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2人が出逢った瞬間から

●ヴェラクルス


 南北戦争の終結後、アメリカからメキシコへ、元軍人や傭兵、無法者たちがなだれ込んだ。彼らは混乱に乗じて一儲けしようと考えていた。メキシコは、ナポレオン3世の要請により、ハプスブルク家のマクシミリアンが皇帝として統治していたが、この傀儡の帝政に対して革命軍による反乱が起っていたのだ。
 時代のうねりの中で、アメリカ人のベン・トレーンとジョー・エリンは出逢った。そして反目しながらも、報酬のために行動を共にするようになる。


 彼らは、革命軍と皇帝軍の報酬を天秤にかけ、皇帝側につくことにした。マクシミリアン皇帝に銃の腕前を認められ、パリに帰る予定のマリー・デュバル伯爵夫人を港町ヴェラクルスへ送り届ける任務を命じられる。
 しかし、伯爵夫人の馬車が異様に重いことに気が付いた2人が馬車を調べると、そこには300万もの金貨が隠されていた。本来は皇帝の軍隊を欧州で雇うための資金だったが、伯爵夫人はヴェラクルスに到着したら横領しようと、既に手をまわしていた。いつ革命軍に襲撃されるか分からないヴェラクルスへの道中で、伯爵夫人、ベン、ジョーは金貨をめぐって火花を散らすことになる。


 白い歯を大きく見せて笑うジョーはガキ大将がそのまま成長したような外見だが、荒くれ者たちも震え上がらせる恐ろしいガンマン。
 ベンは表情の読めない渋い顔をして臨機応変な戦略を練る、元南軍大佐。
 2人とも大義の為に動いているのではない。彼らは報酬と情勢に応じて、裏切りも寝返りも平気で行う。昨日の味方は今日の敵。それを良く分かっているジョーとベンの背中には常に緊張が走り、必要とあらば、いつでも銃に手をかける。だが革命軍の攻撃を潜り抜け、助け合う間に淡い絆が芽生え始める。


 ベンに危ないところを救われたジョーは、実の父を殺した賭博場経営者のエースという男が、親代わりに自分を育ててくれたという話をする。

「エースはよく『危ない橋は渡るな』、『人を信用するな』、『情けをかけるな』と言っていた。彼は自分が正しかったと分かるだけ生きた。俺が撃って30秒は生きていたんだから」(Ace used to say “Don't take any chances you don't have to.” “Don't trust anybody you don't have to trust. And don't do no favors you don't have to do.” Ace lived long enough to know he was right. He lived 30 seconds after I shot him.)

 そして、ふと真顔になって言う。

「知っているか? 俺が他人に自分の話をしたのは初めてだ」(You know somethin'? That's the first time I ever told anybody the story of my life.)

 かつて「俺には友達はいない」(I got no friends.)と断言していたジョーが、ベンに対しては「俺の初めての友達だ」(You’re the first friend I ever had.)と笑いかける。それに対してベンも面映ゆい表情を見せる。


 だが彼らの笑いも、言葉も時に嘘をつく。育ての親であるエースを撃ち殺したジョーは、気ままに生きているようでいて、いまだにエースの影響を強く受けていることが見え隠れする。「危ない橋は渡るな」、「人を信用するな」、「情けをかけるな」という教えは、彼の中で絶対的な真理なのだ。そして、それをベンと共有した今、2人は常に考えている。エースの教えは、やはり正しいのだ、と。


 誰も頼みにできない世界の中で、真実を映し出すのは彼らの眼だけだ。笑みよりも、言葉よりも、ベンとジョーの眼は互いに対する疑念や不信、敬意、親しみを雄弁に語る。


 乾ききったメキシコの大地で、寄せては引いていく革命軍の白い波に乗って、2人の男は1つの結末へと導かれる。
 それは、まるで最初から――2人が出逢った瞬間から、定められていたかのようだ。


●備考


・動物が死ぬシーンあり(脚の折れた馬を安楽死させる)。銃撃戦や至近距離からの発砲など、暴力的な場面もあるので子どもの鑑賞には要注意。


・本作は、バート・ランカスターとハロルド・ヘクトが設立したヘクト=ランカスター・プロにゲーリー・クーパーを主演として招いて製作された。戦前から活躍する大スターであるゲーリー・クーパーを相手に、バートはジョー・エリン役を大胆不敵に演じた。ゲーリーは抑え気味の演技なので、バートが主演を完全に喰ってしまっているという感想も聞かれる。
バート・ランカスターの他作品→「アパッチ」(1954)、「OK牧場の決斗」(1957)、「ワイルド・アパッチ」(1972)など


・ベン・トレーンを演じたゲーリー・クーパーの他作品→「西部の男」(1940)、「ダラス」(1950)、「真昼の決闘」(1952)、「西部の人」(1958)など


・撮影は全てメキシコで行われているので、アメリカを舞台にした西部劇とは一味違った風景を楽しめる。革命軍の将軍と交渉していたベンとジョーたちが、いつの間にかメキシコの兵士たちに囲まれているシーンは名場面。将軍の手の一振りで自由自在に動く革命軍の兵士たちの描写は、その後の歴史を暗示している。


・マクシミリアン皇帝の宮殿に招待されたアメリカの荒くれ者たちは、礼儀作法も知らず、品のない振る舞いをする(ベンだけはルイジアナ州ニューオリンズ仕込みのフランス語を話し、品位を保っているが)。普段は荒野にいる荒くれ者たちを、宮殿の王侯貴族たちの間に配置したことで彼らの粗野さが際立つ、西部劇でも珍しい場面になった。

●ひとりごと


ベンとジョーのウィンチェスター銃やコルトの早撃ち、ガン捌きが華麗。特にジョーは手のひらにコルトが吸い付いているかのよう。

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