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35. 雲に近い山の畑。ワイナリー「奥出雲葡萄園」を訪問しました



好きな酒はなにか、と問われたら。ワイン、日本酒、ビールの順。うまいと思えば、しばらくはこれ1本やりというのがわたしの特徴なのかもしれない。

年齢を経てくると、料理とともに味わう酒が、やはり格別と思うようになった。

そういうことから、昨年末「ふるさと納税」で、ワインをお願いした。島根県雲南市の奥出雲葡萄園ワイン&チーズセット、というのがそれ。

杜のワイン赤。杜のワイン白。奥出雲葡萄園のぶどうジュース。それに3種のチーズ(カマンベールルイズモ、イズモ・ラ・ルージュ、プロボローネチーズ)のセット(3万円)。チーズの銘柄には、〝木次乳業〟とある。

これはもしかしたら? そう思って調べてみたところ。思った通り! 木次乳業が営む、葡萄園のようである。

ああ、木次のパスチャイズ牛乳は、わたしがミルクティーやカフェオレをつくる時に、ないとガッカリするもの。地産の乳牛を、ストレスのない状態に放牧し、65度30分の殺菌。風味がよく乳の味が濃い。珈琲、紅茶の味を邪魔しないところが気に入って、冷蔵庫には常備している。


これは、と期待して、届くのを待った。

結果は、おぉーー!

杜のワイン赤。杜のワイン白。これが予想以上に、大当たりのように思えた。

まず、チビチビ飲むことを好む、わたしの性格と相まって、日日の劣化が少ない。例えば、社のワイン赤、なら。ビーフシチューだろうが、ステーキだろうが、お好み焼きだろうが。サーモンの刺身だろうが。なんでもござれ。


和の家庭料理を、どーんと抱きとめて、寄り添うてくれる。まるで和服を召してキュッと帯を腰高に結ぶ、できた上(かみ)さんのよう。毎日でも、飽きない味なのだ。これはうまい! おかげで一気に食卓が華やいだ。最初「杜の白ワイン」を開封し、カマンベールのチーズを開封し。年明けから、東京からNが帰省するのに合わせて「杜の赤ワイン」を開封し、と。順を追って、日々楽しませてもらったのである。これはワイナリーにどうしても行ってみたい。


1月ついに、松江の料理旅館に宿をとり、出雲大社を参拝したあとで「ワイナリー奥出雲葡萄園」を訪れることができた。

この日は朝から晴れ上がり、昨日までの寒々しい雨がうそみたい。出雲大社への滑り出しから好調で。3月のような陽気。

雲間からは、長い光のドレープがのびる天使のはしご。強い光に守られて参拝することができた。


いよいよ向かう。イメージとしては、北から南の中国山地にむかってどんどん進む。雲南市の木次町に着くころには、空気も凍るよう。湿気が多い。山のなかへ、溶けていく錯覚がある。

雲に近づく。車のフロントグラスに白い霧。雲がちぎれて、あたり一面に漂う。冬なのに緑が濃く、堆肥と草っぽい匂いまで伝わってくる。冷たい雪風とともに。これが奥出雲の気候風土か。

そこは、こぢんまりとした「葡萄の畑」だった。運がよくないと会えないといわれた2匹のロバが、坂道までかけ上がってきて、迎えてくれた。

わーい!

まず、山小屋風のショップへ。わたしたちがふるさと納税で購入したワインを目でみて、確かめた。人は、2組ほど。ストーブが焚かれ、ぽかぽかである。

わたしたちは、1杯200円を払って4本のワインを試飲した。シャルドネ樽発酵、カベルネソーヴィ二ヨン、メルロ、社のワインロゼを味わう。グラスに4分の1ほど。

家で味わうものより、土の濃い、葡萄品種の強い苦味のような後味。ぶどうの実と皮がしっかり感じられる、野太いワイン。個性ある味わいだった。ほーっ! ぜいぜい満足した。

チーズや、出雲のショウガ紅茶などをとりあえず買い求めて、シャルドネを確保。あとは保留とした。ほろ酔いで気分がよくなり、何が欲しいのか決められなかったのだ。

それで、庭のレストランまで歩いて行き、風にあたることで酔いさまし。遅い昼食を味わうことにした。


薪ストーブが4台もある。
トタン屋根のバラック風。庭のカフェテラスだ。おそらく、春から夏場には、窓を開け放していて、ここに爽やかな風が流れるのだろう。そんなことを思いながらゴーゴーと薪が焚かれるなかで、大きなピザ(マルゲリータ)をほおばる。


チーズの濃さが素晴らしい。これは、と思い、「甲斐ノワール」という赤ワインをオーダー。さらにチーズ4種盛りも。数種のチーズを配したチーズフォンデュが運ばれて来た。もう文句なしに、美味しかった。

「甲斐ノワール」は、濃い葡萄の果樹味がやさしい。果汁が綺麗、素直な味がした。

葡萄園の黒土が眺められる。窓からは、ぶどうの枝を剪定し、新芽がのびるのを、養生する人の姿があった。広く、素朴で、いいワイナリーの感じがわかる。なんというか、働く人がたくましいのだ。そうして、(これは妄想だけれど)心のほうは山陰らしく内向的で素朴なのだろうという気がする。そんな人たちが作るワインなのである。

フォンデュの素材。じゃがいも、かぶ、きぬさや、ブロッコリー、にんじんなど含め。地場のおいしさを、十分に堪能できた。デザートには、木次牛乳のソフトクリームまで食べた。

このあと、ワイナリーの貯蔵庫をみせてもらう。部屋は薄暗く、樽のなかで温度管理されて、眠っていた。眠りながら育っているのだ。 

そうして、決定しました。持ち帰りのワインである。

シャルドネの白ワイン。甲斐ノワールの赤ワイン。奥出雲のぶどうジュース。チーズ4種(カマンベールほか2種)。

冬のワイナリー訪問。

いつか、フランスのブルゴーニューにも訪れてみたいけれど。食べるもの、飲んでいるものの「産地を訪ねる」とは、こんなに楽しいものかと正直、思った。

日本の奥出雲には、こんな日本の肥沃な土壌と空に近い寒冷な空気を吸った、おいしいワインがある。そのことをぜひ、ここにお知らせしたい!






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