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41.食の北海道へ、ひとっ飛び!


少し前のこと。降ってわいたような北海道への旅が手に入った。弾丸で一泊という縛りだった。Nが仕事の時間が不意にあいて、航空券を提供してくれたので、前日まで仕事をぶっ続けでし、朝8時の大阪伊丹空港のANAで飛び立った。

今回の旅の目的は、「食べる旅」と決めていた。

数年前とはうって変わって、新千歳空港はガランとしている。NとLINEでやりとりをしながら、わたしはしつこく、週明けの月曜日に提出する予定の原稿を手直ししていた(飛行機の中でもそうだった)。


新千歳から札幌へ向かうエアポート急行に乗っていたら、ぽんとNに肩を叩かれ、えっと驚く間もなく、隣に座ってニカッと笑った。降ってきたように娘が現れた。


さて、この日、初めて口にしたのは「sushi」である。

その店は、Nが予約をいれていた。「やしろ」(丸山公園)というのが店の名前で、木の表札に墨で名前が書かれていた。 

カウンターでは、少しハンサムな大将が黒い布マスクをして、1かん1かん、にぎってくれる。寿司は小ぶり、一口でパクッと口に運べる。お酢は穏やか。江戸前だろうか。煮切り醤油や煮詰めでひいて、供するスタイルだった。

マグロ、ヒラメ、ほたるいか、天然虹鱒、羅臼産しめ鯖、タコの頭、麹漬け銀鮭など創作系の寿司が中心。関西ではこういう店は少ない。まぐろ、赤身肉など熟成ネタも多かった。だし巻きは、ほっとする上品な味。

1時間ほどでペロリと食べて、ほうじ茶のアイスをいただいた。

美味しかったのだが、どこか心のこりがあった。新鮮で、ピチピチの北の魚が食べたかった。創作寿司のたぐいを最初にもってきたことを残念に思う。

それで、北海道では人気という、回転寿司の「トリトン」へ行かないか、と、Nに提案してみたが、立て続けに飲食するのもどうかということになり、ぶらりと歩く。

せっかくの札幌市内だ。「丸山公園まできたのよ、丸山動物園に行きたい」とNはレッサーパンダみたさに、眼を輝かせて言う。が、水曜日は定休日。

それで、丸山公園のなかを散策し、北海道神宮に参拝することに。


ここは、初めて訪れた。北海道神宮は、1869年開拓民たちの「心のよりどころに」と明治天皇が北海道の土地に「開拓三神」を祀ったのが始まりという。原生林を切り拓く苦難に向かう人たちの精神的な支えとなったそうだ。厳かな社殿を参拝し、開拓の強い志を授けるように祈る。Nと神社仏閣を参拝するのは、正月の出雲大社以来なので、なぜか初夏が始まったばかりというのに、新春気分になる。屋台もたくさん出ていたのだ。

白樺や赤い唐松のなかに、北海道の桜がたくさん見られた。京都の桜とは同じ花とは思えない、花が小さく、楚々として青空の中に咲いている。少し歩けば、桃の公園があった。ピンクが濃い。たわわの実のように咲いている。途中、Nが唐松の松ぼっくりを拾う。一本の枝に30くらいの、小さな松ぼっくりがつく。面白かったので、土産物用のナイロンのビニールにいれて自宅まで持ち帰った。


さて、トリトンでは、北海道でしか採れないネタを中心にオーダーした。

眼をつむって食べる。海の幸を口にいれたいという卑しさが爆発しているのである。まず貝柱、身が柔らかくて粘りがある。溶けるように甘かった。気をよくして、うにやホッキ貝や、いくら、そして蟹味噌、ぼたん海老などを立て続けにオーダーした。

どれも、海鮮は、潮の香を含みながら、口に広がる時は甘みが、やさしく広がる。やや薬っぽい味が後味に残る。おそらく、真冬の幸ならこうはないのだろう。シャリは、はっきりいって普通だったが。

「やしろ」同様に穏やかな酢の入り。ネタをいろいろ口にいれると、結構シャリをたべることになり、満腹になってしまった。うーん、どれだけ食べても、へこたれない強靱な胃袋がほしい。



