柔術教則レビュー「【加古 拓渡】the competition 50/50 game(競技者のための50/50ガードゲーム)」(全文無料)
今日も今日とて柔術は楽しい。今日は教則レビュー。加古拓渡先生の50/50(フィフティー・フィフティー)の教則。クラスで習うことも少なく、日本語の教則もなく、普段の道場のスパーでもやる機会が少ないですが、競技者としては必修のガードです。
かなり長いですが・・・50/50のコンセプトをがっつりと書いた読み応えのある内容になったと思います。読んたら教則を見たくなる!たぶん!
また、今回の教則は道着での50/50。ヒールフックありのノーギの50/50とギありの50/50はほぼ別物なのでご注意を。
※2024年から、IBJJFのルールが改定したため、教則内のテクニックの一部が使いづらくなっています。新ルールの説明と戦略については最後の章にまとめましたのでご参考にどうぞ
選手の紹介
内容紹介 (フローチャート)
「コンセプト」(1-5)
「エントリー」(6-17)
「スイープ」(18-22)
「バックテイク」(23-25)
「50/50解除&パス」(26-30)
「サブミッション」(31-36)
番号は教則内のチャプター番号です。
50/50のゆりかごから墓場まですべて網羅しています!充実の内容!この教則をマスターすれば50/50の攻防のほとんどの展開に対応できるでしょう。全く知らない技や展開は非常に怖いので競技者としてはこの教則は必修です。
最低限これだけは知っておいてほしい。トップの時の膝の向き
チャプター01で紹介していますが、膝が外に向いて返されそうなのに上体で無理に耐えようとすると膝の外側がぶっ壊れます。この記事の他の内容は忘れてもいいですが(読んでほしいけど)、この膝の向きの知識だけは覚えておきましょう。この耐え方をして膝をケガした人が結構います。マジで。
50/50のコンセプト・メリット(なぜ50/50なのか)
コンセプト
教則を見て、自分が使っていった中で思う50/50のコンセプトは
「展開を限定する=実力差を埋める」
「戦略的に時間を味方にする」
です。基本的にフィジカルやテクニックなどの実力で劣っている場合、自由度が高い状況ほど差がつきます。逆に展開が限定されていると実力差が埋められます(例えば、色帯と黒帯でも限定スパーならいい勝負できる)。
50/50はパスされづらく固定力が高く、構造的にほかのガードへのトランジションもしづらいです。そしてスイープした後も50/50の形になるためスイープ合戦のシーソーゲームで時間を有効に使えます。スイープの後も同じ形になって展開を限定できるガードは50/50以外にありません。ハーフもスイープ後にハーフになることがありますが、そんなに固定力も防御力もないのでそこまで展開を限定できません。
50/50のゲームプラン
これはチャプター3で詳しく説明されているのでそれを見てほしいのですが。簡単に言うと「自分が勝っている状態で50/50を使って時間を使う」ということです。負けているのに50/50で時間を使うのは有効ではありません。
ただし、50/50からのバックテイクやサブミッションがめちゃくちゃ得意という場合や、相手のトップアタックが強すぎてなんでもいいからとにかく捕まえたいという場合ではその限りではないです。
もう少し細かく言うと
①ベスト「自分が50/50の上でも下でも試合終了になったら勝ちの状況」
②セカンドベスト「試合終了時に上になっていたら自分が勝つ状況」
③NG「上になっても負けている状態」
これは覚えておこう。ストーリングのペナルティ(ルーチ)とアドバンテージ
これを知らずに固まってストーリング(ルーチ)を取られたら負けてしまうことがあります。逆を言えばストーリングを取られても負けない場面(残り30秒でペナルティが0で勝っているなど)ならストーリング覚悟で固めるのもアリです。
50/50は本来の柔術ではない?格闘技ではない?競技柔術に特化してるだけ?
