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小説「定食屋がVtuberをやってみた」 1

1 Vtuberになるには

 日付が変わる少し前にアパートに帰ってきた。この頃夜になると気温もぐっと下がってくる。そろそろ暖かいメニューを考える時期だ。

 部屋に入って靴を脱ぎ、お店で使った食材の残りが入った袋を床に置いた。慌てながらカーテンを閉める。

 トレンチコートを脱ぎ、適当に手を洗った後、スマホの配信アプリを開く。お気に入りのVtuberの配信を見始める。

 Vtuberとは架空のキャラクターの姿で動画配信をする人のことである。人が話したり笑ったりするとそれに合わせてキャラクターが動くのが特徴だ。

 夜の12時過ぎにいつものVtuberの配信が始まる。そのVtuber の名前はルカ。いつもこの配信が楽しみだ。

 ルカさんは歌も上手で雑談も楽しい。女性に対しても紳士的で私にも優しく接してくれる。そんなルカさんに私は夢中になっていった。

 ルカさんの配信を見始めて2か月になる。ルカさんは私の推しになっていた。

 今日も2時間の配信を楽しんだ。

 ルカさんの配信が終わった後、他の配信者を見て回っていた。枠回りというものだ。みんないろいろな工夫をしながら配信している。

 枠回りをしているうちに、自分も一度配信してみようと思うようになった。

 アプリで配信の始め方について調べてみる。まずはキャラクターのイラストを用意する必要があることがわかった。このイラストをアップロードすれば、配信の際に自分の声に合わせてキャラクターが動く仕組みになっている。

 でも私にキャラクターは描けない。そんな時はネットで探して描ける人に頼むことができる。絵師さんというそうだ。

 ネットで絵師さんを探してみる。するとキャラクターのサンプルがたくさん出てきた。

 私の好きな雰囲気のサンプルがいくつか見つかった。ただどの絵師さんも価格帯は3万円からとなっている。かなり高い。

 その中でひとり、格安で引き受けてくれる人が見つかった。実績はあまり無い絵師さんだったが、サンプルのキャラクターの柔らかい表情に惹かれた。

 希望するイラストの特徴をメールに書いて送る。髪はショートボブで色は流行りのシルバーにする。瞳の色は青。服装はメイドさん。

 何度か絵師さんとやりとりした後、ラフ画が送られてきた。少し表情が固いからもっと笑顔にしてもらった。

 発注から一週間後に完成品が送られてきた。メールに添付されているイラストの画像を見る。
 
 かわいいメイドさんの衣装を身に纏った女性のイラストだった。ふわふわした雰囲気で今にも喋り出しそうだ。

 ラフ画を見た時にも気づいたが、不思議と私のことを見たことがある人が書いたようなイラストだった。どこか私の特徴も入ってるように見えた。
 
 今度のお休みの日に配信してみることにした。夕方から深夜まで仕事なので最初の配信は昼にやることにした。

 キャラクターの名前はユイと名付けた。

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