博士から新卒でVCというキャリア

こんにちは、ANRIの川口りほと申します!
今までは、博士課程に在籍しながらインターンという形で記事の執筆をしていたため、梨と葡萄(https://twitter.com/_nashi_budo_)というペンネームを使っていました。
ちなみに、「梨と葡萄」は、大学の中国語の授業の際に、名前のひらがな (りほ) を中国語読み (梨葡) するために当て字をつけたことに由来しています。

今年の4月より正式にANRIに入社したので、自己紹介や今まで執筆してきた記事の紹介をさせていただければ幸いです。インターンを始めた2020年から現在まで執筆してきた記事の中で、ディープテックスタートアップに関係する記事を10本ほど紹介したいと思います。最後に、表題の通り、博士から新卒でVCというキャリアをどう捉えているのか、綴らせていただければと思います。

プロフィール

ANRI ベンチャーキャピタリストアソシエイト 川口りほ Ph.D.
:1995年生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻で博士号を取得。2020年にANRIにインターンとして参画後、2023年4月ANRIに新卒入社。

VCでインターンを始めたきっかけ

VCでインターンを始めたきっかけをお話する前に、学部時代に時間を遡ります。大学の学部生の頃は、スタートアップの「ス」の字すら知らず、況やベンチャーキャピタルをや、でした。アカデミアで研究をしたいという気持ちが強く、当時はそれ以外の選択肢は頭にはありませんでした。
修士になると、研究と社会の解離を強く感じるようになり、自分の研究の意義について悩み始めました。自分の研究は意味があるのだろうか?悩んだ末、研究を社会に還元できる方法の一つとして、ディープテックスタートアップ起業が選択肢に上がりました。今振り返ると、起業を志したことが、その後のキャリア感を変える大きな転機になったんだと思います。
研究室メンバーと研究シーズをもとにディープテックスタートアップを起業しようと動き回っていました。しかし、様々な理由で上手くいかず、悶々とする日々を送っていました。
当時は、”ビジネス経験がない”ことに引目を感じていました。学部や修士で卒業する同期や後輩たちが、”ビジネス経験”をつけていく中、大学に残り研究の世界しか知らないことに強い劣等感を感じていました。今思うと、”ビジネス経験”という形のない魔物に取り憑かれていたんだと思います。確かに、企業に就職し、"ビジネス経験"をつけることが役立つことも多いと思います。しかし、ANRIで働く中で、自分よりもずいぶんと若く学生起業し、バリバリ”ビジネス”している起業家に沢山出会いました。”ビジネス経験”はスキルの一つでしかないのだなと気付かされ、固定観念が覆され、心が楽になりました。ロールモデルの重要性にも気付かされました。見たことがないものにはなるのは難しいですね。

当時、起業を志していましたが、一度解散してチームメンバーはベンチャーで、そして私はベンチャーキャピタルで働くことになりました。当時は、この集合知が自分たちの起業に役立つのではないかという目論見がありました。
起業という目標のために始めたインターンでしたが、起業家や研究者を支えることの意義や、新しい技術や市場を発見し、開拓することの楽しさを知り、VCとしてのキャリアを進むことを決意しました。起業家になるよりも、起業家をサポートする方が私は向いているということにも気づきました。日本から一人でも多くの研究者がスタートアップ起業で成功し、新しい研究者のロールモデルになって欲しいと心の底から願っています。

そして、ディープテックスタートアップ起業を志す研究者や起業家にとって、これからの5年は大チャンスだと考えています。インターネットスタートアップ領域は、この2、3年でシリアルアントレプレナーが2度目、3度目の挑戦を始めた中、ディープテック領域はまだ1周目にも到達していない未開拓な領域です。私がインターンを始めた2020年では、「ディープテック」という言葉すら浸透しておらず、当時のブログ執筆時には「研究開発型スタートアップ」という言葉を使うようにしていました。
2022年度の東大の入学式の総長では、「ディープテック」という言葉も出てきていますね。
当時、情報が少なかったことを逆手にとって、「研究開発型スタートアップ」に関連するワードで検索上位に上がるように、関連ワードを散りばめた記事を沢山執筆しようと思ったのが、記事執筆を始めたきっかけです。

