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amme
2024年5月7日 01:26
蘭の花は、ある日突然そこに置かれていた。 朝、出社したわたしは、スチールでできた書類棚の上に大きな白い蘭の鉢植えがあることに気が付いた。「立派な蘭の花ねぇ」わたしのすぐあとにやってきた、先輩の上野さんが感心したように呟いた。たしかにその蘭の花は、しなやかな細い茎の先に厚みのある花をいくつも咲かせていた。近寄れば、甘ったるい香りがかすかに鼻をかすめた。「誰が持ってきてくれたのかしら」上田
2024年2月10日 22:24
土曜日の午後は川べりに座って、スケッチブックを開く。14:00ごろには、公園をジョギングしている男の子とすれ違う。たぶん同い年くらい。あまりにも毎週顔を合わせるので、何となくお互い会釈する。 そして15:00を少しすぎたところで、「小さな世界」のメロディーとともにアイスクリーム屋さんがやってくる。アイスを食べるときもあるが、たいてい私は川べりに座ったまま絵を描くことに熱中している。 都内か
2024年1月8日 23:14
その猫が来るのは、きまって晴れた日の午前7時半ごろだった。その猫は、白と黒のまだら模様をした大きい体をしていて、ちょうど牛のように見える。牛のような猫は、僕の自宅の窓から見える位置――となりの家の屋根のはしの方――で丸くなり、日が高くのぼるまでの時間そこで過ごしていた。 猫がどこから来て、どこへ帰るのかは、全く分からなかった。 不思議なことに、猫の来る日はたいてい晴れになるのだった。天気予
2024年1月5日 23:17
ここから北に30キロほど先にある町は、かつて大きな銀行が林立する金融街だったんだ。今から60年は前の話か。もうすっかり忘れ去られた町になってしまったが、裕福な銀行屋が行くような豪華なレストランや宝飾店が当時はいくつも並んでいた。 昔その町で、時計屋をやっていた建物がある。重厚な石でできた4階建てのビルだ。ビルの壁面に使われた黄色に近い色合いの石は、わざわざ西の海岸から取り寄せたものだと聞いて