見出し画像

800文字日記/20220409sat/038テーマ「息、鼓動、録音」003

猫が耳元で鳴く。13時。掛け布団をかぶる。猫が頭を爪でひっかく。布団を干す。部屋を掃除する。米を炊く。弁当を作る。ロードバイクを担いで外にでる。道路に、四階のベランダで失くした洗濯クリップをみる。ポッケに入れる。

快晴。初夏の陽気だ。額から汗がにじむ。左に軽トラが二台、尻をつけてとまる。農夫が荷台に載った農機具に油をさす。

桜は新芽が生え、ピンク色は桃の木に取って代わられる。左手一面に赤いチューリップ畑が見える。図書館の駐車場で小学生二人に挨拶をする。無視される。ブックポストに本を入れて峠をのぼる。病みあがりなので空港までのA峠をライドすることに。

峠の三合目で止まる。下の集落を見下ろす。花びらが散った桜が点描のように見える。渓谷の底に村と桜の木が張りつく。

下記は峠の三合目〜中腹までの録音の文字起こしだ。
「自分の吐く息を聞く、はぁ、はぁ、心臓の音、鼓動、はぁはぁ、目に入るもの、はぁ、はぁ、花びらが汗に張り付く、車道から、はぁ、はぁ、安全な、歩道にバイクを入れ、また漕ぐ。はぁ、意識がもうろうとする。いや、いまは、自分の意識は、ゴクッ、はぁ、もうろうとしていない、これは、はぁ、はぁ、はぁ、そうなったぁ、つまりぃ、この録音時にそうなった時のためのメモだ、はぁ、はぁ、はぁ、上り坂を、無心に、はしる、はぁ、はぁ、汗が、ヒフに、張りつく、はぁ、はぁ、キツイ、やっぱすこし意識がもうろうとする、いや違う、肺が、肺に、なにかがさしこむ、心臓に針が、はぁ、はぁ、はぁ、一定数の、はぁ、はぁ、はぁ、自分の、吐息、はぁ、ぺっ、それだけを、ゴクッ、はぁ、はぁ、はぁ、それだけを、はぁ、はぁ、はぁ、ペダルの踏み込みに、はぁ、はぁはぁ、合わせる」

団地から一気にくだる。ギアを重くする。またたく間にシャツが冷え、身体が冷える。左右の耳が風にあたる。空気を割くような轟音(ごうおん)が鼓膜をつんざく。顔をあげる。前に海がひろがる。(798文字)


よろしければサポートおねがいします サポーターにはnoteにて還元をいたします