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街の変遷と人の暮らし

私は以前、「家と暮らし」専門相談アドバイザーという珍しい仕事をしていました。
家の話は人生の話。
高齢のお客様も多く、色々な話を聞かせてくれました。

相談所があったのは、東京郊外のちょっとした高級住宅地でした。
路線が東京都心とつながったのは50年ほど前。
沿線の街ができたのは、それほど大昔のことではありません。
しかし、今では信じられないような話がたくさんありました。


建売を買うのに徹夜で並んだ


「古い家を建て替えたい」という60代のお客様。
家を買った時のことを、こう話してくれました。
「当時は家が売り出される(分譲される)時に、大学生のアルバイトを雇ってね。何日も並んでもらってやっと買えたのよ。」

数か月後、別なお客様がDVDを持って来てくれました。
「面白かったから録ったので、あげるよ。」
沿線の歴史について放送された番組を録画して、わざわざ持って来てくれたのでした。

番組では、「アルバイトの大学生に並んでもらった」光景が、まさしく繰り広げられていました。

ヘリコプターが空から撮影した映像が流れます。
広大な「草っぱら」の中、運動会で設置されるような白いテントがぽつんと立っています。
それを先頭に、長々と、今度はキャンプ用の小さなテントが一列に並んでいます。
テントの列はどこまでもどこまでも続いていきます。

地上にカメラは移ります。
大学生と思しき、長髪のむさ苦しい男たちが映ります。
手持無沙汰にタバコをふかしたり、煮炊きしてラーメンをすすっているのでした。


駅で靴を履き替えた


あるお客様はこんな話をしてくれました。
「昔は駅までの道が土で、駅に下駄箱があってね。そこで長靴を靴に履き替えて通勤したのよ。」
今となっては大きなショッピングモールのある人気の駅です。

その頃の映像が流れます。
広大な「草っぱら」と「田んぼ」、舗装されていないあぜ道のような道路しかないところに、駅がポツンと建っています。
「あー、これだったんだ。」

まっすぐに通るただ一本の線路を、一両の電車がトコトコと進んでいきます。
車両の内部が映し出されます。
車両の内装は「木」です。
着物を着た女性、黒い帽子をかぶりスーツをめかし込んだ男性が乗っているのでした。


団地妻はシロガネーゼ


同じころ、昔の団地の話をテレビで見ました。
「マンション」がまだなかった頃、団地は庶民の憧れの的だったそうです。
団地に住む奥様は、憧れを込めて「団地妻」と呼ばれていたそうです。
今でいうなら「シロガネーゼ」や「ヒルズ族」のような感じでしょうか。


馬の散歩


また、ある日90歳近い女性が来店しました。
住所を書いてもらうと、誰もが知る超高級住宅街でした。
「〇〇にお住まいなんですね。」
私が言うと
「お嫁に来てもう70年近く住んでるの。近くに俳優の△△さんが住んでいてね。」
と往年の俳優さんの名前が出ます。
「△△さんは昔馬を飼っていてね、朝よく馬を散歩させていたのよ。
「あと、大雨の時なんかは隣町の ××が。」
女性が住んでいるところは高台ですが坂を下りた隣町のことです。
「××が洪水で水没した時には、△△さんの家にはボートがあってね。そのボートを出して人を救助に行ってたのよ。


一人一人の人生を知りたい


時代はどんどん変わり、街は作り変えられると当時の面影はありません。
でも、その時々に、人がいて、暮らしがあります。

「個」の時代、ともすれば人に関心を寄せずに日々過ぎてしまいます。
だからこそ、一人一人の人生を知りたいと思います。

その時々に、その街で、どう過ごしたのか。

それを知ることが、自分の足元を確かめることにもなる気がするのです。

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