【そのよん】ADHDのワクワク☆ドキドキ☆初ひとり海外旅行
注意欠陥多動性障害を持つ私が、韓国ひとりで行けるもん! した旅行記です。
初日、あまりにもドッタンバッタン大騒ぎをしてしまって悟りました。昨日よりも早い時間に始まるコンサートも考慮に入れて。
観光を諦めよう。
とても残念ではありましたが仕方がありません。推しに会いに来るのがメインの用事なのですから、それを優先しなくてどうするというのでしょう。
幸いにも私が泊まっている繁華街・ソンパナルには飲食店が多くありました。なにか美味しい韓国料理でも食べようじゃないか。とりあえず、朝風呂派なのでさっとお風呂に入って、親から借りた変圧器を使いドライヤーをかけようとしました。
風圧、弱っ。
老人の鼻息か?
こんなんじゃ乾くものも乾かないわよ……と途方に暮れていると、そのうち変圧器が、プチプチ、という不穏な音を立て始めました。
そこから変圧器の全機能が停止するまで、そう時間はかかりませんでした。
確かに、10年以上前に買ったものだと聞いていました。でも、今ここで寿命を終えるなんて。あと2日あるんだぞ。私のバーチャルサラサラツヤツヤくすみ水色モリ(髪)を傷ませるつもりか。
ソンパナルという地名でピンと来た方もいらっしゃるかも知れませんが、幸か不幸か、徒歩圏内にロッテワールドモールというそれはもう大きなショッピングモールがありました。
日本で言えば、越谷レイクタウンみたいなところでしょうか? と思って今検索をかけ敷地面積を比較しましたが、ロッテワールドモールが8万7千平方メートルのところ、越谷レイクタウンは33万強平方メートルあるらしいので足元にも及びませんでした。越谷レイクタウン、デカすぎてキモいな……(強い表現を使うと面白いと思っている)。Wikipediaに「日本のショッピングセンター一覧」という記事があったので参照したのですが、越谷レイクタウンの3駅先にある、ららぽーと新三郷のほうが広さとしては近いようです。伝わるか? これ? 東埼玉に異常に詳しい人じゃないとわからないだろ。ただ、敷地面積はさておき階数が結構高い。地下2階から地上11階! やっぱ実質越谷レイクタウンじゃないでしょうか? サンシャイン60とか渋谷ヒカリエのほうが近いか? とにかく、それだけ大きいのだから家電量販店があるに決まっている。時間は限られています。いざ、出陣!
ランチ営業の居酒屋。洗練されていてお洒落なカフェ。昼はいささか静かな飲食店街を抜けると、大通りに出ました。本連載の中で1度、ソンパナルを池袋西口のような雰囲気と喩えましたが、ソウルの端の方で、大きな道路が通っていて、飲み屋が集結している、と要素だけピックアップすれば大井町のほうが近いかもしれません。つくづく関東在住以外の人に優しくない文章ですね。生乾きの髪の毛が、やけに強い日差しにじりじりと焦がされていきました。実に天気がよく、そういえば日焼け止めを塗り忘れたことに10分歩いてから気づきます。引きこもりのなまっちろい肌に、こんがり焼き目がついてしまう……。後悔先に立たず。そして例の塔は、蜃気楼のように私の前に現れました。
オアシスだ!
喉がからからの私はまずアイスコーヒーを探し求めてしまいましたが、そこは自分を律します。カフェに入ったら最後、チルってしまうことが目に見えていました。そんな時間は私には残されていません。ウィンドウショッピングだって許されない。今日こそは絶対整理番号通りに入場したい。とにかく! 推し! 最優先! ドライヤーを買ってご飯を食べて早々に退散するのみです。
早速、電子案内に足を運びました。日本語にも対応している! やったあ! 意気揚々とタッチして、すぐにまた絶望しました。翻訳しようとも、店の名前を見たところでそれがなんなのか全然わからない。え? どれがなに? ユニクロはわかる。フライングタイガーもわかる。ルイヴィトンだってわかる。でも、肝心の電気屋はどれ? 1階をさまよい、2階をうろうろし、階数の多さにくらくらして、諦めてエレベーターの近くに居たスタッフさんを捕まえました。ドライヤーはどこで買えますか? 私の下手くそな英語を3回くらい聞き直してようやっと、スタッフさんが「3階のハイマートというお店です」と教えてくれました。
駆けつけて、とにかくいちばん安いものを手にとります。どうせ帰ったら使えないのだ。温風しか出ないと次の日にわかりましたが、必要十分でした。店員さんに渡して、カード使えますか? と英語で聞くも、名倉の発音は相当悪いのでしょう、全然聞き取ってもらえない。では、と翻訳アプリを持ち出して気づきました。
モバイルWi-Fiにつながっていない!
最初は、モール自体のWi-Fiが干渉しているからかと思いました。とりあえず、どうにか身振り手振りでドライヤーを買って、これまたジェスチャーを駆使しユニクロでナップザックを確保して、電子案内と10分見つめ合ってレストラン街を見つけ出し、お店でコムタンを待ちながらモバイルWi-Fiを確認。
電池が切れている。
なんで?