ディープテックスタートアップやVC関連記事紹介

先に述べたように当時は、ディープテックに関する情報が不足していると感じました。そこで、情報発信の手段として、noteを書き始めました。今まで書いたnoteを一部紹介したいと思います。これらのnoteを読んでいただければ、どのような分野に興味を持ち、リサーチしていたのか知っていただけるのではないかと思います。

1. ベンチャーキャピタルで半年間インターンして学んだ8つのことを言語化してみた

ANRIでインターンして半年間働いた記録を記事にしたものです。VC・ANRIに興味がある方・働いてみたい方は読んでいただけると働くイメージが湧きやすいかと思います。ベンチャーキャピタルで半年間インターンして学んだ8つのことを言語化してみました。

2. ディープテックスタートアップを評価する上での重要検討事項とは?

ディープテックスタートアップをカテゴリーに分類して、カテゴリーごとに事業を評価する上で特に注目したい点をまとめた記事です。ドローン・エアモビリティスタートアップを例に取り、解説しています。

3. ディープテックスタートアップが大企業に勝つ方法とは?

スタートアップが大企業と対峙する方法を書いてます。とはいえ、直接対決をするわけではなく、如何に戦わずして「軸をずらす」ことで勝てるかが勝負になってきます。大企業と直接戦わないためにずらす「4つの軸」についてまとめています。

4. ディープテックスタートアップの失敗が教えてくれること

Googleの気球を用いた移動体通信システムを開発するHAPSプロジェクトである
"Project Loon"が失敗に終わった原因を分析し、失敗から学べるディープテックスタートアップの教訓をまとめました。

5. 監視資本主義はディープテックスタートアップにとってビジネスチャンスとなるか?

世界的に注目を集め始めてきている個人情報の流出問題を取り上げ、個人情報を巡って今何が起きているのか解説していします。そして、このような問題を技術的に解決していく方法やそんな技術を使ったスタートアップを紹介しています。弊社は、秘密計算アルゴリズムの研究開発する名古屋大学及び名古屋工業大学発プライバシーテックスタートアップの株式会社Acompanyに出資させてただいております。

6. ディープテックスタートアップにおけるストーリーテラーの役割とは?:

ストーリーテラーとは、研究者・技術者が作り上げた技術の価値を社会に対して発信する人のことです。このような人がチーム内にいなければ、どれだけ素晴らしい技術を持っていてもビジネスとしては成り立ちません。技術を翻訳するストーリーテラーはディープテックスタートアップにとって必要不可欠なのです。そんなストーリーテラーの重要性についてお話ししています。

7. 「起業はリスクか?」 : キャリアにおける本当のリスクについて農業ユニコーンの生みの親、ディープテックスタートアップの連続起業家から学ぶ

Indigo Agricultureという農業ユニコーンの創設者 David PerryHarvard Innovation Labsで行った講演 "Making an Impact through Entrepreneurship"を和訳してまとめたものです。自身の起業経験を振り返りながら、「キャリアにおける真のリスク」などについて語っています。

8. ハードウェアスタートアップの命運を分ける資金調達の落とし穴

:2004年創業の超音速ベンチャーAerion Supersonicは、2021年5月に資金調達できず、事業を停止しました。ハードウェエアスタートアップが資金調達を行う上で気をつけたいことをまとめました。対比として、今のところ好調に事業を進めているBoom Supersonicという超音速旅客機を開発するスタートアップの株主構成も覗いています。

9. 研究開発型スタートアップに投資する国内VCリスト

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の認定VC(37社(2021年10月時点)をスプレッドシートにまとめました。このnoteが最も実用的な記事かもしれません。

