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三度目のウンチ

4年前に初めての本を出し、先月末に二冊目が出ました。出た、って言い方はどうなんですかね。小学生がウンチの話をしているくらい幼稚ですね。上梓とか出版とか刊行とかリリースとか色々な表現があるんですが、出版や刊行は出版社が主体であるような気がするので私が言うのは違います。上梓というのは、昔、梓の木で版を作っていたからだそうですが、今回の本は木版は使わず、デジタル作業がメインのはずですからしっくり来ません。

下品な言い方で恐縮ですが「考え」というのは排泄物のようなものですから、ウンチと同じ「出る」でいいのかもしれません。その表現で行くと次の本も「出そう」です。こっちはギリギリの切迫感があっていいですね。「出た」だとすでに手遅れな感じがします。小学生の頃、長ズボンではなく短パンで手遅れになったヤツは、なにがしかの個体を涙とともにこぼれ落としていることがありましたね。

なんて話じゃなく!

三冊目の本を書き始めましたよ。書く作業は慣れで、二冊目を書いた感触がまだ残っているので素早く書けそうです。今までに何度もコンセプトを変えて寝かせてきましたが、それは今までの二冊とはあきらかに目的が違うからです。一冊目はおっさんの面白話で、二冊目は写真の話。さて三冊目はどうしようと悩んでいたのですが「科学のチカラ」に頼ることにしました。科学とは、モノポリーのように勝ち方を考えたゲーム進行をすることの喩えです。科学とモノポリー、二段階に喩えちゃってますけど。

最初に「この本が書店に置かれていたら、自分は手に取るか」を考えます。著名な作者である、芥川賞受賞作である、みたいな理由でもない限り、人は無名(もしくはクソ狭い業界だけで名の知られている)の著者の本など買いません。ではどうするか。自分が誰だか知らない作者の本を買った経験を思い出すのです。そこにヒントがあります。

幸運なことに誰か酔狂な人が買ってくれたあと、それを他人に勧めたくなるか、を考えます。ここはけっこう大事で、映画やドラマなどから大きなヒントを得ることができます。いい映画を観たら友だちに勧めたくなりますよね。「絶対、観たほうがいいよ。観たほうがって言ったけど、観たのは邦画じゃなくて洋画だけど」とか言いながら。ここで二段目のブーストがかかります。一段目のブースターだけだと親戚と友だちが買っただけで終わるのです。映画などもそうですが、これは悲しいくらいマジです。

二段目になるとクチコミは累乗で増えていくので、やっと商業的なペースに到達します。業界の有名人が出した本が売れないのは「俺くらいの人間が出したら売れるだろう。ふへへ」とナメているからです。そんなことはありません。全国で一日に出版される本の数をナメたらあきません。約200点でっせ。商売の話を始めると関西弁になりますさかいに。

三冊目の本は、『アリとアリクイ』という仮題で進めています。

「出版社のベテラン編集者が人気作家を怒らせてしまい、流行作家ばかりを集めて出版する予定の短編アンソロジーから原稿を引き上げられてしまう。二日後に迫った締め切り。穴埋めになる一編を自分が教えている文章講座に通う9人の生徒の中から選ぼうとする。最終的には誰の作品が選ばれて、どんな結末になるのか」

というムードです。当初は一冊目の『ロバート・ツルッパゲとの対話』の続編のようなものを考えていたのですが、「たいして流行らなかった映画の続編なんてだいたいつまんないでしょ」という科学的な根拠があるので、まったく違うスタンスに切り替えることにしました。文章講座に通っている生徒が書くものなんてヘタに決まっています。ですから私はわざとヘタに書いています。ここは周知徹底しておきますが、わざとなのです。

本を読むのが苦手な人は長い文章が嫌いなので、中身を小分けにするのが得策です。9人の短編が並んでいればどこから読んでもいいですし、飛ばしてもいい。そういった「読書アゴの未発達な人々」への離乳食的なサービスも忘れてはいけません。自分が言いたいことばかり押しつけても誰も読んでくれませんから。ただしこの離乳食はただ感触が柔らかいだけで、飲み込むのは少し困難かもしれません。認可されていない添加物が大量に入っているので。読者のことを考えつつも媚びることはしない。このあたりのさじ加減が大事なんですね。離乳食だけに。

テイストを変えた9本の短編に、いま思っているさまざまなことを盛り込もうと思っています。音楽で言えばエンニオみたいに盛り込もうね、です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。