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400字日記(リニューアル版)

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400字日記をリニューアル 日記に通底するテーマ 「すべては作家人生のために」 400字に入れること➡︎日々に見た感じたもの(具象) 四百字をどのような形式で見せるか? ➡︎「第…
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2022年5月の記事一覧

800文字日記/20220522sun076/テーマ「二歳の記憶」038

二◯一六年、春先、祖母はベッドの上で喉に血の塊を詰まらせた。畑から帰った祖父が発見し救急車を呼んだが祖母は息を引き取った。 腕時計を見る。骨上げまで半時間あった。仕出しを突いていた。「今のうちに父さんと話した方がいい。ドライブでも。思った時には出来ないぜ」と横で僕の父をあごでしゃくる。毎晩風呂に酒を持ち込む父を亡くした親類だった。 親類の言葉は僕を急き立てた。次の日僕は父を誘ってドライブに出た。父は下仁田が良いと言った。下仁田は群馬県南部の長野県との県境にある。車で往復、

800文字日記/20220521sat/075テーマ「初恋」037

初恋の記憶はあやふやだ。三十八年前、一九八四年だ。記憶は日々変化する。記憶の中にある初恋は小学四年の女担任と同級だった升田道代と瓜野直美が絡まる。 瓜野は例外だ。瓜野への記憶は日々歪む。感情は日々美化される。当時七歳の僕と瓜野はよく図工教室に隠れて遊んだ。二人でじゃれ合った。僕がコチョコチョする。瓜野は涙を出して笑った。二人は抱き合って床に寝転がった。ワックスの匂いがした。 「瓜野は俺の女だ。ヤリマンだ。今呼べば直ぐにヤらせるぜ」と高校に入って友人が言った。学校帰りに書店

800文字日記/20220520fri/074テーマ「おいちゃん参観」036(修正前)

二◯一四年、僕はイタリアから料理の修行で帰って三年も経ったのに風来坊だった。それで僕は十歳、八歳、五歳のおいっ子らに映画「男はつらいよ」の寅さんを習って「おいちゃん」と呼ばせていた。 上の二人っ子の授業参観があった。妹は離婚をしたばかりで仕事で忙しかった。「ばあば」の母と「おいちゃん」が行くことになった。 絹産業から衰退した街には活気は無い。都心につながる駅は力を失い、旧中心街は風俗店が歯抜けのように並ぶ。だがここ最近、北関東有数の工業都市に変貌を遂げた。宮剛第二小学校は

800文字日記/20220418mon/049テーマ「台所で手洗い」012

掃除が終わって、猫と遊び、卵かけご飯を食べてデスクで一服をする。それから部屋の台所に立つ。棚にある米びつと生卵の間に置かれたデジタルクロックは十三時二十八分を示す。猫がシンクの右横のトイレで眼鏡橋のような格好でクソをする。 水切りカゴと菜箸やフォークやナイフや箸やスプーンやしゃもじやボールペンやマジックペンや歯ブラシや歯磨き粉などが挿さるマグカップの間にあるポンプを押す。白い泡が右手に乗る。左手でレバーハンドルを僅かに上げる。蛇口からでた水は水柱となってシンクとつながる。レ

800文字日記/20220519thu/073テーマ「拳銃の持ち方」035(添削前とレジュメ)

★今回から「添削前の原稿」と「レジュメ」をアップすることにします★ ■今までワープロ(ワード)で「レジュメ」(現段階で、プロット作りは教わってない)☞「本稿」と書きます。 つまり、パソコンでの執筆で原稿を書くときに、今日まで僕はレジュメを全部消していた。 ■恐らく、添削の講師(現在63歳)の現役(特に新聞記者だった23歳〜40歳代)、その門下生の直木賞作家(現在51歳)の時代っていうのは、 ❶紙にちゃんとレジュメを書く=頭の中にある単語をぜんぶ紙に一個一個並べていく。 ❷

800文字日記/20220417sun/048テーマ「脱力、嘔吐感」011

腹に猫が頭を擦りつけて目覚めた。仰向けになったまま足で敷布団を窓際へ追いやって左半身は畳で寝ていた。 春になって出したブランケットは壁に寄せてある。カーテンは締め切られ部屋は暗い。気温を感じる。陽が高いのか揺れるカーテンの下に光の帯が射す。時計をつかむ。まだ朝九時半だった。 目をつぶる。身体のどこかに違和感を感じる。胃より下で腹部より上、みぞおちだ。呼吸で波を打ったみぞおちの底で重いゴロゴロした何かが転がっているように感じる。まるで横たわる下腹部の内臓の底に、中途半端に砂を

800文字日記/20220416sat/046テーマ「老いた顔と手」010

自分の顔を鏡で見る。自分の老いと醜さに驚く。頭はバリカンを当てゴマ塩だ。右目が潰れていて血が混じる。向かって右の上まぶたに二つと下まぶたに一つ脂肪を含む疣(いぼ)が突起する。上まつげは長いが色が薄い。左眉のなかに薄茶色のホクロがある。メガネのパッドがいい加減な角度で鼻梁を挟む。奥歯を強く噛むクセがここ何年も続き、下顎の奥の関節を動かすスジと筋肉が隆起する。頬と顎が二段腹に見える。 顔を左右に振って見る。頬骨より外側の肌に茶色や焦茶色が染みた老人斑が散見される。が、引きこもり