昨日ちゃんと充電した覚えがあるのに……。
発達障害特有の大パニックに陥りかける私のもとに、コムタンが届きました。腹が減っては戦ができぬ。薄味ですが、牛肉の旨味が優しく舌を包んでくれます。つけあわせのキムチ、これが、美味しい! きゅんと酸っぱくて、なんだかコクがあります。ただ、その強い味に支配されて途中からコムタン自体の味はよくわからなくなりました。正解の食べ方だったのだろうか? もしかしたら、キムチは最後に食べるものだったのかもしれない。
ホテルに戻ってわかりました。Wi-Fiと一緒にレンタルした充電器が壊れている。よりにもよってUSB-B端子なのが最悪だなと思いましたが、幸いケーブルが取り外せるタイプだったので、自前の充電器でなんとかしました。
さて、どうするか。バーチャル存在にとってオフラインという状況は死を意味します。名倉有夢《あむ》はそのとき、確実に死んでいました。どこにも発信できない。誰とも話せない。無人島に漂流したような気持ちでした。
そして、名倉有夢の皮を被った障害者の私も、死にかけていました。英語も韓国語も道もわからない。何時にどこに集合してなにをしなくちゃいけないのかもわからない。ADHDにとって、スマートフォンは杖です。眼鏡です。補聴器です。すべての情報をデジタルに集約しておけば、なくさないから。タスクを管理するアプリを使って、アラームをかけておけば、忘れないから。本当に心細くて仕方がありませんでした。
よかったのは、前日バスで失敗した分、地下鉄で会場まで行く道のりを覚えていたこと、そしてその道のりが簡単だったこと。時間ギリギリまで充電して、スマートフォン用のモバイルバッテリーをWi-Fiのほうにつなげて、スマホもWi-Fiも使うとき以外は電源を切っていました。
既に疲れ切っていましたが、なんとか地下鉄に乗り、整列番号通りに並ぶことができました。しかし、とにかく暑い。連日30度超えでした。実は天気がよくわかっておりませんで、うっかり長袖なんか持ってきていたので着られるような服がなく、慌ててライブTシャツを購入しました。せっかく概念コーデを組んだのに、到底着られそうにありません。
肝心のライブですが、ものすごくよく見える! 前から3列目くらいだったので、メインステージでのパフォーマンスの、表情まで見えていました。なんなら、メンバー同士向き合っているときにそっとイヤモニを直してあげるシーンなんか目撃しちゃって大発狂! てぇてぇなぁ……。
帰り道、疲れがどっと出たのか、普通に電車を間違えました。各停じゃなきゃいけないのに、普通に急行に乗りました。私はどうやってもすんなり行き帰るだけのことができないようです。
さて、夕飯。せっかくなら韓国料理が食べたい! という気持ちは山々なのですが、韓国の居酒屋はひとりお断りだと聞いていましたので、ものほしそうな目をしながらソンパナルをうろつきました。面白いことに、ソンパナルにはやたら日本料理屋が多い。焼き鳥(看板にYAKITORIって書いてある)とか、寿司とか。それからまあ、ド定番のサムギョプサル。ふらふら歩いていて発見したのは、看板も内装も日本風なのに中華料理のお店です。
怪しいが、可愛い。外からでもSLAM DUNKや鬼滅の刃のポスターがペタペタ貼ってあるのが見えます。
韓国で、日本風の中華を食べる。
わけわかんないけど、それもまた一興では?
それに、日本風ならひとり飯も許されるのではないかと思って突入してみました。
ダメ元で、日本語通じます? と半笑いで言ってみたら、おにいさんが片言の日本語で対応してくれました。優しい!
味に期待なんかはせず、腹が満たせればいいやと思い、焼餃子と黒胡椒手羽先と、レモンクリームエビという謎の料理を注文。
あれれ、どれもびっくりするくらい美味しい!
看板メニューの焼餃子は、皮こそ引っ付いてちぎれているもののそれが手作り感マシマシで、めちゃくちゃ美味しい家庭の餃子といった趣。醤油とラー油、酢胡椒の2種類のタレの配合比率を、先ほどとは違う店員さんが丁寧に英語で教えてくれました。そんなことしなくても、日本風餃子のタレの作り方なんか百も承知なのに……と思いつつ、従いました。きっと日本の焼き餃子という食べ物に強いリスペクトとこだわりのあるお店なのでしょう。他の2つも、なんだか甘じょっぱい味付けが、たまらない止まらない! 味が濃い目だったので、お酒が好きな人はより楽しめると思います。お酒も日本の銘柄にこだわっているようで、翠ジンソーダとかが置いてありました。禁酒していなければ、是非合わせて飲みたかった。
「お食事は美味しかったですか?」
お会計時、最初の店員さんが、日本語で心配そうに聞いてきました。びっくりしちゃって上手く返事できなかったのですが、美味しかったですよ、と答えると、よかったです、と安心したように笑って、いちご味の飴玉をくださりました。もしかしたら、彼こそが日本大好きなオーナーさんか店長さんだったのかもしれません。
飴玉を舐めながら、今日のことに想いを馳せました。日中こそバタバタしたものの、コンサートはすごくよかったし、夕飯は美味しかったし、よい日だったな……。足裏シートを貼り、着圧ソックスを履き、穏やかに眠りにつきました。
https://twitter.com/anagramargura
https://www.youtube.com/@nAgra_aM
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