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白紙の人生

『もし人生に価値をつけるのなら、どれぐらいの値段で売れるんだろうか』そんなことを頭の中で考えながら、白紙のキャンパスに藍色の絵の具を塗る。

空は青く澄みわたり、街に鮮やかなグラデーションをかける。風は行き交う人たちの言葉を拾い集めて、ヒューヒューっともてはやすように、声をあげながら街中を駆けめぐる。悲しみなどはなから存在しないかのように、自然は気ままに唄いつづける。僕は触れたら壊れてしまいそうな景色を、ただ眺めながら、キャンパスに筆を滑らせていた。

人もキャンパスのように、生きていると沢山の色に染まっていく。嬉しかったこと。悲しかったこと。楽しかったこと。辛かったこと。それぞれの感情が重なりあい、心のキャンパスに色づいていく。自身の経験や出来事によって色に違いがうまれて、その人にしかないオリジナルの作品(人生)が完成すると勝手に妄想している。

僕は自分の人生を売りたい。自分の生き方が正しいか、正しくはないのかなんて誰も教えてくれはしない。人生の評価を決めるのは自分自身で、どんな終わり方を描くのも自分自身だ。

だけども、僕は僕の人生を肯定することも否定することもできない。今の生き方が正しいのか判断できるほど立派な人間ではないから。生きることに精いっぱいで、日に日に大切なものが手からこぼれ落ちていく。失ったものを取り返すのは、そう容易くない。でも失うたびに、輝きが増していくはどうしてだろう。分からないな。

このまま風に吹かれて消えることができたのなら。
そんなことを願ってしまう。

そしたら、これ以上心のキャンパスが汚れることはないだろう。様々な色が重なり合うと黒色になるように、淀んで濁った色が心をよごしている。ただ、思い出だけが輝いて見える。きっと僕にはそれしかないからだ。

この眺める景色だけは何も変わらない。汚れもされず、あるがままを映し出す。僕はその変わらない景色を一枚の絵として残す。不変の美しさは、人に生きる喜びを教えてくれる。明日を生きる理由にもなる。そんな眺めを僕は大事にして生きていたい。

このまま青の続きを描かせてほしい。そして、透明で純粋な思い出に、藍色の絵の具を塗ろう。それがたとえ哀に染まったとしても、いずれ鮮やかで綺麗な愛色に染まるだろうから。

だから、もういいんだよ。
心が汚れてもいいよ。壊れていてもいいんだよ。
きっと世界は美しいままなのだから。
透明ですき通る世界に愛色の絵の具を塗ろう。

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