10. なぜ日本にはEVユニコーンスタートアップが存在しないのか?〜国内EV事例が嵌った量産化時の落とし穴

:米中ではTeslaを筆頭に数兆円規模の電気自動車(EV)スタートアップが次々とエグジットを果たしている中、国内EVスタートアップユニコーンスタートアップは存在しないのか?その理由を探っています。国内EVスタートアップ事例を調べ、EVスタートアップの典型的な失敗理由についてまとめています。

博士からVCに新卒入社というキャリアの実験

近年、ディープテック領域への関心の高まるにつれ、国内外で博士号を持つVCにスポットライトが当たるようになってきました。

とはいえ、博士号を持つVCの人数もまだまだ少ないのが現状です。2021年の日経の記事によると、VCファンドにおける博士人材調査に回答した33社、キャピタリスト計431人のうち、理系博士号取得は5%(21人)にとどまったそうです。2023年現在、国内で博士号を取得した新卒VCは手で数えられる程度しかいません。

日本では、新卒カードが強く、博士より学士や修士の方が就職には有利だという見方もあります。博士に進むと就職できませんか?という相談を受けることもしばしばあります。しかし、日本でも人材の流動性が高まりつつあり、雇用市場の活性化が進み始めています。弊社プリンシパルの宮崎 Ph.D.が、「研究者のキャリアパスと、スタートアップ企業での可能性」というインタビューで、以下のように話してます。

"日本でも終身雇用が当たり前ではなくなってきていて、自分は何ができるのかを個人が実証・証明しなければいけない時代になってきています。スタートアップでの実践的かつユニークな経験やトレーニングで鍛えられれば、その先も生き抜く武器が身につくとも考えられます。"

出典:https://www.link-j.org/interview/post-3336.html

私個人のお話をすると、博士課程に在籍したことで、むしろ可能性が広がりました。VCのインターン募集を探し始めた2020年当時、ちょうどANRIが博士の新卒採用を始めますと宣言し始めたタイミングでした。もし、博士というユニークな経歴がなかったら、今のキャリアは開けていなかったように思います

自分が選んだこの道を正解にするぞ、という強い気持ちもある一方で、一歩引いて俯瞰してみると、個人の努力ではどうすることもできない環境にいるとも思います。個人の努力以上に、日本のディープテックスタートアップが立ち上がるかどうかという市場環境に私のキャリアは大きく依存していると考えています。

実は、この10年で日本のディープテックスタートアップで安定して時価総額1000億円を超えている会社は一社のみという、不都合な真実があります。しかし、近年、海外での先端技術領域のスタートアップの上場事例や大型の資金調達が増え、国内でもディープテック領域へのエクイティーマネーの増加や盛り上がってきました。よって、ここからの5-10年が日本においてディープテックスタートアップ領域が立ち上げるかどうかの重要な時期、踏ん張り時になると考えています。繰り返しになりますが、裏を返すと、ディープテックスタートアップを起業したい方にとってこの5年くらいは本当にチャンスだと思います。ディープテック領域では、まだ1回目の起業の起業家が多いです。5年後には、ディープテックスタートアップのシリアルアントレプレナーが続々と生まれているかもしれません

私は、ディープテック領域が成功する日本の未来にベットしています。この不確実性だらけの環境の中で、博士から新卒VCとしてキャリアが立ち上がるかどうか、の実験だと捉えています。この不確実性だらけの環境を楽しみつつ、研究者、起業家、投資家、そして関係者の皆様と一緒に圧倒的な未来に向けて歩んでいけたら嬉しいです。起業家の皆様を挑戦を応援し、私自身も常に挑戦し続けられるVCでありたいと考えております。これからもどうぞよろしくお願いいたします!


ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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また、気候変動や環境問題に取り組んでいる研究者の方、このような社会課題を解決していきたいという志しの高いベンチャーキャピタリスト志望の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。
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