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ガタガタ言ってると三枚におろしちゃうぞ

無許可で魚を路上販売していた男が逮捕されたとニュースで聞いた。違法販売だけでなく、さばいた魚の残り屑をいつも路上の排水溝などに放置しており近所の住人から度々通報されていたというので、お縄になったのもいたしかたあるまい。まあ生臭い事件である。

しかしである。魚をさばくという行為には何とも言えない魅力がある。私も一時期、魚を下ろすのに大変凝った時期があった。ある日私は何かのはずみで魚のおろし方を知り、興味半分に自分で試して見たところ想像以上に仕上がりが良く、いつもの悪い癖でどんどんのめり込んでいったのである。

基本的に何事も一旦始めたらとことんまで突き詰めたいというのが私の信条である。そしてどうせやるなら何をするにも思い切り全力をつくしたい。そんな訳で、ウォシュレットの水流も常に「強」である。

魚の調理は奥が深い。経験を重ねれば重ねるほど、どんどん迅速におろせるようになるので、そこが面白い。また、繰り返し魚をさばくうちに色々新しい効率的な手順も思いつき試して見たくなる。どこかスポーツや芸術に通じるものがある。

青魚などはあまり時間をかけてさばくと手の温度で油が溶けてしまい味が落ちるので特に手早くさばかなければならない。また切れ味の悪い包丁を使うと細胞をつぶしてしまい舌触りが悪くなったりもする。

私の中学時代の同級生のひとりが寿司屋をやっているのだが、そいつの包丁は研ぎながら長年使い続けているものが多く、もともと刃渡り30センチくらいあったものが、5~6センチほどになっているものもたくさんあった。まるで忍者が投げるアレのようだった。(名前がわからない)

忍者のこれ

私はそいつに築地の老舗包丁店を聞いてマイ包丁を買いに行ったこともある。考えて見れば入れ込んでいたものである。その時期は毎週ひまがあれば魚をさばいており、友人の家に遊びに行く途中で魚を買って行き台所を借りてさばくこともあり、時に喜ばれ、時に迷惑がられた。

魚は自分でさばいて直ぐに食うと実に美味い。そして好きな方法で好きなだけ食える。さすがに職人が下ろしたような完璧な仕上がりにはならないので、タタキやズケにしてしまったり、生姜や山葵、時にはニンニクなんかでごまかしたりすることも多いが、それでも美味い。そしてそこに数枚の青じそ、君がいればもうあとは何もいらない。どっかで聞いた唄のセリフのようだがホントにそうなのだ。

しかし、活け造りだけは苦手で、これまで一度もチャレンジしたことがない。わざわざ半殺しにして動いている状態で食べるという行為に何の価値をも見出せないのである。グリーンピースの回し者でもなんでもないのだが、不必要にそんな残酷な行為をする必要はあるまい。目なんか合ったら絶対食えない。

人間の罪な発明、活け造り


ところで、どこかで見たアニメの登場人物が相手を脅す文句として「おろすぞ!」と言っていたが、「ころすぞ!」よりある意味怖いセリフではないだろうか。生きたまま三枚にすると言っているのである。

と色々書いたが、無許可販売ニュースのおかげで、しばらく忘れていた魚を下ろすという趣味を思い出した。せっかくの鯵が旬の季節、時間を見つけて三枚下ろし三昧をして見ようと密かに考えているのである。


(了)

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