東大生インターンはなぜ業界大手をやめて戻ってきたのか
大学在学時から4年半の間、ゲームプランナーのインターンとしてangooで働き、新卒で業界大手の他社へ入社して2年間キャリアを積んできた前田が、昨年の9月に再びアングーへ戻ってきた。
なぜアングーへ戻ってきたのか? どんなゲームを作りたいのか?
これまでの経緯とこれからの野望に迫る。
■プロフィール
ゲームを真剣に遊んだら見えてきた「面白さ」を作ってみたかった
──前田さんは大学1年生からangooにインターンに来ていました。そもそもなぜゲーム会社で働こうと思ったんですか?
その時はお金がなくて、バイトを探してたんですよ。せっかくなら面白いバイトがしたいなと思っていたところに、アングーがゲームを作る有給のインターンを出しているのを見つけました。
その時はまだangooは一つもゲームをリリースしていなかったのですが、代表が元カプコンで『ストリートファイターIII シリーズ』の開発に関わっていたというようなことを知り、興味を持ちました。
──インターンの面接では代表の中川さんとどんな話をしたんですか?
なんでゲームを作りたいのか?と聞かれたのを覚えています。その時は、二つの側面でゲームの面白さを感じていて、それを作りたいという話をしました。
一つ目は、ゲームが持つ構造的な面白さです。
元々『メタルスラッグ』が好きだったのですが、ハイスコアランキングに名前を載せるためにノーミスでやろうと思ったことがあるんです。
そうすると、今まで横スクロールアクションだと思って遊んでいた『メタルスラッグ』がパズルになったんです。
弾薬を縛るより高度なプレイもあるんですが、弾薬の使い方には最適解があって、うまくやると無駄なくちょうど安定して敵が倒せるようになっています。
そこに美しさを感じました。
ノーミスクリアの練習の過程でレベルデザインというものの奥深さに強く感動したのを覚えています。
『ぷよぷよテトリス』や『テトリス99』などでも同じことを思いました。『テトリス』は最初は落ちてくるものを見て地形に当てはめていくだけのゲームですが、8種類のテトリミノとそのサイクルの構造を把握すると、NEXTを見てどのタイミングでREN(コンボのようなもの)をつないでダメージをだすかというゲームに変わります。
見えていなかった構造が見えるという体験に感動して、それと同時にこの構造的な面白さを自分で作ってみたいとも思いました。
二つ目は、ゲームを遊ぶ中で起こる非言語的なコミュニケーションの面白さです。
高校生の時に、対戦ゲームの『DISSIDIA FINAL FANTASY』をゲーセンでやりこんでいたんです。
対戦ゲームなので全員が本気で勝つことを目指しているのですが、その対戦の中でコミュニケーションを感じるんですよね。
例えば、
「あなたならこの状況であの行動をするよね?だからこの技を置くよ」
「いや、それは読まれているの知っているから、別の行動をとるよ」
みたいな、相手の意図を読み取って、それに応えるように技を返すのは、一種の対話だと思うんです。
しかもこのゲームは3対3のチーム戦だったため、味方同士でもそういった非言語のコミュニケーションが発生します。
こういったコミュニケーションがゲーム内での操作によって起こるというのが面白くて、そういうものが生まれる枠組み自体を作り出すのって楽しそうだなと思いました。
語りたいことと、語り方
──インターン時代はどんなことをしていたんですか?
スマッシュ&マジックでは、最初は週替わりのコンテンツを作っていて、最後の方には社員のプランナーと一緒に高難易度コンテンツを任せてもらいました。
自分が作った部分が面白いという感想をネットで見かけたときはうれしかったです。
難易度設計やユーザー体験などを考えながら作って、それがうまくいくというのが気持ちよかったですね。
──スママジは1年3ヵ月でサービス終了してしまいましたね。
スママジが終わってしまったときは寂しかったです。
そのあとは、新規ゲームを作るためにしばらく企画書を作り続けていました。
当時はメカニクスをどう組み合わせるかということに気を取られていたのですが、今では考えが変わりました。
──コンセプトやテーマみたいなことでしょうか?
