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ハードウェアスタートアップの命運を分ける資金調達の落とし穴
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ハードウェアスタートアップの命運を分ける資金調達の落とし穴

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ANRIでインターンしている博士@_nashi_budo_)です。
上の写真は超音速ベンチャーAerion Supersonicの機体のイメージ画像です。この美しい機体を2004年から開発していたベンチャーは今年2021年5月に事業を停止しました。

早く結論を読みたい方は、「なぜ資金調達に失敗したのか?」の章から読んでみてください。

超音速機で旅する移動革命時代に生きる私たち

超音速輸送機(SST)の開発が活発で、様々なベンチャーが超音速の大型旅客機や小型のビジネスジェットを開発・販売に挑戦しています。例えば、以下のような記事を目にする機会が増えたのではないでしょうか?

2029年に商用化予定で、
東京⇄ロンドン3時間半・東京⇄サンフランシスコで6時間

東京から沖縄に飛ぶ感覚で、ロンドンに行けるようになるなんてそんな夢のような話が2029年には実現するというのは大変嬉しいニュースです。

このような嬉しいニュースが増える一方、事業停止などの悲しいニュースも流れてきます。もしかすると、皆さんは10年後には超音速機に乗って日帰りヨーロッパ旅行をしているかもしれませんし、やっぱり超音速機で旅するのは割りに合わないからと実現せずに本当に夢で終わっているかもしれません。立ち上がるか、立ち上がらないかの瀬戸際にいる超音速機業界激動の時代を一緒に見届けましょう。この記事を読んだ後に超音速機ベンチャーの生滅ニュースを見ると、また別の視点で新しい発見があるかもしれません。

この記事では、事業停止したAerion Supersonicのケースから得た学びを書きます。重厚長大産業に挑戦するハードウェアスタートアップが嵌る資金調達の落とし穴と題して、好調そうに見えたスタートアップが資金調達できずに突然の事業停止発表してしまう裏にはどんな問題が隠れていたのか紐解いていきます。これは特に長期間多額の資金を費やすことが欠かせないハードウェアスタートアップが嵌まりやすい落とし穴だと思います。公開情報から組み立てた私の勝手な推論の可能性もあるので、もしアドバイス・ご意見等あれば教えていただけると大変勉強になります。

それでは、超音速の世界に飛び込んで、Aerion Supersonicに何があったのか見ていきます。

好調から一転最有力超音速機ベンチャー資金調達事情

Aerion Supersonicは、2027年までに地球上の任意の2地点を「3時間以内」で結ぶことを目標に2004年に設立された超音速ビジネス機スタートアップです。2004年と聞いてピンと来た方はいますか?超音速旅客機コンコルドが前年の2003年に廃止になり、それ以来初めて民間の超音速飛行を復活させようとしていたのがAerionです。純資産50億ドルの億万長者Robert Bassが設立し、Lockheed MartinやDouglas Aircraft Companyなどで活躍した著名な空力学者Dr. Richard Tracyをはじめ、GEやRolls-Royceのトップエンジニアを集め最強の布陣で超音速ビジネスジェットを市場の開拓を目指しました。ターゲットは富裕層で8-12人乗りのプライベートジェットAS2を開発していました。

SPAC上場も計画していた好調時代

AS2の開発をNASA・Lockheed Martin・Airbus・GE・Boeingなどの名だたる大手企業との共同研究を通して進めてきました。2019年にはBoeigが大株主となり、Aerionに資金・技術など手厚いサポートを提供し、Aerionは強力なビジネスパートナーを手に入れました。2021年初めにはSPAC(特別目的買収会社)を通じた株式公開に向けた交渉もしていたと報じられました。2021年3月には、 Berkshire Hathawayの子会社で、ビジネスジェットの部分的所有権や持分を販売するNetJets社は1機$1億2000万相当のAS2を20機の発注しました。ここまで聞くとずいぶん好調そうに思えます。

そして、2021年5月Aerionは以下の声明を発表しました。

“In the current financial environment, it has proven hugely challenging to close on the scheduled and necessary large new capital requirements to finalize the transition of the AS2 into production. ”
(「現在の金融環境下では、AS2の生産に必要かつ、予定されていた大規模な新規資金調達を完了させることが非常に困難であることが判明した」)

つまり、「最後は資金調達に行き詰まって会社を閉鎖した」ということです。

なぜ資金調達に失敗したのか?

