繋げるか分けるか( #道具とか家とか地域とか vol.3 )
どんどん進んでる「家」の工事。現場では今、内装のパテと塗装作業がはじまって、外装もガルバリウム鋼板がどんどんついてます。つまり、いよいよ仕上げの段階です。
3ヶ月前のインタビューで、大工の中島さんが「一番楽しい瞬間」と言っていた工程ですね。
そんなタイミングで、中島さんと建築家のミユキデザインさんと集まる機会が作れたので、いろいろ話してみました。
1.変えたいところをどうやるか
アオキ
中島さんはたしか「塗装が入り始めて完成間近になる時が一番楽しい、卒業式が近づいてるような気持ち」って言ってましたけど、まさに今そんな気持ちですか?
中島さん
うーん、もうちょい先っすね。卒業式の喩えで言うならまだ1月くらいの気持ち。今はまだメインの大窓もついてないし。
アオキ
一番大きな窓が納期大幅遅れという状態ですもんね。どうなることやら。
ミユキデザインさんとこうやって話すのは、年始のトークイベント以来ですね。
アオキ
どうですか、今の気持ちは。
大前さん
僕らの中の節目は、外部足場が取れるあたりなんですよ。だからまだまだって感じですね。
アオキ
イベントでは最終の模型をベースにお話ししてたんですけど、あれからいっぱい変更しましたよね。たとえばトイレと手洗い周りを考え方からごっそり変えたりとか。
アオキ
上棟が終わって、実際のスケールで空間に入るからこそ思いつくことってありますね。
アオキ
今回みたいな上棟後の変更って「ギャー勘弁して!」って感じなんですか。
大前
全然問題ないですよ。大丈夫。
末永さん
まあでも、珍しいことではあるんじゃないかな。
中島さん
エアコンの位置変更とか棚が追加されたりもしましたね。
大前さん
寝室の窓も変更になったり。
アオキ
ロフトの小窓も追加しましたよね。
末永さん
あそこは収まりとか結構悩んだかな。
中島さん
まあ僕らは図面があれば悩まずに作れるんで、全然問題なかったです。
数日前には、三角部分の壁の延長もありましたね。
アオキ
あれは本当すみません、あんな最終段階でいきなり壁追加とか言って。
中島さん
いや全然問題ないです。ちょろいっすよ。
大前さん
いや、そこは「アオキさんのために頑張りました」って言わないと。
末永さん
建築家の「監理」って、図面通りに作れているかを監視するっていうのが本来の仕事の設定なんだけど、変えたいところをどうやるかっていうのに、私たちはやりがいを感じてます。
アオキ
そのスタンスはとてもありがたいです。
2.シンプルだからこそ要求される精度
アオキ
ちなみに、施工する上で一番しんどかった場所ってどこですか?
