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800文字日記20220415fri045テーマ「三枚の写真」009

朝から鬱(うつ)が重く夕方までもだえる。起きる。猫にカリカリをやってある。音楽をつけ掃除をはじめる。外は雨雲、陰鬱だ。冷蔵庫をあける。空だ。食べるものがない。ロードバイクを担いで外にでる。

峠をまわって買い物をして家にかえる。洗濯機をまわし、シャワーを浴びる。壁に貼られた二歳の時の娘の写真をとる。机に座る。猫が膝(ひざ)にのる。三枚のうち一枚は中国の南京で二枚は東京の同所で撮られたものだ。三枚とも皮財布に入っていた。横5cm縦7cmに切られている。角は擦(す)れている。

南京の写真は、離婚する前の冬。2008年2月。南京大虐殺記念館でのもの(ぼくが仕事の合間に行ったと前妻が言った記憶がある)。しゃれた街灯が立つ並木道に雪がのこる。石畳の上を、ピンクの花柄のダウンジャケットを着た二歳の娘が満面の笑みでカメラを構える母に駆けてくる。母の胸にとびつく1m手前で撮られている。赤色のヘア留めが付く頭はショートで若干前後にずれたふたつ結び。青色のゴムがみえる。フードは白いモコモコのフェザーだ。腰が締まったようにみせるベルトから下はブレがある。眉は太く濃い。笑った目は眉に沿って弓なりだ。額から白い鼻筋が眉間をとおって鼻まではしる。開いた赤い唇にとがった乳歯がみえる。ダウンジャケットの内側は紺色のシャツ一枚だ。フレーム左奥にきいろいバッグがみえるが写真を娘のサイズにきりとって、記憶がない。たしか中国の女性だった。手元にのこる娘のうごきがある唯一の写真だ。

もう二枚の写真は東京都三鷹市ジブリ美術館だ。撮影された時期は2010年2月。一枚は入り口の「崖の上のポニョ展」の立て看の前で。もう一枚は雪がのこる屋上庭園で、実物大のラピュタの要石に立ち、腰かける父に引き寄せられ恥ずかしがる写真だ。一枚目とおなじピンクのダウンを着る。赤色のヘア留めに青色のゴムもおなじだ。背筋が凍(こお)る。一枚目の黄色いバッグの女は前妻だ。一枚目はぼくにとびつきにくる娘だった。(799文字)


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