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リョーマさんとニアミス。20230505fri324

800文字・30min


 目処がついた。
 三章と四章を一日にまとめると初稿は脱稿だ。
 私小説のいちばんキツかった所に大手出版の編集さんがからイイねを頂いて、これは励みになった。
 私小説は自分の腕を切って血を見せるというがそんなもんじゃない。実際に書いて肌身に感じる。自分のケツの穴(恥部)をめくって読者に見せる行為だ。柳美里や田口ランディはいかに神経は図太いか思い知った。西村賢太も尋常じゃない。でもしかし、父が性犯罪者で自分も加虐趣味のある北町貫太。やはり魅力的な主人公だ。
 裁判でさえ受けて立ち、逆にそれを宣伝にする図々しさがないと私小説は書けない。書いたとて発表はできない。書いて金銭(原稿料や印税)を得る行為というのは、こういうことだ。と知った。
 逆に、野坂昭如の「火垂るの墓」のように、妹の面倒を見る美しい兄像を作品に書いてしまい、実際は妹の茶碗をうばって白飯を食ったり、頭を叩いて泣かしたり、作品が売れるほど死んだ妹への後ろめたさが胸に、槍のように突き刺さってくる、そんな作品もある。私小説はこれで最後にしたい。 現在、百九十三枚。三章ラストまでの繋ぎを書けば初稿はあがる。

 二ヶ月ぶりに現場に足がむいた。
 当時の三月ではない。取り立て写メを撮る必要はない。が、まわりの土地や店前の麦畑の景色は知りたかった。あと店の背後に建つ大邸宅。
 夜営業が始まってすぐだったのか、二人連れの若い客が店からでてきた。リョーマさんが客に挨拶をする声が聞こえた。
 ふり向けなかった。なぜふり向けなかったのか。なにをもって恩返しになるのか。彼らは作家という職業(とくに私小説)を理解するだろうか? ぼくを作家を理解をしてくれ。それはお門違いだ。ぼくがバイトの面接に行ったのも、彼らがぼくを雇ったのも運命。結果、小説の舞台になった。運命だった。思うしかない。
「人生なんか運だよ」
 後継のリョーマの、いかにもボン育ちの口癖。思いだした。

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