何かになれなくても生きる意味がある、映画『あん』を観て
昨日、映画『あん』を観た。
不自由さの中で生きる人々の物語。切なく、美しい人の姿が描かれていた。
生きる意味とは? 働く意味とは?
映画を観る中で、そんな問いが何度も浮かんできた。
序盤から、いくつかの疑問を抱えながら映画を観た。
とくえさん(樹木希林)は、なぜ時給600円のどら焼き屋で働こうと思ったのだろう。
70歳を過ぎて、立ち仕事で思いものを運ばなければならない時もある。
最初は、孤独なのかな、と見ていた。旦那さんが亡くなって、独りぼっちで…。人間、社会とのつながりが必要だよな、なんて。
店長さん(永瀬正敏)は、なぜどら焼き屋の店長をやっているのだろう。
愛想が特別いいわけでもなく、煙草をプカプカ吸ってる様子は、とても好きでやっているようには見えない。何か事情があるんだろうな、と見ていると物語は進んでいく。
とくえさんは、ハンセン病だった。中学生の頃から隔離され、働いたり子どもを産んだりすることができないまま、歳をとった。
店長さんは、多額の借金を抱えていた。喧嘩の仲裁に入ったところから、ヒートアップして相手に大きな障害を負わせた。その慰謝料を肩代わりしてくれた人が経営しているどら焼き屋で働いているのだった。
二人とも、不自由さの中で生きているのである。
とくえさんは、高校生と話す場面で
もっと好きなことをやればいいのよ、自由なんだから
と、しきりに「自由」という言葉を使う。
そして最後には、
私たちは、この世を見るために、聞くために、生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私たちには、生きる意味があるのよ。
と、残す。
就活をするようになって、何のために働くのだろう? 何のために生きるのだろう?とよく考えるようになった。
いつも答えは出ないのだが…
私は、映画館でバイトをしていて、『おかえり、寅さん』の予告を何度も観た。
その予告で寅さんは、
生まれてきて良かった、って思うことが何べんかあるじゃない。ね、そのために人間生きてるんじゃないかい?
と言う。
私たちは、夢を叶えることが素晴らしいと言われる世の中で生きている。保育園、小学校、中学校、必ず将来の夢を聞かれ、作文を書いたり絵を描いたり、何かを成し遂げなければ、と思ってしまう。
夢を叶えれば、とくえさんの言う、見える景色や聞こえる音はもっと広がるのかもしれない。
寅さんの言う、生まれてきて良かった、と思える瞬間にたくさん出会えるのかもしれない。
でも、生きる意味っていうのはもっと単純で、
日々を過ごす、ことだけで価値があるのだと思った。
日常生活の中で、大切な人とご飯を食べたり、散歩をして夕焼けが綺麗だったり、そんな一瞬に出会うことが生きる意味なのだ。
夢を叶えなければ、何かを成し遂げなければ、と考えることが、不自由さになることがある。
小さい頃から、夢を叶えることの素晴らしさを植え付けられているから、そんなある種の強迫観念に縛られてしまう。
ただ、そんなことは全て取っ払って、
自分が心地よく生きていける範囲で、自由に暮らしていけばいい。
『あん』は、そんな生きる意味を教えてくれる映画であった。
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