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グリーンブックの楽しみ方【映画のはなし】

note最初の投稿は何にしよう?と考え、やっぱり好きな映画について書こうと思いました。でも好きな映画って山ほどある…悩みます。一番好きなBack to the futureについて?一番好きな映画監督であるスティーブン・スピルバーグについて?とも考えたのですが、とても好きな映画「グリーンブック」のはなしをする事にしました。(ネタバレ有りなのでご注意ください☺️)


映画「グリーンブック」は2018年公開のピーター・ファレリー監督作品で、第91回アメリカアカデミー賞の作品賞を受賞した作品です。ジャマイカ系アメリカ人のピアニストであり、3つの学位を持っているドン"ドクター"シャーリーと、ドクターの運転手兼用心棒となる、小卒のイタリア系アメリカ人トニー・ヴァレロンガの物語。二人は"グリーンブック"と呼ばれる、白人以外の人種が利用できるホテルやレストランなどが記載されたガイドブックを片手に、コンサートツアーに出かけます。この物語は、1962年に実際に行われたドクターの2ヶ月のアメリカ最南部を回るコンサートツアーの実話を元に作られた物語です。

二人が成長する稀な作品

この「グリーンブック」という映画は、とてもユニークな物語です。映画は通常、一人の主人公が葛藤にぶつかり、それを乗り越え、成長するという物語が"王道"となっています。スピルバーグ作品のほとんどがその"王道"作品です。ですが、この映画「グリーンブック」は、主人公が二人存在し、その二人がお互いにぶつかり合い、助け合う事で、共に成長するお話となっています。そんな作品いくらでもあるでしょ?と思われがちですが…二人がそれぞれ別々の葛藤を持ち、その葛藤により二人をぶつかり合わせ、それぞれが自分のゴールへと辿り着く、という"物語の構造"を持っている作品は稀で、作るのは簡単な事ではありません…僕も脚本を書く機会が増えて来たのですが、一人の成長を描くだけでも毎日頭から火が出そうなのに、二人の主人公にリアリティーを持たせたまま、成長させて行く…その上、その成長が"二人が出会ったからこそ"の成長と言う所まで持って行くのは、とても高度な技術だと思います。

この映画の特徴として、主人公の二人は真逆の性格であり、真逆の二人だからこそ、お互いに学びがあり、成長し合える。何度見ても二人の"感情の流れ"は、とても緻密に計算されていて、美しい作品だな…と思ってしまいます。

真逆の二人のロードトリップ

主人公のドクターとトニーは真逆と話しましたが、実際に何が真逆なのでしょう?
ドクターは小さい頃にピアノの才能を見出され、ロシアに留学し、才能を開花させます。そして地位も名声も手に入れます。ですが"黒人"として"男性"として、様々な葛藤を抱えながら、一人孤独に生きています。一方、トニーは小卒で学がなく、喧嘩っ早い…その上、金銭的な悩みを抱えながら日々を過ごしています。ですが妻と息子たちを愛し、一族で仲良く幸せに暮らしています。そんな二人がドクターが行うコンサートのアメリカ南部へのツアーに出かける所からお話は始まります。
ドクターはとてもこだわりの強いキャラクターです。ピアノはスタインウェイ&サンズ製しか使用しませんし、酒のグラスが置いてある様なピアノなどでは絶対に演奏はしたくありません。その上、毎日必ず「カティサーク」というスコットランド産のウイスキーを一本飲み干すというルールも持っています。
逆にトニーにはあまりこだわりはありません。お店の物を平気で盗み、食べ終わったチキンを窓から投げ捨てる。そして腹が立てば誰でも殴る…それが警察官でも…そんな真逆の二人が互いの"欠点と長所"の両方に気がつき、心を許す関係になって行きます。

二人の成長が観客の心を動かす

映画冒頭のトニーには人種差別がありました。それは敵意を向ける様な強いものではありませんが、黒人やアジア人への明らかな差別意識を持っていました。それは黒人が使ったグラスを汚いものを持つ様な手つきで、ゴミ箱に捨てるシーンで見る事が出来ます。ですが黒人であるドクターと出会い、彼から学びを得て、それがリスペクトに変わる。そして、当時のアメリカ南部でのドクターが受ける"圧倒的な差別"に触れ、違和感を感じ、黒人への意識が変わって行きます。
ドクターは全てを持っています。富も名誉も、そして才能さえも。ですが、孤独です…理解者はいない。家族である兄とも疎遠になり、長い間連絡もしていません。そんなドクターのセリフで印象的なものがあります。「黒人でも無ければ、白人でもない。そして男でもない私は何者なんだ?」どこにも所属する場所がないドクターは、毎日酔い潰れるまでウイスキーを煽ります…
そんな二人がアメリカ南部を2ヶ月かけて回る中で、トニーは、ドクターの圧倒的なピアノの才能に心を動かされ、ドクターは、誰にでも同じ目線で話をするトニーに感銘を受ける。

