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映画「ちひろさん」。

映画「ちひろさん」を観ました。

〈ストーリー〉
ちひろ(有村架純)は、風俗嬢の仕事を辞めて、今は海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いている。元・風俗嬢であることを隠そうとせず、ひょうひょうと生きるちひろ。彼女は、自分のことを色目で見る若い男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も・・・誰に対しても分け隔てなく接する。そんなちひろの元に吸い寄せられるかのように集まる人々。彼らは皆、それぞれに孤独を抱えている。厳格な家族に息苦しさを覚え、学校の友達とも隔たりを感じる女子高生・オカジ(豊嶋花)。シングルマザーの元で、母親の愛情に飢える小学生・マコト(嶋田鉄太)。父親との確執を抱え続け、過去の父子関係に苦悩する青年・谷口(若葉竜也)。ちひろは、そんな彼らとご飯を食べ、言葉をかけ、それぞれがそれぞれの孤独と向き合い前に進んで行けるよう、時に優しく、時に強く、背中を押していく。そしてちひろ自身も、幼い頃の家族との関係から、孤独を抱えたまま生きている。母親の死、勤務していた風俗店の元店長・内海(リリー・フランキー)との再会、入院している弁当屋の店長の妻・多恵(風吹ジュン)との交流・・・揺れ動く日々の中、この街での出会いを通して、ちひろもまた、自らの孤独と向き合い、少しずつ変わっていく。これは、軽やかに、心のままに生きるちひろと、ちひろと出会う人々―彼らの孤独と癒しの小さな物語。

主人公のちひろ役を務めるのは、今や国民的女優となった有村架純。優しさと厳しさの両方を併せ持ち、どこか陰があってひょうひょうとしているという難しい役どころのちひろだが、有村は深みと軽やかさをまとって新境地を開拓している。脇を固める役者陣も多彩だ。弁当屋の主人の妻・多恵を演じる風吹ジュンや、風俗店の元店長役のリリー・ フランキーといったベテラン陣から、若葉竜也、豊嶋花といった若手の注目俳優まで、個性的なメンバーが 集まった。 メガホンを取るのは、『愛がなんだ』(19)や『街の上で』(21)など立て続けにヒット作を生み出し、 『窓辺にて』(22)の公開を迎えた今泉力哉。本作では、恋愛映画の旗手と言われている今泉が、純粋な恋 愛とは距離を置く登場人物たちの人間模様を繊細に描き、新境地を見せる。

「ちひろさん」公式HPより引用


2/23から劇場とNetflixで同時公開された本作。
僕はお言葉に甘えて(?)Netflixで観賞しました。

今泉作品が好き


まず僕、今泉監督の作品が大好きで。

特に若葉竜也さんが主演を務めた「街の上で」や脇役でドラマ「silent」の鈴鹿央士さんが出ていた「かそけきサンカヨウ」、田中圭さんが町のお花屋さんを演じる「mellow」、最近だと稲垣吾郎さんの「窓辺にて」あたりが好き。

なんか、それまで平凡な人生を歩んできた主人公にある日とんでもない大事件が起きて、なんやかんやでそれを解決して登場人物たちのアレやコレやもぜーーんぶキッチリ決着が着いてめでたしめでたし、ハイ終わり!みたいな昔、自宅の住所を教えてもないのに進研ゼミから勝手に送られてきていたマンガ冊子のようなストーリーよりも、

「登場人物たちの“生活”を切り取ったような作品」

が僕は好きで。

これは以前から自覚していて、僕が好きな映画や漫画を並べると大体この要素が強い作品(作家)になります。

奇しくも今回の映画の公開に合わせて開催された雑誌「Pen」が主催するウェビナー(ウェブ×セミナーで“ウェビナー”っていうんですね←今さら)で今泉監督ご本人もこの辺りの表現について「たまたまその映画がそこで終わっているだけで、その前で切っても後で切っても別に良い」という風に語られていたので「ああ、やっぱり意識して創っていたんだ」と合点がいきました。(もちろんそこには監督の技術やセンスが注入されて然るべきところでその作品を終えているのだろうけど)



