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読書記録|読んだ感想?読んでみた感想?読んでみての感想?

フィールド言語学者、巣ごもる。
著者・吉岡乾

第一言語,私の場合は日本語を使うときは,特段文法を意識することもなければ,発音を気にすることもない。文法に悩むことも,発音に悩むことも,ほとんどない。外国語が堪能というわけでもなく,日本語を客観的に捉える機会もそうそうない。

ただし,日本語の方言に関しては,ちょっぴり敏感だ。
良くないという意味の「いけない」が,いけない/いけん/いかん/あかん/かん,でも通じるのは面白い。接続詞の「だから」が,「だで」になったり,「ほんだきん」になったり,「じゃけぇ」になったりする。
方言は時と場合に合わせて使い分けているから,ある意味では多言語話者,マルチリンガルと言ったっていいのではないだろうか。

というふうに,日本語しか話せないからって物怖じする必要はない。
言語って,なんだかおもしろい。



日本語は稀有な言語だろうか?
著者は,WALSとエスノローグを参照し,日本語の特徴を整理している。

例えば,完了形を持たない,未来形を持たないといった特徴は,世界のほかの言語との共有度がおよそ50%であり,最主流の特徴である。まったく稀有とは言えない。一方,3種類の文字種を併用して表記するのは,唯一の特徴であるという。これは稀有と言っていいだろう。

私が気になった特徴は,主要部内在型関係節をもっていることである。

・人が走っているのを見た
・走っている人を見た

この二つの文章に違和感はない。これが稀有な特徴らしい。

私には言語学的に?文法的に?説明する力はない。
しかし,日本語話者として違和感がないことはわかる。

前者をヨーロッパ言語で表そうとするとよういにはできないらしい。私はヨーロッパ言語ができるわけではないので,DeepLで翻訳にかけてみる。

英語(アメリカ)
I saw a man running.
I saw a man running.
英語(イギリス)
I saw a man running.
I saw people running.
フランス語
J'ai vu un homme courir.
J'ai vu des gens courir.
ドイツ語
Ich sah einen Mann rennen.
Ich sah Menschen rennen.

DeepL翻訳,ありがとう。

たぶん,変わらない・・・?
これらの言語をさらに日本語へとDeepL翻訳にかけてみると,「走っている人を見た」に近い表現で訳された。少なくとも「人が走っているのを見た」という表現にはならなかった。

普段,どんな風に使い分けているんだろう?
2種類の表現があるということは,それぞれの表現でしか表せないニュアンスがあるはずだ。でなければ,どちらか一方でいい。

ふむ。



ところで最近,気になっている日本語表現がある。

・読んだ感想
・読んでみた感想
・読んでみての感想

この3つの表現に,違和感を覚えるだろうか?覚えないだろうか?

いや,私だけなのかもしれないけれど,「読んでみての感想」という表現が非常に気になるのだ。
「読んだ感想」は読んだ感想だし,「読んでみた感想」は読んではいるんだけど,ちょっと試してみたといったニュアンスが含まれているように思う。で,「読んでみての感想」ってなんだ?「読んでみた感想」と何が違うんだ?

文法や表現がけしからんと言いたいわけではなくて,ただ気になる。
関心がある。何が違うんだ?

なんとなく「読んでみての感想」って予防線を張っているように感じる。専門家ではないし,まじめに取り組んだわけじゃないから,真剣に受け止めないでね,といった予防線。SNSが普及したことと関係があるのか,ないのか。と思うけれど,私見に過ぎない。根拠はない。



ところで,同格の「の」という表現がある。
「の」のよくある使い方というと,

・雨の日の朝の過ごし方
・君の淹れたコーヒーの味の感想

のように,「の」があれば後ろの語を修飾できる。
気をつけないと,一文の中に大量の「の」を発生させてしまうことになる。

同格の「の」は,後ろから修飾するようなイメージだ。

・コップの白い方が,欲しい。
 =白いコップの方が,欲しい。

コップ(前者)が白い(後者)を修飾しているのではない。

・コップの白くて,大きい,柄が入ったものが,欲しい。
 =白くて大きな柄が入った白いコップが,欲しい。

さらに後ろから説明を付け加えることもできる。
同格というからには,前と後ろが同じ格なのである。
「の」って使えたら便利。自然と身に付けてしまっているけれど,改めて考えると難しい。

とこんなところで,「の」が気になる。

久しぶりに日本語の文法に触れた。高校のときは特に古文は苦手で,文法なんてやりたくなかった。おもしろさも感じなかった。だけど,この本をきっかけに,文法に触れたくなった。

(あいにく苦手なもので,もしかしたら間違っていたり,違ったりすることもあるかもしれない。調べてみての感想だと思っていただきたい。)



なんだか言語は楽しい。
この本には,「日本語っぽいんだけど,耳目になじみのない語句がちりばめられている」と感じた。注釈があるものもあれば,ないものもある。それは筆者によって,敢えてなされている。

馴染みのない表現ではあるけれど,確かに日本語であるそれらの語句は,いかに自分が日本語を知らないかを教えてくれる。と同時に,日本語を愛おしく思わせてくれる。さらに,言語の愛おしさを知るきっかけになる。

そんな表現も味わってほしいと思う。
(別に「徒為といてらい」ではないそうですので。)


言語学を入り口として,世界が広がる一冊でした。



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