800文字日記20220415fri045テーマ「三枚の写真」009

朝から鬱(うつ)が重く夕方までもだえる。起きる。猫にカリカリをやってある。音楽をつけ掃除をはじめる。外は雨雲、陰鬱だ。冷蔵庫をあける。空だ。食べるものがない。ロードバイクを担いで外にでる。 峠をまわって買い物をして家にかえる。洗濯機をまわし、シャワーを浴びる。壁に貼られた二歳の時の娘の写真をとる。机に座る。猫が膝(ひざ)にのる。三枚のうち一枚は中国の南京で二枚は東京の同所で撮られたものだ。三枚とも皮財布に入っていた。横5cm縦7cmに切られている。角は擦(す)れている。

800文字日記/20220414thu044/テーマ「シャワー、性器」008

腹に猫がのる。起きる。7時。外で車が水を弾いてはしる。雨だ。体調が悪い。腹に猫が乗る。猫と目が合う。猫をどかす。「猫を観察する」枕元のメモ紙にかく。掃除を始めると猫がはしゃぎまわる。「観察方法をかんがえる」机のメモ紙に書く。汗ばむ。服を脱ぎ浴室の扉をあける。 シャワーを浴びる。レバーが提げられる。水垢で黒ずんだシャワーヘッドの穴からいきおいよく熱い湯が後頭部に浴びせられる。目をつぶったまま右手で温度を調節する。瞬(またた)く間にバスルームは水蒸気で白くなる。湯は、頭の上から

800文字日記/20220413wed/043テーマ「鬱、猫のメモ」007

鴉(からす)の鳴き声で目覚める。七時。ひどいウツだ。昨日、ネットで荒らしにあった。それがフラッシュバックになってうなされる。寝る。芝刈り音で目覚める。十一時。枕元のメモ帳に色々書いてある。「綿谷ノボル、綿矢りさ、インストール、顔が見えないネット掲示板、自分を見失った憎悪、2ちゃんねる。ディスりの文化、SNS、LINEのグルチャ、自己顕示欲、承認欲求症、note、言葉を使って他者を攻撃するのは人間だけ、言葉で人は死なない(憤死は別)。自然は命の奪(うば)い合い、歯磨きをする描写

800文字日記/20220412tue/041テーマ「悪夢、悪寒、処方」006

悪夢で目覚める。自分が産んだばかりの仔犬をムシャムシャと食べる母犬の夢だった。汗びっしょりで着替える。背筋に悪寒がはしる。風邪のぶり返しだ。腹に猫がのる。まだ6時だ。机の上のメモをみる。「人生は一度きり」。自分の筆跡だ。昨日、すごい発案だとはしり書きをしたのだろうが書いた記憶はない。体は砂袋のように重い。椅子に座ったままうごけず。机につっぷしたまま寝る。寒気で目覚める。 窓から初夏の陽気が注ぐが身体は悪寒でふるえる。熱いシャワーをゆっくりと浴びる。寒気はいくらか治る。窓を開

800文字日記/20220411mon/040テーマ「呪文、自問、無心」005

筋肉痛で起きる。猫が甘える。なでる。机に座る。娘が二歳のときの写真をだす。涙がでる。「書きたい衝動があれば恐れずに書け、小手先の技術や方法論を学んでもダメ。プロになれるかどうかは結果論…」。開いた本の頁を何度も唱える。猫は去る。 昼。外は雨雲だ。カーテンが湿った風で揺れる。三時間後に電話がくる。礼を失したら二度目の破門だ。失礼とは何だ? 「人と接するときの気配りや敬意や慎みに基づく行動の規範を破ること」開いた辞書の頁を何度も唱える。 書棚から「禅宗日課聖典」をだして四弘誓

800文字日記/20220410sun/039テーマ「無気力、奮起、気迫」004

頭に猫が爪を立て目覚める。気力がでずに起き上がれない。時間をかけて立つ。ここ数日のロードバイクの疲れだ。春になって急に動き始めた反動か。いや、ウツだ。昨晩、添削の先生に面罵(めんば)されたショックもある。原因はわからない。どうでもいい。畳の上に倒れる。眼前で猫がメガネにじゃれる。外の選挙カーがうるさい。16時過ぎ。自暴自棄になる。選挙車なんか爆発すればいいと笑う。このまま日が暮れると思う。ほおに猫の鼻がつく。冷たい。目をつぶる。鳥がさえずる。黄ばんだ畳の目にダニの死骸(しがい

800文字日記/20220409sat/038テーマ「息、鼓動、録音」003

猫が耳元で鳴く。13時。掛け布団をかぶる。猫が頭を爪でひっかく。布団を干す。部屋を掃除する。米を炊く。弁当を作る。ロードバイクを担いで外にでる。道路に、四階のベランダで失くした洗濯クリップをみる。ポッケに入れる。 快晴。初夏の陽気だ。額から汗がにじむ。左に軽トラが二台、尻をつけてとまる。農夫が荷台に載った農機具に油をさす。 桜は新芽が生え、ピンク色は桃の木に取って代わられる。左手一面に赤いチューリップ畑が見える。図書館の駐車場で小学生二人に挨拶をする。無視される。ブックポ