今は、ゲームは作り手にとっては「語りたいこと」と「語り方」からなると思っています。
受け手にとっては「語られること」と「語られ方」です。
コンセプトとテーマとは微妙に観点が違っています。
「語りたいこと」はいろいろな形があると思っていて、例えば移民問題であったり差別問題であったり、人権問題であったりする場合もあれば、格闘ゲーム的な非言語の駆け引きの面白さであることもあると思います。
「語り方」については、オープンワールドだったり、コマンドRPGだったり、横スクロールのアクションゲームだったりと、ゲームメカニクスやその組み合わせにあたるものから各種アセットのデザインやその配置、実装方法までにわたるものだと考えています。
この2つは両輪で考える必要がありますが、「語りたいこと」の強度がないと、僕たちがチームでゲームを作り続けるモチベーションも保てないと思っています。
「語りたいこと」をどうするかということについては、それは最初に見えているものかもしれないし、作っていく中で見つけ出したり、あるいは掘り出されてしまうものかもしれません。
このゲームで「語りたいこと」は何なのかを意識しながら「語り方」を考えて制作を続けることは非常に重要だと思っています。
それは結果として「語られること」の強度を高め、プレイヤーがゲームを遊び続けるモチベーションにつながるからです。
一番大事なことは「語られること」の強度です。
「語られること」と「語りたいこと」が一致することは稀ですし、それらが一致しているのはそれはそれでスリリングさに欠けた作品だと思います。
しかし、少なくとも「語りたいこと」を僕たちが強く意識し続けることなしには「語られること」の強度は高まらないだろうと考えています。
全員が主体的にゲームを考えるために
──スママジの次はどんなプロジェクトをしていたんですか?
インターン同士で短期間でゲームを一本作りました。
その次は比較的大きめのプロジェクトでした。
プランナーとして結構広く担当していたのですが、他の職種の人からの意見を吸い上げる場所が少ないなと思ったんですよね。
僕は、どのセクションの人でも企画をやっていいと思っているんです。
プランナーという職種はあくまで仕様に落とすことが仕事であり、ゲームがどうあるべきかという中心部分は全員が考えるべきことだと。
一方で、他の職種の人は仕様に詳しくないので、意見を出しにくいというのもわかっています。
そこでTrello会という、適当でも感想を言っていい会を定期開催で作らせてもらいました。
例えば、このキャラの操作がなんか気持ちよくない、みたいな抽象的なものでも、なんでもいいんです。
最終的にはその部分の担当者が判断するのですが、出た意見について話し合って判断材料をできるだけ増やすことが大事です。
実際やってみるとtrello会はいつも白熱して、熱量のある意見が湧き出しました。
当初の目的である、いろんな人から適当でもいいから意見を拾う、というのとは少し違う形になりましたが、いい会だったと思います。
大企業での細かな失望
──ここまでインターン時代の話ですが、インターンだけどかなり大きな役割を担っていたんですね。そこから大学卒業を機に、大手のゲーム会社に就職されました。その理由を教えてください。
その会社が昔作っていたゲームが好きだったんです。
最近はつまらないものばかり作っているなと思っていたんですが、就職時期の少し前に面白いタイトルが出たので、行ってみることにしました。
──2年半勤めた大手のゲーム会社を辞めて、angooに戻ってこようと思ったのはどうしてですか?
