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800文字日記/20220417sun/048テーマ「脱力、嘔吐感」011

腹に猫が頭を擦りつけて目覚めた。仰向けになったまま足で敷布団を窓際へ追いやって左半身は畳で寝ていた。 春になって出したブランケットは壁に寄せてある。カーテンは締め切られ部屋は暗い。気温を感じる。陽が高いのか揺れるカーテンの下に光の帯が射す。時計をつかむ。まだ朝九時半だった。

目をつぶる。身体のどこかに違和感を感じる。胃より下で腹部より上、みぞおちだ。呼吸で波を打ったみぞおちの底で重いゴロゴロした何かが転がっているように感じる。まるで横たわる下腹部の内臓の底に、中途半端に砂を詰めたビニールボールを押し込められてしまったようだ。みぞおちの部分であるべき内蔵の中が干からびているように感じる。内臓の内壁がガムテープのような強い粘り気があるように感じる。渇きと粘り気は、力のない呼吸とともに膨張し、また収縮する。突如、みぞおちの底から、重いゴロゴロとした嘔吐(おうと)感が、一気に輪郭と体積を持ち始め、熱い液体となって喉元まで突き上がる。が内臓から喉を通って噴き上がる熱い液体はただの胃にたまった気体だった。空腹だった。耳元で猫が部屋の畳を爪で引っかく。

天井をぼんやりと見る。点いていないLED電球が三つ叉(また)に分かれ、中央から黒いヒモが垂れる。手を伸ばせば届くが、気力が湧かない。力が出ない。女の肌や隠部や、行為の淫らなことを想像する。下半身さえ反応しない。みぞおちの中の重いゴロゴロした不可解な嘔吐(おうと)感は、生理的な問題から生じたのか、極度の精神的圧迫から生じたのか、情緒的な問題から生じたのか、内臓の器官的欠陥から生じたのか、あるいは何か原因不明の病によるものなのか、まったく判らない。猫がとなりの洋間で鳴く。猫に朝食のカリカリをやらねばと思う。頭の上、右手の方に押し入れが見える。視野に猫じゃらしを捉えるが、手は、届かない。

猫と目が合う。今日で二歳になった猫が頭を擦りつけに来る。(780文字)


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