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柔術のスピード。2つの「はやさ」の話(全文無料)

 今日も今日とて柔術は楽しい。今日は「はやさ」の話


柔術における2つの「はやさ」

1.「速さ」

動きのスピード、速度、ハンドスピード、走る速さなど

2.「早さ」

時間的な早さ。タイムラグの短さ。

 どちらも大事ですが、他のスポーツや立ち技打撃格闘技に比べて柔術は「早さ」の要素が大事になってきます

1.柔術における「速さ」

 スポーツのスピードといえばこちらの「速さ」をイメージするのがほとんどでしょう。球技では走る速さやボールの速さ、ボクシングなど打撃格闘技ではステップの出入りやハンドスピード、組技ならタックルのスピード、背負い投げのキレなど。この速さは大半のスポーツで大事です。

 柔術においては、速さ(スピード)の重要度は他の競技より小さく、戦術やテクニックの割合が大きいイメージです。

あくまでイメージ。スポーツによってこれらの割合は変わるし、「たいていのスポーツ」と雑に分類できるものではない。

 柔術では競技の特性上動きの距離が短いこともあり、ハンドスピードや走るスピードはそこまで求められません。100m走のタイムやボクシングのジャブのスピードが柔術に直接活きることはあまりないです。(短距離走の足腰の強さや、初動を見せないジャブの体の使い方などは活きると思います)。
 トレアドールのステップの時速や、ベリンボロから腰を取りに行くハンドスピードが柔術の強さに直結するとは考え難いです。

 また、立ち技や走るパスなどの遠距離の攻防では「速さ」を求められることが多いです。

2.柔術における「早さ」

 柔術ではこちらの「早さ」の方が大事です。スピードを上げる「速さ」よりも相手よりも先に動く「早さ」です。

橋本知之選手がセミナーで「リズムで勝つ、テンポで勝つ」と言っていました。

加古拓渡先生はレッスンで「速くなくてもいいので動きと動きの間のラグを短くしましょう」と言っていました。

細川顕先生はstand fmで「テクニックを意識したいならゆっくり動く」と言っていました。

例:

①トレアドール・パス
→ステップのスピードを「速く」するよりも、相手が裾を取って足を回してくるディフェンスよりも「早く」動く。
②スパイダーシザースイープで手をマットにつかせてから三角絞め
→三角絞めで腰を飛ばす動きを「速く」するよりも、相手が手をついたら立て直すよりも「早く」三角絞めに移行する
③ベリンボロ
→回転する速度を「速く」するより、相手の膝をひねったら相手がまた膝を戻してくるよりも「早く」技に入る。動きのスピードよりロスなく次の技に入る

3.反応速度

 これは、上記の「1.速さ」と「2.早さ」の両方の要素になります。これは才能や若さに依存する部分もありますが、柔術の場合、読みと経験でカバーできる部分が多いです。

 例えば、打撃系格闘技のパンチの反応や動体視力、野球のバッティングなどは、反応できないと勝負になりません。読みでカバーできない部分が大きいです。しかし、柔術の場合、動きを予想したり誘導したりすることで先を読み、相手より早く動くことができます。

 また、柔術は組み合っているので、視覚だけでなく触角(体性感覚)での反射反応ができます。これは大きいです。手の感覚で相手の重心や動きを読み取って相手より「早く」動けます。同じ条件からよーいドンの勝負は「速さ」の勝負になりがちです。バンバン左右に飛ぶ選手でも、一度グリップしてガードに入れてしまえば何とかなることが多いです。

 動体視力や反応速度は年齢と共に落ちます(目の機能や神経の伝達速度が落ちるため)。しかし、経験による読みは上達するため、柔術では反応速度が落ちるマスター世代でもアダルト世代と攻防ができます。