中島さん
うーん、今回の現場はないっすよ。
アオキ
でも、もう工事始まってるのに、あっちをこうして、こっちをこうしてって言われて嫌じゃないんですか。
中島さん
いや、言ってもらえた方が良いっすよ、意外に何でもできるんで。
ああ、あれは変更とかじゃないけど、1箇所だけしんどいところありました。タラップ。
アオキ
ああ、ハシゴ!あそこは要求精度が本当にすごかったですね。鬼。
中島さん
僕はできんって投げたすもん、親方(中島さんのお父さん)に。
アオキ
そもそも鉄の溶接だって、多少のズレはあるわけで。そこにピッタリと木の穴を合わせるなんて。鉄が少しでも垂直ずれてたらアウトだし。
中島さん
その辺も、ハンマーで叩いて直しながら入れるんすよ。
アオキ
おかげで本当にシンプルなはしごができたんですけど、シンプルすぎてたぶん苦労が伝わらないという。
3.その選択は普通はしない
末永さん
今回の現場が他の現場と違う点があるとしたら、アオキさんに細かいことをかなり説明してます。
たとえば、普通はカーテンボックスがどう収まってるか、木と木をどう組み合わせてどこに線が出るかなんて気にしない。
末永さん
でもきっとアオキさんは気になるだろうから、一個一個どうしてこうなるかを説明しました。
ついさっきも、可動式間仕切りの話があって。
アオキ
上から吊っている可動式間仕切りだから、床にはレールがないって聞いていた。でもレールがないかわりに、わりと目立つマグネット式の部材が床にいっぱい必要だって話が急に出てきて。
僕も奥さんも、そういうのが許せなくって。めちゃくちゃピリピリしましたよね。「ああでもないこうでもない」ってその場でみんなでアイデア出しして、なんとか別の解決策が見つかりました。
末永さん
そういうのって、普段だと「こういうのが必要なので、やっておきました」「ああ、そうですか」で終わり。
だから一つ一つ説明して、施主と一緒に「なんとかならんか」ってなるのは、他の現場ではないかなと。
大前さん
窓の額縁周りもね。なぜ窓台が必要で、どういう収まりがあり得るのかって。説明して。
アオキ
最初の設計では全く窓台を感じさせないように、窓台と壁を一体化する感じにパテで埋めてくれようとしてたんですよね。
「いやいや、そこまでのストイックさは求めてないです!」って言って。「段差できちゃって構わないので、薄い窓台にしましょう」って僕の方から提案しました。
中島さん
「段差つけて良いんならむしろ簡単ですよ」って。
僕も今回は暗黙の了解で進めるよりかは、よく連絡して聞いてましたね。
末永さん
実は今もわからないことがあって。自分たちが建築を作る中で「ここをこうするなら、あっちは当然こうでしょ」って部分があるんですけど、アオキさんは「あっちはそこまで求めてないです」って言うから。
末永さん
「え、なんで!?」って。具体的にどこかは思い出せないんだけど、そういうのはきっとアオキさんなりの整理のつけ方があるんかねえって。
大前さん
最終的な決断は別に問題ないんですけど、全部委ねられてたとしたらその選択はしないだろうって言うのはありますよ。
たとえば玄関ドアとか。何でもないアルミドア。あの割り切りは、普通の設計の人はやらないと思う。
アオキ
当初は木の扉とかガラスがついてるものとか、いわゆる玄関らしいものが提案されてましたもんね。
大前さん
玄関周りって、普通は施主さんがしつこく検討する場所なんですよ。いろいろ作り込む。木の建具とか、印象あるものにしたいっていう。
アオキ
ああ、家の顔というか。わかりますその気持ち。でも今回は、玄関であって玄関でない、勝手口みたいな場所だと位置付けていて。
南側の大窓が実質の正面口になるイメージです。
アオキ
田舎暮らしって、家族は狭い勝手口ばかりで出入りして、広い正面玄関はたまにしか使わないみたいなところあるじゃないですか。あれが勿体無いと思って。なので、玄関と勝手口の考え方を逆転させたんです。
この家の玄関は、おそらく宅急便屋さんがメインで使うことになる。だから、立派である必要もないし、ウェルカム感も不要。無機質な倉庫の入り口みたいにしたかったんです。
末永さん
倉庫や工場とか、屋根の高さやスケール感が結果的にそうなったってのも、アオキさんらしい部分が出てるってことになるんだと思う。
大前さん
そういう意味では、さらに一個まだ気になってる箇所あるんですけど、アオキさん、聞いていいすか。