主演は有村架純さん


今回、主演を務めたのは有村架純さん。

「元・風俗嬢を演じ新境地開拓!」みたいな文句がキャッチーであり、確かに何気ない洋服の着こなしや表情やしぐさでその奥にある“妖艶さ”を醸し出す役づくりをしているのはお見事だったのですが、それだけじゃない、年齢や性別を問わずあらゆる人に愛を注ぎ、でも孤独を愛する主人公、という人物を好演していたという印象です。

有村架純さんといえばWOWOWドラマから劇場版も制作され2021年に公開された「前科者」が印象的であり、今回の役どころとも多少重なる部分があったと感じました。どちらも非常に素晴らしかったです。

この2作を通じて、有村架純さんはそのルックスからくる“表面的な可愛らしさ”だけじゃなく、内面の可愛さ、愛嬌、悲哀、深みを巧みに表現する小泉今日子さんのような女優さんになりそうだな、と思いました。


今回のMVP


冒頭の紹介文にも書かれていますが、脇を固める役者陣もとっても豪華で。

挙げればキリがないくらい本当に全員良かったのですが、一人だけMVPを選ぶとしたら小学生のマコト役を演じた嶋田鉄太くんですね。

もう本当にその子自身から出た言葉としか思えないくらい自然な台詞回し、表情で。あんなの訓練でどうにかなるものなんですかね?ただのド天才なのではないでしょうか。

某地方ローカルラジオ番組のCMで、自分が書いた台本にも関わらず地獄的な大根芝居を披露してリスナーの皆さんから「ラディッシュ〈大根〉」「スティック〈棒読み〉」とディスられている作家に両手両足すべての指の爪の垢を煎じずに直で飲ませてあげたらいいのに(!)。


感動したシーン


僕が特に心に響いたシーン(登場人物同士の関係性を描いた場面)は、

①オカジとべっちん

モラハラ親父が君臨する家庭に暮らし、ちひろさんに密かに想いを寄せる(?)女子高生「オカジ」と元・不登校で廃ビルに秘密基地を持つ少女漫画好きの女子高生「べっちん」の交流。

オカジは公園でネコや子供達と無邪気に戯れるちひろさんをスマホで隠し撮りしていたり、べっちんにちょっとしつこめのスキンシップを取ってきたりともしかしたら女性が恋愛対象なのかなと思わせる描写もあるのですが、それは別にどうでもいいというか、自然なそれとして何気なく描かれています。

そんなオカジが仲良しグループと若干そりが合わなくなり、居場所がなくなりかけていたときに出会った自分の芯を持っている強い(ように見える)女の子、べっちん。

大人になるとなんてことないけど、学生の頃は付き合う友達(グループ)が変わることって転職するくらい一大決心だったりしますよね。ラストのあのシーンにもべっちんはいたし、その後もたぶん良い関係を築いていくのでしょう(もしかしたらそうじゃないかもしれないけど、それはもういいじゃない)。

②ちひろさんと谷口

ちひろさんが働くお弁当屋の常連客でもあり、ある日ラーメン屋で他の客との小競り合いの最中にたまたまちひろさんと遭遇し、その後店を出て自身の過去をちひろさんに告白する男・谷口。

今泉作品には欠かせない若葉竜也さんですね。僕も大好きな役者さん。最近だとAmazonのCMに抜擢されたりもしています。

そういえば今泉作品ではありませんが、同じく有村架純さん主演の「前科者」にも出演していましたね。森田剛さんの弟役で。あの役程クセのある役柄ではありませんでしたが今作もお見事でした。