スタートアップの事業サイクルの中の様々な変数が関係しているとは思いますが、今回の記事では「投資家」という側面から深ぼっていきます

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株主構成を覗いてみる

2019年2月にAerionの大株主になったBoeingに悲劇が起こりました。2019年3月には737MAX機の2度目の墜落事故。(この事故発生直後に事故が起きた同じくエチオピア航空のフライトの予定があり、ビクビクしながら乗っていたのを覚えています。)そして、COVID19パンデミック発生によるBoeing航空機注文の相次ぐキャンセルで120億ドル近い損失を計上しました。これらを受け、2020年末には新興技術に特化したNeXtイノベーション部門を閉鎖しました。そして、皆さんご存知の通り、パンデミックは2021年になった今も尚、航空機メーカーが苦しい戦いを強いられているのが伺えます。(つい最近Boeingが2019年以来の黒字化のニュースを目にしたので、経営状況は回復しつつありそうです。)

本当に1株主の問題?

1株主であるBoeingが多大な被害な被害を被っているだけで資金調達手段が絶たれるというのは納得がいきませんね。

しかし、Aerionの株主構成を見てみると、Aerionに投資しているのは創業者のRobert BassとBoeingの2組のみであることに気づきます。そして、Boeingは数億ドルを投資して40%の株式を取得しています。

外部株主1社のみが大量に株式を保有していて、その株主が自身の事業の資金繰りで苦しんでしまった。さらに、最終的にSPACによる外部資本調達に頼ることができなかった。このような不運が重なって資金調達の目処が立たなかったのです。

しかしながら、これを単なる不運と言っていいのでしょうか?

なぜその資本政策になったのか考察

唯一の理由ではないとは言え、Boeingに株式を40%以上渡して背中を預けすぎていたことが今回の資金調達失敗につながった大きな理由の一つであることは間違いありません。

盤石なBoeingであっても外部状況の変化に影響を受け、その影響が連鎖して投資先であるAerionを倒産に追いやられました。

40%以上の株式をBoeingが保有していたことで、他のVCや事業会社が後から投資しづらかった可能性もあります。考えられる理由としては二つあり、Boeingの「色が付いてしまっている」ため、他の同業他社が関わりづらかったこと。もう一つは、Boeingの保有率が高いため、その後投資する投資家のにとって旨味が少ないと思われたという点です。

どんな事業会社でもVCでも追加投資が必ず期待できるわけではありません。一方で投資家サイドは分散投資が可能であるため、リスクを抑えることができます。AerionはBoeingにとってみれば、数ある事業・数ある投資先の一つでですが、AerionにとってはBoeingは創業者のRobert Bassを除くと唯一の投資家であり、非対称性があります。発行体である起業家/スタートアップも同様に投資家を選ぶときに分散を心がけた方がいいのかもしれないと、Aerionの一件を見て感じました。

うまくいっている類似企業と比較

一方で、今のところ好調なBoom Supersonicという超音速旅客機を開発するスタートアップの株主構成などはどうでしょうか?

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Boom Supersonicは50席規模の旅客機を開発する2014年設立のスタートアップで、Y Combinatorをはじめ15社ほどから$240Mほど資金調達しています。(下図はCrunchbaseより)

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今年に入ってからも大型の新規資金調達を済ませ、ユナイテッド航空やJALから機体の発注を受け、パンデミック下を生き抜いています。Boomの株主構成と比較すると、Aerionが如何にBoeingに資金面で頼っていたかが分かります。

ハードウェアスタートアップが資金調達で気をつけたいこと

- 特にハードウェアスタートアップは投資家1社で支えきることが困難であるため、発行体である起業家も投資家の分散によりリスクを抑える。
- 事業会社を投資家として迎える場合は、「色が付く」可能性を考慮する。
- 最終的に必要な資金を見通して、資金調達ラウンド単体だけではなく、フォローできる投資家かどうかを吟味する。

今回の記事では、Aerion社が事業停止した理由を分析して、そこから得られるハードウェアスタートアップの学びを書きました。立ち上がり始めている新たな超音速機市場の趨勢を皆さんで一緒に見守りましょう。

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