この映画の最高のシーン

そんな二人は、ツアー最後の地であるアラバマで、差別を差別とも思っていないクラブハウスでのコンサートをボイコットして、場末のバーにやって来ます。そしてドクターはバーテンダーの女性にピアノを弾く様に言われます。一瞬、躊躇しますが、ピアノの元へと歩いて行くドクター。でもそこにあるのは、スタインウェイのピアノではない、小汚いピアノ…その上、誰が飲んだかわからない酒のグラスが置いてある…今までのドクターではこんなピアノを弾くどころか、触る事すら無かったと思います。ですが、トニーとの旅により成長を遂げたドクターは、ピアノを弾き始めます。それまでのコンサートではクラシックを淡々と弾き続けて来たドクターでしたが、本当に楽しそうに笑顔を見せながらピアノを弾く。このシーンこそが、監督が観客に見せたかったシーンだと僕は思っています。

物語以外にも楽しみが詰まっている作品

グリーンブックには様々なアイテムが出てきます。例えばスタインウェイ&サンズのピアノ。ピアノを弾く人やピアノに興味がない人だと中々聞く機会がないこの名前…元々家具職人をしていたスタインウェイさんがニューヨークで始めたピアノメーカーで、200年の歴史があります。ピアノのお値段はなんと…1000万円越え…中には2000万円以上もするモデルもあるのだとか…

Steinway & Sons

そんな超高級ピアノしか弾かないって、ドクターのこだわり強すぎるだろ…と思いますよね。でも一流のアーティストには一流の楽器が良く似合う!そして一流の音が奏られる。1962年のドクターのツアーでは、最高の音楽を楽しめたのではないか?と想像してしまいます。そして登場するアイテムとして忘れてはいけないのが、ケンタッキーのフライドチキンです!

この映画を観るたびにKFCのチキンが食べたくなりますw

なんであんなに美味しそうなのでしょうか?絶対にやってはいけませんが、食べ終わった後に、窓から食べ終わった骨をポイっと捨ててしまう感じも、この映画のユーモアあふれるシーンですよね😆 面白いのは、アメリカの黒人のソウルフードであるフライドチキンの食べ方を、白人のトニーがドクターに教える所です。フライドチキンはアメリカ南部に移住したスコットランド人から黒人へと伝わって行った事で、アメリカに定着した料理だそうです。フライドチキンとワッフルがセットになったChicken and Wafflesはアメリカの定番料理です。

Chicken and Waffles

そんな二人のカルチャーがあべこべになっている所も、二人が育って来た環境などを垣間見る事が出来、この映画の魅力となっています。

そして、もう一つ忘れてはいけない大切なアイテムは、彼らの三人目の相棒とも呼べるキャデラックです。彼らが乗っているのは1962年から製造が始まったキャデラック・ドゥビルの二代目モデルです。全長はなんと5.6メートル…トヨタのプリウスが全長4.6メートルなので、プリウスより1メートルも長い…とにかく昔のアメリカ車は大きくて長い事に驚きます!
ドゥビルはフランス語で「都市」を意味する言葉です。今の都市には全然向かないモデルではありますが、当時は都会を走る最新モデルだったのでしょう。このモデルはとても人気があり、当時の販売台数は71,883台。キャデラックの全体の売り上げの45%を占めていたそう。

トニーが運転するキャデラック・ドゥビル

この映画では「車」はとても大切なアイテムになる為、様々な車種を洗い出し、最終的に45台の車種の中からこのキャデラック・ドゥビルを選んだそうです。二人の雰囲気にもとても合っていて、二人を新しい旅へと連れ出すアイテムとしてぴったりの車ですよね。

映画「グリーンブック」の魅力は伝わりましたか?
今日現在、Netflix、U-NEXT、Prime Videoで配信をしている様なので、ぜひまだ見ていない方も、見た事がある方も、この週末に見てみませんか?きっと新しい発見があるはずです!

今後も、この様な映画やドラマ、物語のはなしをして行きたいなーと思っています。ぜひまた読んでください☺️

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