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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2021年4月の記事一覧

ポールシンガ:Anizine(無料記事)

数年前、知人である俳優の芝居を観た。文句なしに素晴らしい舞台だったからもう一度それを体験したかったんだけど、その日が千秋楽だったので、もう観られないのかと残念に思った。 「この次はシンガポール公演なの」 俺は耳が大きいんだけどその言葉を小耳に挟んだ。なるほど海外公演か。というわけで本人には伝えずに、業界用語で言えば、れしっとポールシンガに向かった。遊びに行く理由なんてほんの微かな手がかりさえあればそれでいいのだ。 現地で「ドリアン」と呼ばれている立派な劇場でヒデキ観劇後

鳥取県大会:Anizine

「何かを知るほど、自分には知らないことがあるんじゃないかと思うと怖くなる」それが論語に出てきたり、ソクラテス兄やんが言ったとされている、よく知られるフレーズなんだと思う。 知らないことが理由で無敵になる人もいる。1リットル入る水筒の中に水が一杯であることを誇る人がいれば、家にある大きなプールには水があまり入っていません、と謙遜する人もいる。本来持っている潜在的なキャパシティが大きいほど落胆も同時に存在するということだろう。 さっき、「あの人、英語ができるから頭いいよね」と

ゴルフの楽しさ:Anizine

俺がゴルフの練習を始めたのは確か、小学校4年くらいだったと思う。これは悲しい記憶として自分の心の深い場所に沈んでいる。心理学用語で言えば「井戸のイド」である。手延べそうめんのことではない。 それまでは父親から小学校低学年にもかかわらず硬式球を全力で投げつけられ、手が痛いからといってグラブの網で捕ると怒られるというスパルタ方式で野球を教えられていたんだけど、あるとき突然「ゴルフやるか」と言われて、毎週末ゴルフの練習場に通うようになった。 幼心にも、自分には父親を満足させられ

本物のギター:Anizine

日本というのは、つくづく幼稚な国だなあと思う。 言い方を変えれば、「幼稚であることに市民権が与えられている」というか。前に書いたことがあるけど、もう一度書く。どうせ誰も憶えていないだろう。 俺が中学生のとき、友人が段ボールをエレキギターのカタチに切り抜いたものを持って来て、放課後の教室でライブパフォーマンスを始めた。彼とは仲がよく、何かするときはいつも一緒だった。他の友人も翌日には自分の「ギター」を作って来てバンドに加わった。口で「ギュイーン」とか言うと観客である女子生徒

学ぶ方法の学び方:Anizine(無料記事)

どんなことでも「学ぶ方法」がすべてを決めると思っている。 数学や物理学の天才と呼ばれる人は、その分野を学ぶ方法を会得したから結果としてその立場にいる。アスリートでも同じ。目的を実現する方法を編み出すことは天性の才能よりも数百倍重要で、そちらのセンスは後天的に磨くことができる。 生まれつきの好条件として身長が2メートルあればNBAで一流選手になれるかと言えばそうでもなく、プロの世界ではそれが最低条件に近い。2メートルある人が集まった中で、さらに特殊な能力があるかどうかを試さ

暗算のお兄さん:Anizine

数年に一度くらい、若い頃を思い出すことがある。他の人の頻度は知らないけど、俺はかなり過去を振り返らないタイプだと思っている。昔やったことなんて何の価値もないと思っているし、ましてやそこで誰かに褒められた話をしたりされたりするのはウンザリだからだ。思い出話をした途端に人は老けるのだと思っている。 相変わらずドタバタと仕事をしている毎日だけど、仕事を片付けた後に数時間だけ空くことがある。そういうときに行く場所はいくつかしかない。俺は三つのデザインプロダクションに勤めた経験がある

偽善とパンク:Anizine(無料記事)

いつも「何かをするときの心構え」を偉そうに書いているが、もしも若い頃の俺が読んだら「クソ偽善者か」と思うだろう。 パンクという音楽に代表されるように、若い頃は自分が知っている幼稚な世界の解釈で正当性を叫びたがる。でも大人になっていくにつれ、それは「生活というゲームのルール」を知らなかったゆえの浅はかさだったと気づく。なぜ世の中がそうなっているのかを知らないから反抗というポーズをとることができただけなのだ。親がどれほど自分を後回しにして子供のことを考えているかを知らないから、

「あるモノ」と20万円:Anizine

ソーシャルメディアでマネタイズをするということについて考えてみる。 俺は20年くらい前からくだらない日記みたいなものをネットにアップしていた。自分のHPのテキストファイルに< p >だの< br >だのとhtmlを打ち込んでいちいちftpにアップロードしていた頃の話だ。そういうローテクな時代を経て、今まではただ垂れ流していた無料の文章がこうして有料のマガジンになっている。 「note」ができてすぐにアカウントを作った。今年が開設7周年ということだからそれくらい前のことだ。

冷静と乖離の間:Anizine

脳が左右別の判断をしながら同時に動いていたらどうなるか、と考える。 たとえば酒を飲んでいるとき、左脳は酔っていて右脳はシラフであるとか。酔っている自分を、そうではない半分の自分が冷静に眺めている状況には耐えられないんじゃないかと思う。俺はまったく酒を飲まないんだけど、みんなが飲んでいる場にいることはよくある。酒を飲む人はシラフの人に醜態を観察されることを嫌うから、もし自分の酔った姿を半分の自分が見ていたら、酒を飲むことはできなくなるんじゃないかと推測する。 言いたいことは

カードを切る日:Anizine(無料記事)

33歳の時に10年勤めた広告プロダクションを辞め、CMディレクターのサノ☆と一緒に渋谷に事務所を作った。俺はその頃CMやテレビ番組の仕事をしていたんだけど、演出という職種はほとんど事務所のデスクでの作業がない。コンテなんてカフェでも家でも描けるし、打ち合わせは広告代理店かプロダクション、撮影や編集でほとんど外にいる。だから事務所はただ皆が集まる遊び場だった。 サノ☆との音楽性の違いで離脱した後、線路を挟んだ明治通り沿いに新しい事務所をCMディレクターの平林監督とふたりで作っ