カラチャ座のネカマ
僕がまだ14歳くらいの頃、当時2001、2年頃かな
家族が寝静まった深夜、家に一台の共同パソコンでの夜更かしインターネットに夢中だった
中でもチャット、掲示板とは違いリアルタイムに人と会話が出来る、未知で斬新な体験が当時は楽しくて仕方が無く、毎晩どこかしらのチャットに朝まで入り浸っていた
最初はニフティのチャット、中にはごまんと人がおり、色んな人間を垣間見られて日々感性が色めき立つワンダーランドのようだった
極度のインドアだったがチャットがあれば何にも寂しくはなかった
やがて行き着いたのはヤフーチャット
ヤフーにもチャットが存在し、それも目が回るほど多くのカテゴリーがある、中でもカラオケチャットというものにハマった
カラチャは、パソコンにマイクかイヤホンさえ差せば、その歌がそのままチャットに流れ共有出来るというもので、全国の人と家からカラオケで繋がれるのだ
カラオケチャットの中にもまた無数にお部屋があり、メインの大部屋では歌いたい人が予約をし代わりばんこに歌う、勿論ロム専門の方も沢山居た
みんな手持ちのラジカセなどで音を出し、簡易的に歌う
中にはめちゃめちゃ上手い人や、hydeを崇拝しそっくりの歌い方の人や、歌のおねえさんのような優しい歌声でサザンを歌う人など様々で
一時的に自分の部屋としてチャットルームを作成し開く事も出来、トランスをノンストップで掛けてる部屋、PVなどの動画を流してる部屋、Gacktの声に似ている人が歌わずGacktになりきってずっと喋っているような部屋もあった
あくる日、いつもの大部屋チャットルームに入っていったら、そこに美川憲一が居るではないか…
確かに、そこに美川憲一が居た
「なぁんなのよ、もう、○○だから○○でしょう」と他のユーザーの書き込む言葉を拾っては会話を繰り広げている、そのなりきりキャラ自体は先述のGacktだなんだで既に慣れてはいたが……あの美川憲一である
声も喋り方も完全に美川憲一そのもの、正に「美川の部屋」状態
なのに参加ユーザーからのいじりに対してしきりに「何言ってんの私は美川憲一じゃないわよぉ」と美川のまま否定する、どう考えても美川になりきっている
僕はその時点でもう笑えて笑えて、興奮冷めやらぬ中、その美川憲一にこうリクエストしてみた
「本当に美川憲一なの!?w すげぇ!あのさそり座の女を歌って下さい!」
今思えばぶしつけに失礼な注文だったが、とにかくテンションが興奮と高揚でいっぱいだった
すると美川憲一は何の躊躇もなくこう言った 「あらぁ、この私にカラチャ座のネカマ歌えって言うの?」
結論から言うと、僕はこの瞬間おかしくなるまで笑った
こんな即座にこの返しが出来る訳がない、確信犯は確定である
普段から返し慣れてるようにスラリと言った
そして「いいわよ、歌ったあげる、いいえわったっしは〜、カラチャ座のネカマ〜♪」と歌い出した
ネカマとは、ネット上のオカマ、ネカマという事で、当時は聞き慣れないその言葉に理解するのに数秒かかったが、その本人そっくりのアンニュイな、滑らかな歌い振り、その替え歌のタイトルからパロディセンスから、気が付いたらパソコンの前でうずくまるように笑い続けていた
人間「笑いが止まらなくなる状態」はよくあるが、それを更に越えると感動の境地に行き着くのだね
間違いなくこの世で一番面白い瞬間に到達したような感覚、スパーク、凄い…格好いい…オモシロイ…色んな感情がめくるめく押し寄せてきた
すごい、ネット上でこんなにも人を笑わせられるんだ…忘れもしない出来事だった
正直笑い過ぎてそれ以上を覚えていない
「お気の済むまで笑うがいいわ」おかしくなる程笑ったわ
あの人は今どうしているのだろうか
今自分がネット上で人をとにかく笑かしたいのは、引きこもり人間なのもあるけど何よりそういう思春期を過ごしてきたからである
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