人間の融合による精神の超高精細ケア」という研究チームです。

昔ではことばを解析することが難しかったのですが、今の時代ではこういったことが少しずつできるようになってきました。

心理療法や診察中のことばを解析することで、「こころの病気が良くなった」ことを判断できる未来も近そうです。

それでは最後までお付き合いいただいてありがとうございました!

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筆者 あおきしゅんたろうは福島県立医科大学で大学教員をしています。大学では医療コミュニケーションについての医学教育を担当しており、臨床心理士・公認心理師として認知行動療法を専門に活動しています。この記事は、所属機関を代表する意見ではなく、あくまで僕自身の考えや研究エビデンスを基に書いています。

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