ここで、Nが予定に組み入れていた「六花亭」札幌本店へ。

お目当ては、マイセイバターサンドアイスだ。

ふわっとバターの風味が舌につくとひんやりとする。ラムレーズンがやさしく後押しする。そして正統なビスケットの味わい。おいしい! Nはこれでかなりの上機嫌である。



ちょっと、おいしい珈琲がいいわね。近場で、大人の珈琲を飲ませてくれる店! といいうことでヒットしたのがこちら「MARK珈琲倶楽部」。アスティ45ビル 4Fにある隠れ家喫茶店。熟練のマスターにキリマンジェロを炒れてもらう。しっかりと苦味のある豆の味が、酸味もほどよい。


夜は、「だるま」へ行った。本当は、日帰りで帰阪する予定だったが、Nから、おいしいジンギスカンを食べよう、と言われ、それもいいなと思って調子にのる。ああ、岩のように固い意志がほしい!と思いながら、これである。おいしいもの、と目前にぶら下げられると走ってしまうタチである。

「だるま」は、札幌から地下鉄の「すすきの」 にあった。「成吉思汗だるま本店」が正式な名前である。店の戸を横にひらくと、大衆居酒屋のノリだった。カウンターをコの字型に囲んで、羊の肉を食らう。一卓づつ炭をおこし、中が空洞になったこんもり丸い鉄の鍋を置く。

まず、「成吉思汗」上肉ジンギスカン、ひれ肉、キムチをオーダーした。

成吉思汗をたれづけで、一口。肉厚で、弾力のある濃い肉、ひしきまった羊の筋肉を想像した。そうか、のんびりと草をはんでいるばかりではない。獣の肉を味わっているのだという気がしてきた。周囲の客人は、カップルや男性客の2人、3人連れが多いが、サッときて好きなものをたらふく食べ、ビールを喉に流し込んで、サッと帰るスタイル。ちまちまと、いつまでも肉をつついたりはしない。人気店なので、お客が外に待っていることもあるだろうが。地元の労働者のための店の風情。平日で観光客が少ないのもよかった。

自宅でよくジンギスカン鍋をする。もやしやニラ、キャベツや人参などをたれ付けの肉と混ぜ込んで焼くスタイルだが、本場の味は、違った。生のキャベツをかじりながら肉と付け合わせはタマネギと大きくきったネギのみ。豪快に肉をくらうのが北の食べ方のよう。

きくところ、北海道の海を眺めながら、アウトドアバーベキューではジンギスカンをすることが珍しくないのだそう。庶民派の料理なのだ。


店を出たら8時だった。ホテルへ帰ってナイトラウンジでも行こうと考えていた。

「これから、しめパフェが待ってるのよ。それが北海道の愉しみ方」とN。

北海道へ来て思うのは、風がひんやりとして透き通っている、素肌にあたるのも爽やかなだということ。夜半のすすきの風も、昼と同じように気持ちいい。ネオンの街は健在。ライトアップも豪華に、ニッカウヰスキーの看板も。それでも客足はまだまだ、コロナ禍の影響があるのだろう。



夜パフェ専門店 パフェテリア パル」で、鈴蘭「という名前のチョコミントのパフェを食べる。


鈴蘭をイメージしたアイスは、ミントクリームや香草でアクセントをつけながら、ホワイトチョコレートがたっぷりつかわれた爽やかで冷たいパフェ。はるかのソルベ、グレープフルーツとキウイが飾られている。カプチーノをのみながら、Nとふたりでパフェをつつく。

宿泊は、ANAクラウンプラザ千歳。
Nが仕事で泊まっていたから、こちらにした。Nの部屋にて、少し話す。お風呂に行ってきていい? というので、もちろんと応える。ポメラをようやく開いてみる気になった。集中して、昨日の仕事の続きをしていると、Nが、「お風呂をためてあるからどうぞ」と言う。いや自分の部屋ではいるから、といったんいうがせっかく溜めてくれたのだったらと思い直して入浴させてもらった。

私がお風呂へ入っているあいだ、Nは、涼しい顔をして、ヘアドライヤーをしたり、顔のお手入れをするためにバスルームにやってきた。本を持って入ったのだが、全く読むことができず、Nと笑ってお喋りをする。

11時になったので部屋へ帰った。部屋で一二時まで本(「ブラックボックス」)を読んで就寝。





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