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バニラ・レディキラー [後編]

「 あーーー… 予定は無いよ 」
「 カフェというよりは・・・お酒でも飲む? 」

そうしてカフェを後にした私たちは、近くのバルへ訪れた。

(前編はこちらから)

訪れたのは様々なクラフトビールが飲めるお店。
彼はお酒は得意でないようだったが、軽く付き合ってくれることになった。

「 はぁぁっ、ウマい! 」
私が一番好きなビール “ヒューガルデンホワイト” が、いつも以上に美味しく感じられるのは、緊張が緩んだせいか、目の前に居る人のお陰か。

オリーブとチーズの盛り合わせを頼んで、私は早々に二杯目を注文する。

淡い桃色をしたビールは、ピンクグレープフルーツの醸造酒だそうだ。
私が一口味見をすると、彼はまるでおやつを待つ子犬のように、興味深々にこちらを見ていた。
「 飲む? 」とグラスを手渡すと、彼も一口口を付ける。

ふと、こうした時に 私って潔癖なのだなぁ と思う。
物理的ではなく心理的な意味で、パートナーが居る男性が女性のドリンクを一口もらうなんて、私が彼女だったら嫌だから。
近頃 不倫や浮気の話をよく耳にするけれど、私は決して肯定派ではないし、嫌悪感も強い方だと思う。

それでも目の前に居る彼は、少量のお酒で頬を赤らめて、穏やかに笑って、私の話を うんうん と訊いてくれる。

「 ちょっとごめん、お手洗い行ってくるね 」

私はそう言って席を立つと、早歩きでトイレに駆け込む。
「 耐えろぉ、耐えろよぉ私…! 」
ぶつぶつとつぶやきながら歩く私は、傍から見ればヘンな奴だっただろうと思う。
けれど私はバニラが香る罪な男を前にして、理性を保つだけで精一杯だったのだ。

もしもこれが二人だけの空間だったなら、「 ほっぺ赤いね 」なんて言って彼の頬に触れていたかもしれない。
「 酔っちゃったかも 」と甘い声で、うつろな目をして、寄りかかっていたかもしれない。

恋愛感情より以前に、彼の見た目や声、表情、立ち居振る舞いは、私の欲情を強く煽る ストライクゾーンにハマり過ぎているのだ。

あっぶねぇ…  と一言、トイレの個室で深呼吸をする。

ただいまー、と何事も無かったかのように席に戻り、また他愛のない会話のキャッチボールを繰り返した。


——— その日は昼下がりから会っていたこともあって、クラフトビールのお店を出た後でも空はまだ明るかった。

「 今日はありがとう! 」
『 こちらこそ、じゃあまた! 』

駅の改札を潜る彼を見送る。
一度、そしてもう一度、彼はこちらを振り返り大きく手を振った。

「 はぁ… 」

人混みの中、私は大きくため息をついて自分の単純さを呪う。
お土産のチョイスも、ビールの一口も、別れ際に二度振り返ることも、彼にすればきっと何気ないことなのだから。

まんまと振り回されたけれど、不思議と悪い気はしていない。寧ろとっても楽しい時間だった。

だから私は素直に降参しよう。

あんたの勝ちだよ、レディキラー。

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