その会社では、同僚と組織への細かい失望が重なっていて、担当していた箇所が終わったのをきっかけに辞めました。
同僚に関しては、ゲーム好きな人があまりいないというのが大きかったです。
大手だからか、AAAタイトルをやっている人は多いんです。自社の出したものとか、広く流行っているゲームなど。
でも、インディーゲームが好きという人はほとんどいなくて、趣味が合わなかったです。
組織に関しては、大規模開発っぽい問題ですね。
15人くらいのチームが何個もあって、それぞれでディレクターが発注する企画書に対して仕様を切っていくような進め方だったのですが、チーム長に「この企画って何のためにあるんですか?」と聞いても答えが返ってこなかったんです。
このゲーム、この企画を作る動機のもとに仕様を決めたいのに、伝言ゲームの中でそれが伝わらなくなっていました。
ディレクターがレジェンド的なクリエイターなので、それを疑わずにそのまま作ろうとする人が多いのも理由の一つだと思います。
具体的な個人に向けたゲームが作りたい
──それらの不満が重なって戻ってきたと。他の会社に行くことは考えましたか?
就活が面倒なので、特に考えませんでした。
中川さんがいつでも帰ってきていいよと言ってくれていたので、戻ってから考えるかと。
──戻ってきて、なにか印象は変わりましたか?
雰囲気は昔いた時とそんなに変わらないなと思いました。
戻ってきて思ったんですが、angooはゲームの好みが幅広いですね。
Slackのゲーム共有チャンネルで大作からsteamのニッチなゲームまで、いろいろな感想が流れてきて、みんないろんなゲームやってるなぁと。
──今後どんなゲームを作りたいですか?
具体的な個人に向けたゲームを作りたいなと最近は思っています。
よくゲームの企画書には20代男性とか、アクションゲームが好きな人みたいなターゲットが書かれていることがありますが、そういったぼんやりとしたターゲットに向けて作るというのが、嫌すぎるんですよね。
というのも、そう言ったある種、ステレオタイプ的にかなり雑に抽象化された人に向けてゲームを作ったところで、本当にその人たちに刺さるゲームが作れるとは思っていませんし、そもそもそういったTheステレオタイプな人なんてそういないと思っているからです。
具体的な個人、それは僕自身かもしれないし、僕の身近な誰かかもしれないし、それこそangooの社内の誰かかもしれません。そういう人に「本当に」面白いと思ってもらえるゲームはなんだろうということを考えて、ゲームを作れば、それは個人の趣味を超えた、普遍性を持つはずだと僕は思っています。
例えば『UNDERTALE』だって最初は友人のために作ったゲームだったそうです。
そういう意味でいうと、社内で開発している『SOLO』は結構やりたいことに近いです。
──例えば前田さん自身に向けたゲームであれば、どんなゲームになるんでしょう?
僕が面白いと思うものは「破壊」です。破壊といっても物理的な破壊ではなくて、観念的なもの、既成の秩序や常識に対する「破壊」で、それをユーモアに昇華したようなものですね。
そうしたユーモアは常に緊張感がありますし、スリリングで僕はとてもワクワクしますし、僕の作る表現はそうしたものでありたいと思っています。
「破壊」というとネガティブで暴力的な印象がありますが、僕たちが普通に生きていて身に着けてきた、もしくは身に着けてしまっている観念は少なからず、偏った価値観で他者を抑圧したり、他者との優劣を比較したりするものも少なくないと思います。
そうしたものへの「破壊」は、僕がゲームを作る中でやれればいいなと思っていることですね。
前田がインターンとしてangooでゲームを開発するようになってから8年間の経緯を聞く中で、前田のゲームの面白さに対する変わらない真摯さと、少しずつ変わっていくゲーム開発への向き合い方が垣間見えた。
ゲームで既成の秩序の「破壊」をする。
ややもすると無茶な野望にも聞こえるが、大企業を飛び出して理想のゲーム開発を求める前田であれば、本気で追い求めて実現してしまいそうな勢いを感じてしまう。
今後、前田がangooでどのようにその野望に近づいていくのか。前田の求めるゲームは一体どのようなものになるのか。
期待は膨らんでやまない。
(聞き手・皿海孝典)
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