このシーンでは有村架純さんのいわゆる“体当たりの演技”も。元・風俗嬢のわりにはウブな表情だった気がしましたが、まぁそれはそれで…(オッサン黙れや)。


③オカジとマコトとヒトミ

ある日、公園でちひろさんと出会い、お弁当を食べさせてもらってなついた小学生・マコト。

ちひろさんを通じて女子高生・オカジとも出会い、ケンカしながらも姉弟のような絆が深まっていくのですが、あることがきっかけで母親(シングルマザー)のヒトミを含めた3人でヒトミが作った焼きそばを食べるシーンがあってそこが本当に良くて。ネタバレにならないようにあえて経緯などはぼやかして書いているので、ぜひ本編を観て観てください。今作で一番好きなシーンだったかも。

そのシーンにはちひろさんはいないのだけど、しっかり影響は与えているので。なんでも原作には無いシーンらしく、そういう説明はしないけど分からせる描き方は今泉監督の真骨頂だなぁと。さすがです。

他にもお弁当屋の店長を演じた平田満さんやその奥さんの風吹ジュンさん、風俗店の元店長役のリリー・フランキーさん等々、本当に豪華な布陣だったのですが、キリがないので僕なりの見どころを絞ってお伝えしました。


ラストのあのシーンについて(※ネタバレあり)


ここから少しネタバレというかラストのシーンを書くので読みたくないという方はここで読むのを終えてください。

終盤に登場人物たちがお弁当屋のビルの屋上に集まってお月見パーティーをするのですが、みんなでとても平和で仲睦まじいやり取りが行われる中、そこから一人姿を消すちひろさん、というシーンがあります。

あるYouTube動画では、「他の登場人物は誰かしら拠り所がある中での(軽微な)孤独だが、ちひろさんは真の孤独を抱えているから最終的に相容れなくなったのでは」みたいな考察を展開している方がいましたが、僕の考えはちょっと違っていて。

なんかそんなネガティブなものじゃないと思うんですよね。

「居心地が良くなってきたら、居心地が悪くなってくる」

皆さんもこんな経験あるんじゃないですか(令和ロマン・ケムリさん風←マニアックw)。

僕はあります。

それはもしかすると、贅沢な“癖(へき)”とも言えるかもしれません。

第一、孤独なんて他人と比べるものじゃないし、そもそも数値化できるものでもないから比べられないと思います。

そして、孤独というのは周りにどんな人がいても感じるもので。

その中でも置かれた環境や周りにいてくれる人にいかに感謝できるか、だと思いますが、たとえそれができていても孤独が減るワケではないと思いますし。

ちひろさんは周りの人達が“円”になれた幸せを感じつつ、そのぐるりと囲まれた状態がもしかしたら少しだけ窮屈に感じてしまい、スルリと抜けて、またあの頃のようにどこか知らない町へ旅立ってしまったのでは。これが僕の考察。

「人」のことばかり長々と書き連ねてしまいましたが、映画「ちひろさん」はお弁当屋を中心とした物語でこのお弁当をはじめとする食べ物もどれも本当に美味しそう。

なんと、あの『かもめ食堂』『南極料理人』『深夜食堂』などの日本映画を食で彩ってきた飯島奈美さんがフードスタイリストを務めているとのことで。これは間違いありませんよね。ヒトミが作ったの目玉焼き&ウインナーのせ焼きそば旨そうだったな〜

僕なんてこれを見るときに近所のお弁当屋で「のり弁」を買って食べながら観ましたからね。笑

映画館ではちょっとできない、Netflixならではの映画体験でした。


また、音楽はくるりの岸田繁氏で。エンディングテーマもくるりの楽曲でしたね。こちらもこの作品にすごくハマっていて。劇中の音楽も優しく寄り添っていました。


映画「ちひろさん」。

とある港町の日常を描いた味わい深い物語でした。

ぜひゆったりした気持ちで観てください。

オススメです◎

◆映画「ちひろさん」予告動画

◆映画「ちひろさん」公式HP

◆Netflix「ちひろさん」

◆令和ロマンの漫才「ドラえもん」
(映画とは全然関係ないけど本文でお名前を出したので)


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