アオキ
はい、ドキドキしますがどこですか。
4.曖昧にするか切り分けるか
大前さん
南側の軒下。本当にウッドデッキじゃなくてコンクリートで大丈夫ですか。
アオキ
ああ、全然問題ないです。
大前さん
室内の延長っていう設定にすると、デッキにも素足で出られるかなって。
アオキ
結局、たとえ部屋の延長に見せたとしても外は外だから、土埃とかついちゃうんですよね。だから、どちらかというとデッキは庭の東屋みたいに考えています。
大前さん
普通はウッドデッキを選ぶってことが多い気がするんですよね。部屋に限りがあるから少しでも外を取り込んで広く見せたいって言う願望が。
末永さん
たぶん、私たちの手癖というか考え方として、基本的には中間領域をいかに作るかっていう意識がベースにあるもかもしれないです。
大前さん
それは、この仕事(建築家)の重きを置くことの1つだと思う。
末永さん
ここまでが道路、ここが家ってあったとしたら、境界を曖昧にする。外と中の「間」を作れたら、そこを行ったり来たりする状況が起きやすいかもしれない。
それをデザインでどうやっていくかって考えがベースにあるから「中のものを外に伸ばそう」とかしようとしてた。
アオキ
それはずっと感じてました。ミユキデザインさんは曖昧にして繋げたい。僕は明確に切り分けてしまいたい。その意見がずっと衝突していた気がします。
末永さん
途中でそれはわかってきて。ああ、切りたいんだなって。
大前さん
限られた資源でどんだけ広がりのある空間を作るか。10あるもので15を感じさせる。そのために窓の向こう側を取り込んだり、狭くても多くの空間が手に入ったような錯覚というか、感覚を得られる。
大前さん
でもある部分でそれって都市部というか、限られた面積や建物が隣接してる中での工夫であって。今回の土地では違うのかもしれない。
アオキ
なんか、周りに何にもない田舎の土地なんで、外に拡張するというよりは、引きこもるシェルターみたいな要素が欲しかったんだと思います。
とはいえ室内に「ブランク」を設定したので、そこは中にも外にもなり得る中間領域ではあるんですよね。
大前さん
たしかに、あそこは外でもあるかもね。もしかしたら。
アオキ
実際に住んでみないとブランクが想定通りに機能するかなんてわからないんですけど、その辺も含めて実験として住んでいけると良いなって思ってます。
5.小さな不満は都度乗り越える
アオキ
実は今回の家の工事の進め方で、僕の方ですごく助かってるなあと思えることが一つあって。
設計するミユキデザインさんと施工する中島さんも含んだLINEのグループを立ち上げたことです。
中島さん
ミユキデザインさんとやる案件は、結構グループチャット立ち上げちゃってますね。
末永さん
施主さんがいないグループももちろんあるんだけど、施主さんも入ってくれてた方が話が早いことも多いと思ってて。
アオキ
もし間接的にしかやりとりできないとしたら伝言ゲームになりかねない。
施主である僕が「すみません!もしできるなら壁をこうしたいかも」と思いつきを言ったとして、それが施工する中島さんには「壁をこうしろ」という命令として伝わってしまう可能性もある。
アオキ
それが、設計のミユキデザインさんも含めたグループで話し合えているから、それぞれが礼節を持って、アイデアや妥協点を建設的に話し合えた気がします。
末永さん
昔はね、施主と施工する人が直接話すなんてことは、やったらいかん!って教えられてた時期もあったんですよ。
中島さん
僕らもお客さんとは喋らさせてもらえんかった。
末永さん
もちろん今もこんなふうにみんなで話せてるし、中島くんとだからできた体制ではあって。良い関係で進められてるなあって思います。
アオキ
正直言って一瞬一瞬で言えば、細かな不安や不信感がないわけじゃないんだけど。
その都度みんなで話し合って、1つ1つ問題を解決していく。そうすることで、完成間近になった今でも大きな不満なく、仲良く進められている気がします。
アオキ
むしろ終盤になってきて、もう不満や変更や話し合いが必要な箇所もなくなってきたので、寂しいくらいですよ。なんか新しい問題ないかなって。
大前さん
これはまた、なんか変更ありそうだな。
中島さん
何でも言ってください。最後まで納得いくようにやっていきましょう。
工事現場の最新の様子はヒゲじいのブログから時々見られますよ。