ベトナム人技能実習生と死体遺棄事件
3月24日(金)に最高裁判所は死体遺棄罪に問われたベトナム人のレー・ティ・トゥイ・リンさん(以下リンさん)に無罪を言い渡しました。1審および2審とも有罪判決でしたが、最高裁で逆転無罪になりました。ニュースで大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いかと思います。
日本には令和4年の統計によると約307万人の外国人が住んでいます。そのうちリンさんと同じ在留資格である技能実習で在留している外国人数は、約32万人になります。また、在留外国人全体の約10%が技能実習の在留資格で日本に居住しており、外国人の10人に1人が技能実習で在留していることになります。
このように技能実習は在留資格の中で珍しいものではありません。日本に住む外国人の在留資格の中で2番目に多い在留資格はこの技能実習になります。技能実習生と聞くとどこか縁遠いイメージがあるかもしれませんが、外国人の10人に1人が技能実習生と考えるとかなり身近に思えるのではないでしょうか。今回、取り上げる事件は技能実習生が妊娠した双子の死体遺棄になります。まずはどのような経緯だったのかを判決文を参照してみたいと思います。
事件の経緯
裁判所による事実認定は次のようになります。
この事件の争点は?
出産後のリンさんの行為が死体遺棄にあたるかどうかがこの事件の争点になりました。子どもの死体をタオルで包み、子供の名前やお詫びなどを記した手紙と共に段ボールに入れて封をして、別の段ボールに入れたことが、死体遺棄にあたるかが問題になりました。
最高裁の判断
語弊がある言い方かもしれませんが、簡潔にいうと段ボールに入れたことは死体を隠して発見が難しくしたけど、そのやり方自体は埋葬とかけ離れている処置とは言えないよねということです。
今後の課題
この事件を調べていて感じたことは、技能実習制度における欠陥です。技能実習の本来の目的は、人材育成を通じて開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進することを目的としています。しかしながら、「労働搾取目的の人身取引の事案は、政府が運営する技能実習制度において引き続き起きている」とアメリカ国務省によるTrafficking in Persons Reportに記されているように、依然として技能実習制度において問題が山積しているように思われます。
当然、日本国政府も上記のような状況を看過している訳ではなく、管理団体に対する改善命令や許可の取消しなどを行っています。上記の報告書では、そのような処置は十分でないと書かれています。
今回のような技能実習生が妊娠した場合に関して、「妊娠等を理由とする技能実習生の不利益取扱いの禁止の徹底 及び妊娠等した技能実習生への対応について (注意喚起とお願い)」という通知を管理団体宛に送付しておりますが、この事件の根本的な問題点は妊娠していることを周囲に打ち明けることができない環境にあるのではないかと思います。福岡高裁における判決文には下記のようにに示されています。
雇用者側も尋ねなかった訳ではありませんが、やはり妊娠すると帰国させられるのではないかというリンさんも考えたことが分かります。そもそも、技能実習自体が日本で技術を学んで母国で活かすことを念頭にしている在留資格であり、日本で子供を産んで育てることを想定していません。そのため、技能実習は家族と同伴することができない在留資格になります。
つまり、技能実習生同士の子供に対応する在留資格が現在ありません。一方、技能実習生と「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人であれば、「技術・人文知識・国際業務」は「家族滞在」の在留資格が認められているため、子供は在留資格を取得できる可能性があります。
一般的に子供の在留資格を申請する場合、出生から30日に以内に出入国在留管理局に届ける必要があります。日本に居住しない場合は、出生から60日以内であれば適法に在留することができます。また、「特定活動」の在留資格を申請することで一時的に日本での滞在が認められます。
いずれにせよ、技能実習生は32万人おり、今後リンさんのように相談することができずに一人で悩んでしまうことがないように、改善策を考えていかなければならないのは確実です。
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