なぜ「速さ」より「早さ」なのか

①成功率が高い
→よーいドンで同時にスタートすると勝てることもありますが、負けることもあります。柔術の攻防は距離が短いので速度で差をつけるのが難しいのです。速さ勝負は3m走、早さ勝負はスタートの位置を変えられる短距離走のようなイメージです。相手よりスタート位置がゴールに近いならばだいたい勝てます。
 場合によっては、反応速度とスピードに圧倒的自信があるならばあえて「速さ」勝負をするのもアリです。しかしこれは選ばれた人の戦略です。

②フィジカルに劣る場合でも勝てる、マスター世代でも伸ばせる
→「速さ」はフィジカルや若さや才能に依存しますが、「早さ」は経験と読みで伸ばせます。

③ケガのリスクが減る
→速い動きはコントロールが効きづらく、ケガにつながりやすいです。「速さ」よりも「早さ」を競うように意識して練習するとケガもしづらくテクニックが上達します。

※逆に「早さ」で負けているのに「速さ」で強引に勝つ攻防をしていると同カテゴリーの選手との試合で勝てないことが多いです。

④テクニックの向上につながる
→がむしゃらにやる「速い」スパーは、スパーを記憶できない、思い出せないことが多いです。「思い出せない=再現性がない」です。「早さ」を意識することでそのテクニックを思い出して修正したり再現したりできます。「速い」スパーも試合のために必要ですが、「早さ」を意識した方がテクニックが向上します。
 柔術の速度の上限はたかが知れています。トレアナステップの時速を上げる練習は非効率です。それよりもフェイントを入れたり、相手のリアクションを切り返す「早さ」を磨いた方が上達します。
 「早さ」は経験と積み上げで伸ばせるので才能や若さに依存せず(関係はある)、コツコツやればだれでも伸ばすことができます。

まとめ 「はやさ」を伸ばすためには

「速さ」を伸ばす
→瞬発系のトレーニングをする。反復練習でスムーズにできるようにする。強度の高い速いスパーをする。非効率でこれだけでは限界がある。トップクラスではこの「速さ」も求められる。

「早さ」を伸ばす
→技の知識を付ける、スパーと試合で経験を増やすことで読みの精度を上げる。動き自体のスピードより動きと動きの間のタイムラグを短くする意識を持つ。普段のスパーから相手の動きを読む癖をつける。読みが当たっても外れてもそれは経験として自分の中にストックされるので読みの精度を上げてくれる。

「反応速度」を伸ばす
反射で動けるようにする。頭で動くのではなく動きを察知したらノンタイムで体が反射で反応できるように反復練習する。相手がのってきたらスイープする場面では、頭で「のってきた」と思ってから動いては遅い。「のってきた」の「の」の瞬間には動いているのがベスト。目や組んでいる手足で相手の重心の変化を感じた瞬間仕掛ける。

まとめると、

・レッスン、教則等で、知識を付ける
・打ち込みで、動きの精度と速度を上げる、体に覚えさせる
・スパーは、普段は「早さ」を意識したテクニック重視のスパー、たまに強度を上げて試合を想定した「速い」スパーを行う。

まあ、やることはそんなに変わらないですね。。。

 「早さ」は「よーいドンで同時にスタートして速度を競うよりも、陣取りゲームで早く相手の領地へ到達する」イメージです。「そんなに動きは速くないのに、いつもいいところ取られていつの間にかやられちゃうなあ」がベストです。さらに試合では「速さ」も出せると強いです。

「速さ」よりも「早さ」を伸ばしていきましょう!

2023/1/16 アンディ

追伸 「はやさ」だけでなく

 柔術では本記事の「はやさ」だけでなくパワーも戦術もテクニックも大事です。すべて含めての柔術です。

イメージとしてはこんな感じ。

①パワー系(力、フィジカル、引く、「速さ」)
②テクニック系(タイミング、位置取り、組手、コントロール、「早さ」)
③パワーとテクニックの中間系(体重、フレーム)

白帯は①に偏りがち。

バランスよく身に付けていきましょう。

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