たま~にこういうお考えの方もいるかもしれませんが、そんなことはないと思います。
まず格闘技がその競技のなかで勝てるように技術が進化するのは当然だし、あるべき形だと思います。ボクサーが「ローキック蹴られるからスタンスは狭く構えるべきだ」とか言わないでしょう。
そして、柔術の哲学の一つは「護身術」です。ガンガンアタックして最終的に一本を取って相手を破壊することだけがゴールではありません。50/50を使うことで相手の動きを制限(コントロール)してアタックさせないことは柔術の形として正しいものだと自分は考えます。実力が上の相手でも生き残れる50/50はとても「柔術的」なガードではないでしょうか。
メリット
デメリット
向いている人
向いていない人(使わなくてもいい人)
自分が使わなくとも相手が使ってくる可能性があるので知識としてこのガードを身に付けておくことは選手なら必須です。
有効な相手
相性のいいテクニック・合わせて覚えたい技
使ってみた感想
実際にスパーで使うと確かに格上相手や階級上の相手でもパスを止められます。色帯だと展開を知らない人も多いのでけっこうコントロールできました。トップの50/50を知らない相手だと案外、簡単に解除できました
ただ、スパーでやると展開が限定されすぎてあまりいい練習にならないこともあったので、ある程度身に付けたらこればっかりやるのは練習としてはよくないと感じました。
試合でも何回かスイープを決めてトップキープして勝てたことがあります。その時はリテンションで50/50になりました。自分から作りにいかなくとも相手がやってきたり、流れでこの形になることはあるので試合に出るなら必須だなと感じました。
足関アリのノーギスパーだと内ヒールの取り合いになることが多くて道着ありの50/50とノーギの50/50は別物だと感じました。
ノーギでもヒールフックとトゥホールドがないアドバンスルール(紫以下)ならシーソーゲーム的に50/50を使えるかもしれません。
知らない人は膝が外に向いてるのに上体だけで耐えてきます(先ほど書いた「最低限これだけは知っておいてほしい。トップの時の膝の向き」)。試合だったら「ケガしないでくれ!」と心で唱えてスイープしましょう。道場内だったら無理にスイープしないほうがいいです。
また、白帯の人は内側の足にめっちゃストレートフットロック(アキレス腱固め)やってきます。極まらないですが、地味に痛い(笑)
個人的に好きなテクニック
・03ゲームプラン。これを知らないと知っているとでは試合で差がつくと思います。
・14,15,16のレッグドラッグからのエントリーと足の流し方は面白かったです。足の流し方はシングルレッグエックスなどからにも応用が効きます。けっこうアウトサイドアシ(内掛けで相手の足が外ヒールの位置、50/50の足を流す前の位置)になることは多かったのですが、そこからの足の流し方が細かくて分かりやすかったです。
・26-30の50/50の解除。どれも知らない解除法でした。たぶん実際にメインで使うのは限られてくると思いますが、いくつか試してしっくりくるのをやってみます。
・31-36の足関も面白いです。特に34,35の50/50(下)からのトゥホールドが好きです。一発逆転の武器としてもプレッシャーを与える戦略としても相手がやってくるディフェンスとしても知っておきたいテクニックです。いつか茶帯になりたいなあ。。。
まとめ
「the competition 50/50 game(競技者のための50/50ガードゲーム)」というタイトルの通り、競技柔術をやるものとしては必須の教則です。ここからトップどころで試合をする人はもちろん。色帯の人も同カテゴリ―の人と差をつけるために見た方が絶対いいです。
道場内のスパーで相手を圧倒したい人には向かないかもしれませんが、相手が使ってくることもあります。実力が下の相手に50/50でうまくやられることもあるかもしれません。
また、使い手も少なく、レッスンで教えてもらう機会も少ないガードで日本語の動画や教則も少ないです。
トップを目指す選手、色帯選手、マスター世代、あらゆる人にとってこちらの教則はおすすめです!
2024/1/27 アンディ
追伸。新ルールへの対応
教則内では相手のラペラを自分の足に巻き付けて固定するテクニックが紹介されていましたが、これが使いづらくなりました。
ルール改定後の日本語版の最新ルールブックがまだ出ていませんが(2024/1/27時点)まとめるとこんなかんじです。
戦略として
加古先生に聞いてみました。自分の推測も合わせてまとめました。
ルール改定補足 ストレートフットロックの内側への回転
50/50にはあまり関係ないですがせっかくなので。
※茶黒のみの改定
今までは「ストレートフットロックで内側に回る動き(相手の右足を自分の左脇で取ったら右に向いて回転する動き)は、相手が回るのについていくのはOKだが自分から回ると反則」でしたが、これからは下の選手が自分から回転しても問題なくなりました。なぜかこれは茶黒のみです。紫以下は反則です。
これはいい改定です。今までは相手が回っているのか下が自分から回しているのかレフェリーも判断が難しかったので。下としても相手が回るのを待たずに相手の膝が内に向いたらターンできるのでやりやすいです。
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